2020年6月号 読んでみたい本


(2020/06/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『ねずみくんはめいたんてい』(なかえよしを・作、上野紀子・絵、ポプラ社)

 この新作絵本を見て、ちょっとびっくりしました。実は絵の上野紀子さんは昨年亡くなられ、ねずみくんのシリーズはおしまいだと思っていたのです。説明を読むと、これまでに描かれた絵をパソコンで組み合わせて作成したとのこと。なるほど。それにしても、不自然さをまったく感じさせない仕上がりで、高い木になっていたたった一個のりんごを誰がとったのか、ねずみくんの名?推理に魅かれてページをめくる手が止まりません。(低学年以上向き、1000円+税)


『赤ちゃん キューちゃん』(藤川幸之助・作、宮本ジジ・絵、クリエイツかもがわ)

 「絵本 子どもに伝える認知症」シリーズの1冊目。セルロイドの人形のキューちゃんを、まるで自分の子どものように手放さずに世話をするおばあちゃんの姿が描かれます。こういう題材は、「説明」と絵本としてのストーリー性のバランスが大切になりますが、極力説明は抑えて、おばあちゃんの人形への愛情の意味を、読者に理解してもらえるように作られています。子どもと一緒に見ていけば、おばあちゃんの家族の表情などからも、さまざまな発見が得られるのではないでしょうか。(低学年から、1800円+税)


『虫ガール ほんとうにあったおはなし』(ソフィア・スペンサー/マーガレット・マクナマラ文、ケラスコエット絵、福本友美子・訳、岩崎書店)

 虫が大好きで、他の女の子たちから「ソフィアってへん」「きもい」と言われ、虫のことはいったん「おやすみ」にしたものの、ママがネットで紹介すると、虫が大好きな世界中の人たちからメールが寄せられたという、本当にあったお話を、絵本にしたもの。虫が好きではない子にとっても、ソフィアの哀しみや歓びが、無理なく伝わってきます。(低学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『雨の日は、いっしょに』(大久保雨咲・作、殿内真帆・絵、佼成出版社)

 学校の玄関の傘立てにたてかけられたハルくんの黄色いかさ。今日は雨が降ってきたので出番ですが、それを前に緑色の折り畳みがさに話しかけます。折り畳み傘は、黄色いかさのあこがれだったのです。折り畳みがさがいなくなると、今度は透明のビニールがさが話しかけてきます。ビニールがさもあこがれの相手でした。ようやく持ち主のハルくんがやってきて外に出た黄色いかさ。ハルくんが転んだところに風が吹いてきて、黄色いかさの冒険が始まります。かさが主人公という話はこれまでにもありましたが、この物語からは本当にかさの気持ちが伝わってくるようで、雨の日が楽しくなるにちがいありません。(低学年以上向き、1200円+税)


『8・9・10!』(板橋雅弘・作、柴崎早智子・絵、岩崎書店)

 タイトルは「バクテン」と読ませます。「わたしには夢がない」という一文で始まる、4年生の〈わたし〉の物語。ママと二人暮らしであまり負担をかけたくない〈わたし〉は、塾へも習い事にも行かず、いつも河川敷のベンチの前でダンスの練習をしています。ある日、そのベンチにさえない感じのおじさんが座っていて、2回目の時ジャージを着てきたおじさんは、見事なダンスを披露して〈わたし〉を驚かせます。おまけに見事なバク転まで。自分のダンスにバク転を取り入れたいと思った〈わたし〉は、おじさんからバク転のレッスンを受けることに。最後まで正体不明のおじさんと、学校でも周りとの距離感に腐心する女の子との、不思議な出会いの物語です。(中学年以上向き、1200円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

 ここで紹介する2冊はいずれもかなり読みでがある作品で、どちらもそれなりに〈昔〉の物語です。〈今〉との違いを受けとめ、楽しみながら読んでもらえれば、逆に今に重なるおもしろさを味わってもらえると思います。

『名探偵カッレ 地主館の罠』(アストリッド・リンドグレーン作、菱木晃子・訳、平澤朋子・絵、岩波書店)

 リンドグレーンの1951年の作品で、日本では1958年に『カッレくんの冒険』として紹介されて以来親しまれてきた作品の新訳です。スウェーデンの小さな町のカッレ、アンデッシュの二少年と女の子のエヴァロッタという、「白バラ軍」を名乗る三人組。ライバルは男の子三人の「赤バラ軍」。この二組の間では、小さな石の「聖像」をどちらが手にしているかでイニシアチブが決まります。街外れの草原に打ち捨てられた古い屋敷(地主館)にアンデッシュが閉じ込められ、聖像が赤バラ軍の手に落ちる危機が迫った時、カッレとエヴァロッタは本物の犯罪に出っくわします。子どもに対しての大人、「ごっこ」に対する「本当」の優位性が語られるのではなく、子どもの本当が大人の本当を乗り越えていくような痛快さを味わえる、「ピッピ」とは一味違ったリンドグレーンのおもしろさに出会えます。(高学年以上向き、2100円+税)


『鐘を鳴らす子供たち』(古内一絵・作、小峰書店)

 敗戦間もない昭和22年、東京近郊の小学校6年生の良仁は、比較的余裕のある家庭の子どもたちのクラブ活動である演劇部「小鳩会」のメンバーではないにも関わらず、顧問の菅原先生から、NHKのラジオドラマのオーディションに参加させられます。戦争孤児たちを描いた「鐘の鳴る丘」でした。戸惑いながらも、次第にドラマ収録にのめりこんでいく良仁。菊田一夫役の「菊井」、古関裕而役の「古坂」など実在の人物を登場させながら、敗戦後の時代と特別な形で向き合わなければならかった子どもたちの格闘が描かれます。プロローグとエピローグは菊井が死を迎えた昭和48年に設定されていて、大人になった良仁たちの「戦後」への思いが語られます。(高学年以上向き、1600円+税)

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