2026年2月号 読んでみたい本
(2026/02/16)印刷する
児童文学評論家 藤田のぼる
絵本
『くっつきました』(内田麟太郎・作、髙畠那生・絵、すずき出版)
最初の見開きの左ページには、墨をはきながらあたふたと走っているタコの絵。右ページには、それを見てあわてたふうなダルマの絵。「タコとだるまがくっつきました」「だって/とってもすきでしたから」と書かれています。そして合体した二人は、「タコ・だるまちゃん」に。次はバラ、その次はしっぽというふうに、いろんなものとくっついて、その度に名前もくっついていきます。なんだかよくわからないけれど次のページが楽しみになる、内田麟太郎の世界。低学年の教室で読んであげたら、子どもたちが笑顔になりそうです。(低学年向き、1500円+税)
『おなかのなかのだいそうげん』(神尾茉莉・作、アリス館)
飲んだ水は、お腹の中でどうなっているの? お腹の中が海のようになっていて、魚たちが泳いでいるかも知れない。熱々のラーメンを食べたパパのお腹の中は、温泉になっているかもしれない。そして、ぼくが苦手な野菜サラダを食べたママのお腹は、緑の大草原に……。刺繡を使った絵が不思議な効果を生み、空想を楽しませてくれます。みんなで読んでもいいし、一人で見ても、楽しめそうです。(低学年以上向き、1400円+税)
『ラン・ガール・ラン』(アネット・ベイ・ピメンテル作、ミーシャ・アーチャー絵、やすだふゆこ訳、偕成社)
今では当たり前になった女子マラソンですが、50年程前までは、「女子にはフルマラソンは無理」というのが“常識”でした。そうした中で、1966年にボストンマラソンに女子として初めて出場したボビー・ギブ。実は、主催者からは参加を断られ、こっそりレースに加わったのです。結果は、全体の三分の一に入る順位でした。そして1972年から女子の参加が正式に認められるようになったのです。大胆な構図が、ボビーの勇気ある挑戦や、それを阻んでいた様々な“壁”を感じさせる、絵本ならではの表現になっています。(中学年から、1800円+税)
低・中学年向け
『いたいの いたいの つかまえて』(千葉智江作、あかね書房)
「いたいのいたいの、とんでいけ」は不思議に良く効くおまじないで、「いたいの」は一体どこに飛んでいったのか?という疑問は、誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか。逆上がりの練習でけがをした二年生のまなみが保健室に行くと、窓から入ってきたのはかみなり君。持っていた大きな袋には、みんなのイタイノが入っているのだ、と言います。子どもの心の世界をそのままストーリーにしたような世界を、絵も描いている作者が、ちょっとユーモラスに描いていて、読者の共感を呼びそうです。(低学年以上向き、1200円+税)
『あたしは勇者になれますか?』(荒木せいお・作、イシヤマアズサ・絵、岩崎書店)
表紙の日本語のタイトルの中に「Can I become a Hero?」と書かれていて、女の子が剣を掲げています。「あたし」というのは4年生の可乃子。運動会明けの火曜日、同じ体育係の鈴ちゃんと、校庭を眺めています。そこでは、男の子の体育係、晴彦と仁が、運動会の時に地面に打ちつけたペグを引き抜いています。ところが、最後の一本がどうしても抜けないのです。まるで、アーサー王伝説のエクスカリバーのよう。そこにやってきた“魔女”といううわさのある教頭先生も、それを口にします。試しに鈴ちゃんがやってみるとダメ。ところが、可乃子が挑戦すると、ペグはあっさり抜けたのです。「おめでとう、選ばれし勇者」と、晴彦。ここから、可乃子のちょっと不思議な体験が始まります。子どもの「もしも」が現実になっていくようなストーリー展開。でも、その「もしも」は、可乃子を救ってくれるのです。(中学年以上向き、1400円+税)
