読んでみたい本



  ベルマーク新聞の「読んでみたい本」のコーナーで20年以上、児童・生徒・PTA向けに、本を紹介し続けている児童文学者・鈴木喜代春さんの「書評コーナー」を、ベルマーク財団のホームページでもご紹介します。書評は3カ月に1度更新していきます。


『平和をつくった世界の20人』
ケン・ベラー、ヘザー・チェイス著、作間和子、淺川和也、岩政伸治、平塚博子訳

 どんなに、よい理屈を言っても「戦争」は「人間」を「殺す」ことになる。
 この一冊には「人間」を「生かす」「平和」づくりに生きた人物20人が、とりあげられている。
マハトマ・ガンディー(非暴力による抵抗)、マザー・テレサ(愛を行動に表わす)、コールマン・マッカーシー(平和を教える)などなど。  小さな新書版であるが大きくて重い一冊である。中学生向き。

岩波書店・本体840円+税

『地球が回っているって、ほんとう?』
布施哲治著

 この本は「小学生のやさしい天文学」を、次の項目で追求した一冊である。
<はじめに>地図のような平面ではない地球。<第1章>地球はボールみたいに丸い。<第2章>太陽もボールみたいに丸い。<第3章>月の見え方のふしぎ。<第4章>月の形は、なぜかわる?<第5章>地球は、太陽のまわりを回っている?<第6章>地球と月が生む現象。<おわりに>太陽、地球、月、そして惑星。
 この順序で、子どもたちにとって、はるかに「遠い」「天文学」を、みんなが解るように、近いものにした。
 日本の科学教育をあかるくする一冊である。小学校上級以上向き。

くもん出版・本体1200円+税

『閉塞(へいそく)感のある社会で生きたいように生きる』
シューレ大学編

 偏差値絶対、点数絶対の教育になり「人間」が否定されることに対して、子ども達は「登校拒否」で抗議した。登校拒否した子ども達の「学び」を保障する学校として「東京シューレ」もつくられた。
 この東京シューレなどに学んだ児童、生徒、学生が「学ぶ喜び」の「大学」をつくりあげた。それが「シューレ大学」である。「シューレ大学」には「年限」も「出席の義務」「単位の概念」「点数の評価」などはない。あるのは「人間」の「自分」で、自分から始まるのが、「シューレ大学」である。
 一読して私も入りたくなった。中学以上向き。PTAの読書会で取りあげたい。

東京シューレ出版・本体1600円+税

『絵でわかる四字熟語』
監修・たつみ都志、編著・株式会社どりむ社

 「人間」は「ことば」である。「四字熟語」も、みごとに「人間」をとらえる。
 45頁を開くと「起死回生」が出てくる。この四字熟語の「意味」「解説」「使い方」が出ていて、太い線の絵も出ている。これで「起死回生」を適確にとらえさせる。
 このようにして、一冊に104の四字熟語をとりあげている。
 小学校中級以上向きの本であるが、親もそばにおいて、ときに頁を開いて、1頁だけ、その都度、読んでみたくなる、楽しみな本である。

PHP研究所・本体1200円+税

『ちいさなまち』
ふじたしんさく作・絵

 冬の日、お兄ちゃんは、小さい妹と2人で、小さな町の散歩に出かける。
 おじさんが、川で釣りをしている。風が吹いて川はいろいろな葉っぱで、いっぱいになる。
 ポツポツと雨が降り出し、妹は泣き出しそうになる。家が見えた。2人は駆け出す。 「お兄ちゃんと、小さな冒険をしてきたんだよ」と妹は言う。しばらくすると雨は雪にかわり、小さな町は、まっ白になる。
 2人にとって初めての散歩は、それはそれは大きくて「絵本」の「絵」のように、美しい散歩であったのだ。小学校初級以上向き。

そうえん社・本体1200円+税

『みんながそろう日』
ヨーケ・ファン・レーウェン、マリカ・ブライン作、野坂悦子訳

 物語の舞台はモロッコで、1960年から70年代に、学生や市民による抗議活動がさかんになっていた。
「みんながそろう日」の家族は、私(少女ジマ)と、父と母、上の兄のアムラと、メディ、姉のケンザと弟のブラヒムと妹のアミマの8人家族。
 学生運動に加わった兄のアムラは、ビラを配って逮捕され、下の兄のメディも逮捕される。
 ところが、父も母も、そして姉も妹、弟も、希望を捨てない。みんなで明るく支えあって、家をまもり、逮捕された2人の兄と面会を続け、励ます。そしてとうとう2人の兄を取り戻して、みんなそろう日をつくりあげる。家族の温かさ、強さがせまってくる大きな本である。中学以上向き。

鈴木出版・本体1600円+税

『リンカーン大統領のせいじつなことば』
ドリーン・ラパポート文、カディア・ネルソン絵、もりうちすみこ訳

「87年前、われわれの父祖は、この大陸にひとつの国を誕生させました。なによりも自由を重んじ、すべての人は、生まれながら平等であることを実現しようとする新しい国です」
 このほかに「リンカーン」の言葉を、18とりあげている。「リンカーン」は、この言葉どおり、アメリカ合衆国を、平等な自由の国につくりあげたのである。
 この一冊は、世界の子どもが読みあって「平等」「自由」「平和」を考え、すすめていく勇気を与えてくれる本で、うれしい。小学校上級以上向き。

