2026年7月号 読んでみたい本
(2026/07/10)印刷する
児童文学評論家 藤田のぼる
絵本
『らっこもじゃもじゃっこ』(かんちくたかこ・文、高久至・写真、アリス館)
らっこの写真絵本はこれまでもあったと思いますが、この絵本は、タイトルが示しているように、らっこの体毛の「もじゃもじゃ」ぶりがモチーフになっています。後書きによれば、ラッコの体は、1cm四方に12~15万本の体毛がうわっているということで、そこに空気を貯めて、水に浮かんでいられるわけです。写真とさまざまな擬態語が組み合わされた場面の連続で、「かわいい」という印象はそのままに、ラッコの生態の“秘密”が伝わってきます。(低学年以上向き、1300円+税)
『おとまりペンギン』(ねじめ正一・文、降矢なな・絵、童心社)
なずなの家に、「いのうえさんちのペンギンのペンちゃん」がお泊りにやってきます。ところが、「おうちにかえりたい」と泣き、散らかし放題のペンちゃん。なずながペンちゃんのお尻をどーんと押すと、しゅるしゅると滑っていきます。それをきっかけに、「おしりどーん」遊びで大喜びのなずなとペンちゃん。ベッドの中でも、二人は“ひっつきひっつき”して、ぐっすり眠ります。二人の心模様が、楽しい言葉で表現され、「ペンギンがお泊りに来た」ことがとても当たり前のことのように思えてきます。(低学年向き、1700円+税)
『マダガスカル島へ 生物多様性をめぐる旅』(今森光彦文・写真、偕成社)
「とうとうあこがれの地にやってきた」と始められる写真絵本。この島の生き物の70%が固有種というマダガスカルの動物や植物が、画面を飛び越えてきそうに迫ってきます。また、最後に紹介されるのは、エレファントバードという鳥の卵の殻が散乱している海岸で、この鳥は400年前に絶滅しているのです。人間による環境破壊が多くの生き物を絶滅させている事実が、マダガスカルの多様な動植物の写真と重なるように、心に迫ってきます。(小学校高学年から、1600円+税)
低・中学年向け
『いいたいことがありすぎます!』(工藤純子・作、武田美穂・絵、金の星社)
学校の休み時間、りんの隣の席のひろきが、「おれ、学校やめよっかなー」と言い出しました。ピアノだって、スイミングだってやめたよ、というひろき。今度は、「学童もやめたいんだよなー」と。りんとひろきは、学童で同じ班で、ばばぬきをしている時でも、ひろきは平気でりんのトランプをのぞきます。りんは、心の中で思っても、「やめて」という言葉がなかなか出てこないのです。学童で班ごとにおやつを作っている最中に、歯医者に行くためにりんを急に迎えに来たお母さんに、ついに「いやだー」と言って、みんなをびっくりさせるりん。誰にも覚えがある「言いたいけど言えない」気持ち。りんに思わず拍手です。(低学年以上向き、1400円+税)
『ベンチのゆうれい』(マージョリー・ワインマン・シャーマット作、小宮由・訳、早川世詩男・絵、岩波書店)
公園の大きな木の下にある、古いベンチ。夜になると、二人のゆうれいが現れます。一人は男の子でベンジャミン、もう一人は女の子でジャスミン。長い夜のたいくつさをまぎらわすために、二人はこのベンチにまつわる話を、それぞれ語り始めます。友だちがいない子がベンチへの手紙を書き、それを読んだ子と友だちになった話、男の子が「このベンチに座っていると、なんだか歌いたくなる」と歌いだし、それを聞いた女の子も歌いだし、しまいには通りかかった人たちみんなが歌いだした、というお話……と、続いていきます。やがてここが“生前”の二人が出会った場所であることが明かされるのですが、舞台劇を見ているような不思議なおもしろさでした。(中学年以上向き、1500円+税)
高学年・中学生以上向き
『マユ12歳、鍛冶屋でくらしています。』(福田隆浩・作、あすなろ書房)
グループ発表の場の失敗がきっかけで、学校に行けなくなった6年生のマユ。ママにはフリースクールを勧められますが、マユが思いついたのは、田舎で鍛冶屋をしているおじさんの家にしばらく行ってみることでした。担任の先生がタブレットを使ってリモートで授業を受けられるようにしてくれたので、それを続けながら、毎日おじさんの仕事を見て、時に手伝いもさせてもらいます。
鍛冶屋の仕事の描写がリアリティ抜群で、読んでいると、マユと一緒に農具や包丁を作る場を目の当たりにしているような感じがしてきます。そして、マユが同居したことで、おじさんの家族が鍛冶屋の仕事を再認識していくプロセスも、無理なく伝わってきます。(高学年以上向き、1700円+税)
『13人の魔女への扉』(長谷川まりる・作、理論社)
13歳の少女スーの住む村には、森に囲まれた魔女の家がありました。代々の魔女は、村の娘たちの中から選ばれるのですが、13代目の魔女に指名されたのはスー。村で善良な人を表す〈フクロウ〉ではなく、ひねくれ者を指す〈イタチ〉の一人と自負していたスーにとっては、あまりに意外なことでした。指名を断ろうと魔女の家に戻り、扉を開けたスーの前に現れたのは、昔の貴族のような格好をした6代目の魔女で、ここからスーは、歴代の魔女たちに会うことになります。
これまでの魔女の事績については村に言い伝えがあり、中には「最悪の魔女」として伝えられている4代目にまつわる話もありました。時を超えてその魔女たちと会いながら、スーは、言い伝えの裏に隠された様々な事実、真実に目を開かされていきます。そして、村で進行している困った事態を止めるための、重大な決断も迫られていくのです。
これまでの様々な「魔女の物語」の、パロディーでもあり、オマージュでもあるような、不思議な物語世界の中で、自分自身と向き合うスーの姿が浮かび上がっていきます。(高学年以上向き、1700円+税)
今月のもう一冊
『織田信長 戦国の世に終わりを告げた男』(国松俊英・著、十々夜・絵、文研出版)
戦国武将の中でも、なんといっても織田信長はスターですが、その人物像については、
評価が難しいところです。その難しさの一つが、少年時代は「大うつけ」と言われ、危うく弟に跡継ぎの座を奪われそうになった信長が、長じてなぜ時代を超えるような武将になったのかという点でしょう。
この本では、織田家の家臣の次男三男を集めた「合戦ごっこ」を通じて槍の長さの大事さに気づいたり、また、鉄砲の重要性にいち早く着目し、鉄砲を作っている現場まで見学に行ったことなどが紹介され、信長の、既成概念にとらわれない奔放さや、「強さ」の、言わば原点が解明されていきます。また、当時の武将の勢力図や、足利将軍をめぐる動きなども、かなり詳しく描かれています。
その点では、かなり情報量が多く、言わば「歴史中級者」以上が対象といえるかもしれません。ただ、母親との対立、弟を討ったこと、桶狭間の戦い、秀吉との関係性など、断片的にはよく知られている信長の生涯について、その全体像を知る手がかりの書として、格好の一冊になっていると思いました。
「歴史をひらく人物伝」シリーズの一冊で、既刊は「お江」(信長の姪にあたり、後に徳川秀忠の正室になる)「真田幸村」、続刊に「葛飾北斎」「新島八重」「平清盛」などが予定されています。(中学生から。歴史好きなら、高学年も。1800円+税)