高学年・中学生以上向き
『小泉八雲と怪奇バスターズ』(小前亮・作、もなか・絵、理論社)
6年生の久保勇樹と杉原世志斗。二人の“夢”は、怪談の動画を作って配信すること。配信は親から禁止されているので、今はそのネタ集めに集中しています。そんな二人が頼りにしているのは、外国人のソレガシさん。本職は文化人類学者ですが、いつも公園で、日本の昔話の紙芝居を見せてくれます。そのソレガシさんが二人に教えてくれたのが、小泉八雲のこと。ここから第二話「耳なし芳一」、第三話「むじな」というふうに、二人の身近で起こるできごとと、ソレガシさんが語る八雲の怪談がからんでいきます。「怪奇バスターズ」は二人が考えた自分たちのチーム名で、彼らを通して、八雲の世界が意外に〈今〉と重なっていることを感じさせてくれます。(高学年以上向き、1500円+税)
『もしも君の町がガザだったら』(高橋真樹・著、ポプラ社)
海外のニュースで、日本人が一番苦手?なのが、中東ではないでしょうか。そもそもパレスチナ問題とは何か? ナチスによって被害を受けたユダヤ人の国イスラエルが、なぜパレスチナに対して仮借なき攻撃を続けるのか。この疑問についても、例えばシオニズム運動によってユダヤ人のイスラエル移住が始まったのは、ナチスが台頭する40年近く前、とか、知らないことばかりでした。また、今日のパレスチナ問題の背景に、アメリカやヨーロッパ諸国が歴史的にどう絡んでいるかも、まるで結び目を解くようにわかりやすく解説してくれています。そして、一番印象的だったのは、著者のパレスチナ人の友人への、「なぜイスラエル人は、ガザの人たちの痛みに無関心なのか?」という問いかけに対して、「日本にもパレスチナがあるじゃないか」と言われたという後書きの一節。それは沖縄のことでした。さまざまな気づきの多い一冊でした。(中学生以上向き、1800円+税)
今月のもう一冊
『異聞 今昔物語 話を集める少年と消えた少女』(森谷明子・作、佐竹美保・絵、偕成社)
「読みたい本」で紹介した『小泉八雲と怪奇バスターズ』は、八雲の「怪談」のオマージュともいえる作品でしたが、こちらは「今昔物語」のオマージュというか、この物語の誕生をめぐる謎解きのような作品です。
主人公は、荒れ果てた平安の都で暮らす少年・草太。親はなく、使い走りのようなことをして、日々を送っています。魚釣りをしていた池で年老いた僧と出会い、この池にまつわる不思議な話を聞かされます。その僧は、「さる尊いお方」の命令で、こうした古い話を集めているというのです。草太が仕入れた話を伝えに行くと、駄賃をもらえたり、食事をさせてもらえたりするので、あちこちで話を聞いてまわりますが、これに協力してくれたのが、やはり親のいない少女千萱でした。僧から話を聞いたり、自分で話を集めているうちに、草太はそうした話の不思議さ、おもしろさに、次第に引き込まれていきますが、そんな折、千萱が姿を消してしまいます。
「六の宮の姫君の話」「震旦の天狗が日本に渡ってきた話」「機転で盗人をやりすごした男の話」など、様々な持ち味の三十編近い説話が作品全体の中に組み込まれ、まるで「今昔物語」の誕生に立ち会っているようなおもしろさがあります。また、それぞれの説話についての宗太と僧との対話が、ある種の「物語論」としても機能しています。更に、そうした説話が単なる挿入話ではなく、例えば、草太と千萱がある“犯罪”を暴き出すためにひとつの話を利用するなど、「今昔物語」のオマージュというにとどまらない魅力を備えた作品に仕上がっています。芥川龍之介を始め、「今昔物語」をベースにした作品を多くの作家が手掛けていますが、これに新たな趣向の一冊が加わった感じです。(中学生から、1800円+税)