国土社・本体1500円+税

『雪の結晶ノート』
マーク・カッシーノ、ジョン・ネルソン作、千葉茂樹訳

 土ぼこりなどのチリのまわりに水蒸気がくっついて、水のつぶになる。つぶがこおって、氷のつぶになり、さらに水蒸気がくっついて六角形の結晶になる。さらに水蒸気がくっついて6本の枝がのびる。枝は成長をつづけ、枝から小さな枝がのびていく。こうして、美しい雪の結晶ができあがる。湿度や気温のちがいによって、ちがった結晶ができてゆく。 「雪」の結晶のみごとな写真は季節をこえて、自然のみごとさと、発見の楽しさをつかませてくれる。小学校中級以上向き。

あすなろ書房・本体1200円+税

『りんごひろいきょうそう』
宮川ひろ作、鈴木まもる絵

◎1歳のタッちゃんの赤い帽子が、風にとばされる。それを拾った郵便やさんがタッちゃんの家の郵便ポストへ入れてくれる。
◎保育園の運動会で、まなみは「りんご拾い」に出た。赤いりんごを持って走るがころんで、りんごがお客さんの中へころがっていく。
 まなみは追いかける。皆はゴールしてしまう。園長先生は、まなみがゴールするのを待ってあげる。
 心がホカホカと温かくなるお話が5篇、収められている。とっても優しくて温かい。1年生を力づける一冊だ。幼児以上向き。

小峰書店・本体1100円+税

『あいうえたいそう』
木坂涼文、スギヤマカナヨ絵

 はじめに「口を大きくひらく」「もにゃもにゃもむ」。そして始める。はじめはゆっくり、次第に、はやくちで言う。
「あいうえ、あいうえ、あいうえお」「いうえお、いうえお、いうえおあ」このように「らりるれろ」まですすむ。
 なお「絵辞典」「ストレッチ体操」もついている。
 身体的表現によって「五十音」を身につける、創造的な、すばらしい一冊である。幼児以上向き。

偕成社・本体1000円+税

『ホネホネどうぶつえん』
監修解説・西澤真樹子、写真・大西成明、文・松田素子

 この本は「ほね」の「動物園」といえる、すばらしい本だ。「ゾウ」の「ほね」は、がっちりして、たくましい。でも「はな」はない。「はな」には「ほね」がないのだ。でも強い筋肉で、できているから、よく動くのだという。シマウマ、コビトカバ、キリン、アナグマなどなどと、動物の「ほね」がつづく。「ライオン」は「ねこ」の仲間で、「ねこ」の骨ににている。
 最後に「ホネホネ動物園へゆく」という「解説」が8頁あって、詳しく説明をしている。見えない「ほね」を見せて、よりはっきりと動物を解らせてくれる喜びと驚きの絵本である。小学校初級以上向き。

アリス館・本体1500円+税

『ごうた、1年生でしょっ』
すとうあさえ文、おおしまりえ絵

「ごうた」も「かな」も1年生になる。家は隣りどうし。1年生のクラスもいっしょ。
 でも「ごうた」はいたずらっ子。勉強中に「かな」に毛虫をつける。「かな」は「キャー」と声をあげる。「かな」は、いたずらの「ごうた」を「誕生会」によばない。いたずらの「ごうた」は「かな」の誕生祝いに「たんぽぽケーキ」をつくってくれる。「かな」はやさしい「ごうた」を発見して「ありがとう、ごうた」と叫ぶ。2人をつなぐ「人間」の温かさが、目に見えてきて、心がホカホカとあつくなる。小学校初級向き。

文研出版・本体1300円+税

『じぶんの木』
最上一平作、松成真理子絵

 山の中の村。人口がへりつづけて、小学生は、わたる1人になってしまう。
 友だちは「伝じいちゃん」だけ。その「伝じい」が病気になって入院する。わたるは自転車をこいで、見舞に行く。「伝じい」から昔話を聞くのが楽しみだ。伝じいは、わたるに話した。「人が生まれると、どこかにポッと、同じように木が芽を出す」「これが自分の木」だと言う。「わたるの木も、伝じいの木も、どこかに生えている」という。
 そして伝じいは亡くなる。
 でも、伝じいの「いのち」と、わたるの「いのち」は、「いのちの木」となって、生きてゆくのだ。すばらしい「いのち」を見せてくれる本である。小学校初級以上向き。

岩崎書店・本体1300円+税

『セラピー犬からのおくりもの』
ローリー・ハルツ・アンダーソン作、中井はるの訳、藤丘ようこ画

 盲導犬や救助犬は知っている。ところが病人を癒やす「セラピー犬」は、あまり知られていない。この本は、病む人の身体と心を癒やす「セラピー犬」の物語である。
 小児がん専門病院に、セラピー犬の「モグモグ」が行く。すると小児がんの子どもたちが、生きかえったように、目を光らして喜び、元気になる。
ところが、その「モグモグ」が病気で死ぬ。
ゾーイは自分の飼っている犬のスニーカーを、セラピー犬にする訓練に熱中する。「人間」の「いのち」と、犬の「いのち」が、ともにもえて、キラキラと光る一冊で、とても美しい。小学校上級以上向き。

金の星社・本体1400円+税