2025年7月号 読んでみたい本
(2025/07/10)印刷する
児童文学評論家 藤田のぼる
絵本
『ひこうきがしゅっぱつします』(岡田光司・写真、岡田康子・文、文研出版)
夏休みは、子どもたちも飛行機に乗る機会があるでしょうか。この絵本は、飛行場に着陸した飛行機が、点検を経て再びお客さんを乗せて離陸するまでを追っています。その間わずかに一時間弱。新幹線の車内清掃は窓から様子が見えますが、飛行機がこんな短時間で折り返しの発着をするとは知りませんでした。そこで働く「グランドハンドリング」の人たち。一人ひとりの責任感が、画面からあふれてくるようです。(低学年から、1500円+税)
『100ねんごもまたあした』(瀬尾まいこ・作、くりはらたかし・絵、岩崎書店)
図工の時間に、先生が「100年後の世界をかいてみましょう」というので、〈ぼく〉がかいたのは、飛べる靴や一緒に暮らす宇宙人。ところが、となりの席のさくやは、真っ暗にぬりつぶして「地球なんかほろびてるよ」と言うのです。みんなの絵を教室の後ろにはってたら、見たことのない子がやってきて、100年後には昼休みが長くなって、給食のあげパンの日がふえるよと言い始めます。「100年後」シリーズ絵本の一冊目です。(低学年以上向き、1700円+税)
『キューのふるさとはボルネオの森』(黒鳥英俊・文、横塚眞己人・写真・構成、偕成社)
いま日本の動物園にいるオランウータンのほとんどは動物園生まれですが、多摩動物公園のキューは、数少ないボルネオ島生まれで、推定年齢50代後半。キューのふるさとボルネオ島は、キューが生まれた頃に比べて、熱帯雨林は半分以下に減り、アブラヤシ農園に変えられています。動物園を退職後、動物たちの絶滅を防ぐための活動をしている黒鳥英俊さんとNPOで活動を共にする写真家・横塚眞己人さんの思いがつめこまれた写真絵本です。(中学年から、1600円+税)
低・中学年向け
『図書館のぬいぐるみかします3 ぼくのねがいごと』(シンシア・ロード作、ステファニー・グラエギン絵、田中奈津子・訳、ポプラ社)
図書館で、本と一緒に借りることができる「ブック・フレンド」という人形たち。ユニコーンのぬいぐるみのキラリは、「ずっと住める家で、その家の子どものものになる」という願いが叶わず、図書館で働くアンに買われます。キラリを初めて持ち帰ったのは、この町に引っ越してきたばかりのマヤでした。まだ友だちのいないマヤの家に、母の仕事仲間の娘イザベルがやってきますが、キラリや他の人形たちの扱いが乱暴で、マヤをはらはらさせます。ぬいぐるみと人間の子どもの思いを重ねたストーリーが読者を惹きつける「図書館のぬいぐるみかします」シリーズの3作目です。(低学年以上向き、1300円+税)
『さくら図書館のひみつ』(西村友里・作、ゆーちえみこ・絵、国土社)
おばあちゃんとひいおじいちゃんの松じいが住む町に越してきた4年生の悠也。同じクラスの沙希と翔から、立て続けに「本を拾ったよ」と渡されますが、どちらも覚えがない古い絵本でした。それでも「モモタニユウヤ」と書かれてあるのです。幼い頃に松じいの家の蔵で迷子になったことがある悠也に、翔はその時悠也がタイムスリップしたのではと言い、三人で蔵の中を調べることに。そこで出てきた「モモタニユウヤ」の3冊目の本には、「さくら図書館」のハンコが押してありました。それはお寺の中に設けられた私設図書館で、実は松じいが開いたものでした。ところが肝心の松じいは亡くなってしまい、お葬式で親戚のおばあさんから、「モモタニユウヤ」というのが、戦争の時にアメリカの飛行機からの爆撃で亡くなった松じいの弟の名前だと知らされます。3冊の絵本を手掛かりに、80年の時間を越えた“出会い”の物語が展開されます。(中学年以上向き、1400円+税)
高学年・中学生以上向き
『ミクとオレらの秘密基地』(真栄田ウメ・作、カシワイ・絵、岩崎書店)
