局地的な豪雨を避けるようにして、9月1日から5日まで一輪車講習会が、紀伊半島の5つの学校で開かれました。講師は、昨年度に続いて2度目の干場明日美さんと初めての津田稚奈さん。2人とも全国大会で優勝した経験のある現役の選手で、数日前まで全国大会に出場していました。まだ、競技の緊張が残っている中での講習会で、やさしく熱のこもった指導に児童たちは、楽しみながらめきめきと上達していました。
《和歌山県かつらぎ町立梁瀬小学校=谷口純久校長、10人のほか4校》

紀ノ川と並行して走るJR和歌山線の電車は、木々をかき分けて行きます。所要時間は約50分、笠田(かせだ)駅で降りると、小さな駅のベンチにおばあさん3人が座って談笑していました。のんびりとして、遠い昔の田舎の風景を思い出させてくれました。
駅前からコミュニティーバスに揺られて1時間、途中豪雨に遭ってやっと宿舎の「花園ふるさとセンター ねむの木」に着きました。ここは高野山から5キロほど離れた旧花園村。1953年の集中豪雨で111人の犠牲者が出ましたが、村民が力を合わせ、復興していたというのです。
9月1日、梁瀬小学校から少し離れた花園中学校に向かいました。谷口校長が「自分の学校だけではもったいない」と、近隣の小学校にも参加を呼びかけたため、中学校の広い体育館を借りたのです。
集まったのは、簗瀬小と同町立天野小、新城小、志賀小、高野町立花坂小の児童合わせて43人。乗れる子も乗れない子も、うまい子もさまざま。しかし、みんな元気一杯。
最初は、干場さんと津田さんが、片足走行やタイヤ乗り、横乗りや蹴り上げ乗車、ハーフスピンや連続スピンなどの技術を紹介しました。そして、ふたりが、スピーディーで華麗な演技を披露すると、児童、先生は、「うわーすごい」と歓声を上げながら、盛んに拍手を送っていました。その後、一輪車に乗れる子と乗れない子に分かれて指導。児童も応えて懸命に練習、2時間弱で全員がめきめき上手になって、干場さんも「みんなすごい」と感心していました。
《和歌山県有田川町立五西月(さしき)小学校=佐々木俊博校長、13人》

2日、紀伊半島の緑の豊かさに感心しながら、JR藤並駅から車で学校に向かいました。栃木県・日光のいろは坂を思わせるような、急カーブの連続、約40分かかって、やっと着きました。「学校の近くにウサギやカモシカ、キツツキも姿を見せます」「一番遠くから通っている子は1時間もかかります」と佐々木校長。坂道の通学は大変ですが、それだけに子どもたちの日焼けした顔や手足はたくましい。
干場さんと津田さんは、前日と同じように、片足走行やタイヤ乗りからむずかしい連続スピンなどの技術の紹介と模範演技。先生も児童も感激して盛んな拍手を送っていました。同校は、全員、一輪車乗りが上手で、アイドリングや片足走行もスイスイできる子もいて2人の講師もビックリ。丁寧で熱心な指導でさらにレベルアップ。最後は、9人で手をつないでチェーンをつくり輪をくぐり抜けていくループも成功、「吸収力がすごい!鳥肌が立つほど感激しました」と干場さんも津田さんもビックリしていました。
《三重県紀北町立三浦小学校=濱田一孝校長、37人》

3日目は県境を越えて三重県に入り、尾鷲市を過ぎると紀北町。この辺一帯は日本でも有数の多雨地帯で、豊かで濃い緑に包まれています。学校のすぐそばは太平洋。アジやイセエビや貝類が豊富で青々とした海が広がっていました。この沖合に無人島があって、地域の人が子どもたち全員を船に乗せて、見学に連れて行ってくれるそうです。地域の人々が学校と子どもたちを支えています。
一方、子どもたちは毎年、山に登って広葉樹を植林してきます。降った雨が山の栄養を吸って、海に流れていきますが、それが海の豊かさにつながっていくといいます。「それでこの辺の魚介類はおいしいんですよ」と、濱田校長が説明してくれました。「学校と病院がなくなると地域の活気がなくなる」といわれますが、住民と子どもたちが交流しあって、地域を元気づけているように感じました。
濱田校長の話を聞いているうちに、いよいよ講習会の始まり。「1年生や5、6年生の一部が乗れないような状況ですが、運動会で全員が乗れるようになれればいいのですが」という先生方の期待を受けて、子どもたちは、汗をかきながら熱心に練習。転んでも起き上がり、再チャレンジ、めきめき上達していきました。
《紀北町立海野小学校=大川峯博校長、36人》

三浦小学校近くのJR紀勢線三野瀬駅の隣の駅、紀伊長島駅から車で約10分のところが、海野小学校。ここも自然に恵まれてサルやイノシシが姿を見せるそうです。体育館の軒下にスズメバチが巣を作っていました。「少し駆除したので大丈夫ですが、少しだけ気をつけていてください」と大川校長。
子どもたちは全員一輪車に乗れるということでしたが、先生自身がうまく乗れないので、これまでの一定のレベルをどう超えさせるかが、大きな課題だったといいます。
みんなバック走行や片足走行をしたり、そのうち横乗りに挑戦したり、レベルはどんどん上がっていきました。最後は、手をつないで、ループに成功、さらにメガネループもできて、津田さんは「とてもレベルが高くてビックリ」と感激していました。
《三重県大紀町立大内山小学校=尾上信市校長、67人》

最終日の5日は、シャワーのような雨に見舞われました。学校は、JR大内山駅から徒歩5分と近くにあるのですが、傘が役に立たないほど。「申し訳ありません」といいながら、この近距離を先生に車で迎えに来てもらいました。
児童数が多く、一輪車の台数も足りなくて、1〜3年生と4〜6年生に分かれての講習会になりました。干場さんと津田さんは、始まる前に先生と一緒に一輪車のタイヤの空気、ペダルなどの点検。そして、全員に「サドルの位置はおへその位置、ペダルはぐらぐらしたらダメですよ」などとアドバイス。
低学年は一輪車に乗れない子がほとんどでしたが、津田さんや干場さんが、乗るときの姿勢や目線、ペダルの位置などを教えると、目を輝かせて乗車に挑戦していました。
この後は、高学年。同じように姿勢や目線、ペダルや足の位置などについて話すと真剣に聞き入っていました。中には難しい技ができる児童もいて、汗を流しながら、レベルアップしていきました。
《写真上から》
・インストラクター・津田さんの説明を熱心に聞く子どもたち=和歌山県かつらぎ町の梁瀬小学校で
・熱心に練習、どんどんうまくなっていきます=和歌山県有田川町の五西月小学校で
・インストラクター・干場さんと手をつないで走ります=三重県紀北町の三浦小学校で
・「すごい」。むずかしい集団演技に成功しました=三重県紀北町の海野小学校で
・準備していよいよ一輪車乗りに挑戦します=三重県大紀町の大内山小学校で
(2008/10/01)