作品を紹介する時、基本的な設定とか、ストーリーの概要を書くわけですが、それでその作品を“紹介”したことになる場合と、あまりならない場合とがあります。これは後者の方か。幼馴染で漫才コンビのような5年生の男の子二人。他のクラスに転校してきた女の子が「笑わない女」だと聞き、自分たちで笑わせようと話がまとまります。女の子の家がたまたま二人の家に近く、家庭科の教材を届けに行ったことがきっかけで、話をするようになり、笑わせたい一心で、夜に女の子を二人の“秘密基地”に案内します。その秘密基地に飼っている?鳥らしきものの正体や、女の子の境遇?など、ちょっとミステリーの味わいもあり、なかなか先の読めないストーリー展開が魅力です。(高学年以上向き、1400円+税)
『やなやつ改造計画』(吉野万理子・作、あすなろ書房)
中高一貫校に通う中2の光也が、3年生になったら生徒会長選挙に立候補する決心をして、親友のヤナギに、「おまえ、協力してくれるよな」と頼むところから物語が始まります。正月に親類が集まった時、市会議員のおじさんから、いずれ自分の後継者にと、真顔で言われたのがきっかけでした。しかし、ヤナギに言わせれば、光也は偏差値60程度の「やなやつ」で、当選の見込みはないと言われます。そこで、光也の幼馴染のモリリこと森莉乃も仲間に引き込んで「選挙対策委員会」を結成、光也を「いいやつ」に変える作戦がスタートします。
生徒会長は三人の立候補者で戦われることになりますが、どんなタイプが生徒たちから支持されるのか、そもそもそれぞれの候補者がどんな経緯で立候補したのか、そのオモテとウラがなかなかリアルに描かれ、それが中学生から見た大人たちの生態とも重なり、読み応えのある一冊に仕上がっています。(中学生以上向き、1600円+税)
今月のもう一冊
『閉じこめられた「森の人」』(ミッシェル・カダルスマン作、村上利佳・訳、あすなろ書房)
「読んでみたい本」の絵本で、日本の動物園で長く買われているオランウータンを題材にした『キューのふるさとはボルネオの森』を紹介しました。この『閉じこめられた「森の人」』は、インドネシアのジャワ島東部が舞台。インドネシア語で、「オラン」は「人」、「ウータン」は「森」で、つまり「オランウータン」は「森の人」という意味なのです。
私立中学に通うマリアは、父親がインドネシア人で、母親がカナダ人。父親がカナダに留学し、両親が結ばれましたが、その父親は二年前に亡くなり、母はカナダに戻ることを望んでいます。人間と97パーセント同じDNAを持つオランウータンが、アブラヤシの木からとれるパーム油を取るための森林破壊の影響で、生息地を奪われていることを知ったマリアは、学校でそのことを発表し、「パーム油不使用」と表示された商品がスーパーマーケットで販売禁止になっていることに抗議する嘆願書を配布しようとします。しかし、そのために停学処分になる危機を迎えます。
一方、町のレストランを経営するおじの援助で公立中学への進学を果たしたアリ。そのレストランには、九官鳥の〈エルビィス・プレスリー〉と共に、オランウータンの〈ジンジャー・ジュース〉が飼われています。小さいときはケージの中で活発に動くことのできたジンジャーでしたが、大きくなった今は自由に身動きすることもできません。
チェスの大会に出るためにマリアの学校にやってきたアリは、たまたまマリアの嘆願書を手にし、オランウータンをペットとして買うのが法律違反だと知ります。ここから二人の運命が交錯し、オランウータンのために意思表明することが現在の自分の立場を危うくすることだと悩みながらも、声を上げようとします。
マリアとアリ、そしてオランウータンのジンジャー・ジュースの視点を交錯させながら、それぞれに自分らしく生きようとする三人?の姿が描かれます。物語の最後には、アリがマリアが立ち上げたブログの最初の記事として、熱帯雨林を破壊しなくても実現できる農業の方法を説明しているように、ある意味、「答」が示されてもいるのですが、問題はマリアやアリが、どうやってその答にたどりついたかで、ある意味「閉じこめられ」ているかもしれない日本の子どもたちへの、力強いメッセージでもあると感じました。(高学年以上向き、1600円+税)


