2020年4月号 読んでみたい本


(2020/04/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 新学期が無事に始まるのだろうかと危惧される中ですが、今回はまずは「本の本」とでもいうか、往年のヒット作(?)をもとに作られた新しい本を2冊紹介します。

 まずは『こまったさんのレシピブック』(あかね書房、1800円+税)で、故・寺村輝夫さんと岡本颯子さんのコンビで出された「こまったさん」シリーズの10冊分のレシピを集めた料理ブックです。一緒に料理を作りながら、「こまったさん」シリーズのおもしろさを子どもたちに伝えるアイテムとしても使えそうです。

 もう一冊は『短編集 あらしのよるに』(きむらゆういち作、あべ弘士・絵、講談社、1650円+税)。オオカミとヤギの禁断(?)の友情を描いた『あらしのよるに』は、まさに話題作となり、読者の要望に応えるように続編が出されていき、アニメ映画もヒットしました。この「短編集」では、なぜオオカミとヤギの間に友情が成立し得たかという背景が、それぞれに明かされていきます。作者からの、かつての読者たちへのプレゼントという感じでした。

 


絵本・低中学年向け

『そらいろのてがみ』(ながしまひろみ作・絵、岩崎書店)

 ゆきちゃんの家のポストに入っていた空色の封筒に入った空色の便せんの手紙。「もうすぐ はるがきます」と書かれ、タンポポの押し花が貼ってありました。風の匂いに、おひさまの温かさに、春を感じるゆきちゃん。今度は「もうすぐ なつがきます」という空色の手紙。というふうに、手紙と共に季節が巡っていきます。「ほぼ日刊イトイ新聞」に人気漫画を連載中という作者の初めての絵本ということですが、その絵本としての表現の巧みさに瞠目でした。なにか不思議な懐かしさを感じさせてくれる絵本、親子で楽しめます。(低学年以上向き、1400円+税)


『きみひろくん』(いとうみく・作、中田いくみ・絵、くもん出版)

 保育園の時からの友だちのきみひろ君は、かけっこも早いし、1年生になる前から自分の名前だけでなく〈ぼく〉の名前も漢字で書けた優等生。みんながきみひろ君のことをほめますが、〈ぼく〉にはいろんな嘘をつくのです。とはいっても、「オリンピックに出ないかと言われてる」とか「家で象を飼ってる」とか、笑えるような嘘ばかり。ところが「ぼくのお母さんはほんとのお母さんじゃない」と言い出し、公園の土管はアメリカにつながっているので、アメリカのお父さんのところに行きたい、というのです。満月の夜、アメリカに行くというきみひろ君につきあって、〈ぼく〉もこっそり家を出ます。2年生の男の子たちの「ウソ」と「ホント」の世界が広がります。(低・中学年向き、1100円+税)


『トラブル旅行社 砂漠のフルーツ狩りツアー』(廣嶋玲子・文、コマツシンヤ・絵、金の星社)

 タイトルは「トラブル・トラベル」と読みます。学校から帰ってきた大吾、冷蔵庫を開けると見たことのないジュースが。得も言われぬ美味でしたが、飲んだ後で「外国の友だちからもらった珍しい飲み物だから、勝手に飲まないこと」という母のメモを見つけます。頭に浮かんだのは食いしん坊の姉。全部飲んでしまったと聞いたら、どんなに怒るかしれません。あわててあちこちの店を探しますが、そんなジュースはありません。そして見つけたのが「トラベル旅行社」という怪しげな店でした。店主に話をすると、それを解決するツアーがあるというのです。ここから舞台は一気に砂漠に転換し、大吾は隊商たちと共に、フルーツを探す旅に出ることになります。ファンタジー空間に入るまでのテンポの速さ、そこからのストーリー展開の巧みさはさすが。「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」の作者の新シリーズです。(中学年以上向き、1000円+税)

  


  

高学年・中学生向き

『アリババの猫がきいている』(新藤悦子・作、佐竹美保・絵、ポプラ社)

 アリババは東京に住む、イラン出身の言語学者。両親の亡命で子ども時代に故国を離れ、いろいろな国を転々としてきました。イラン人のホームパーティーで一匹のペルシャ猫と出会い、特別な血筋というその猫シャイフを飼うことにします。なぜかアリババとシャイフは言葉が通じるのです。作品の主な舞台は、アリババが海外出張のためにシャイフを預ける民芸品店。店主の石塚さんはアリババの友人で、世界中の品物を集めていました。そしてシャイフが泊まった最初の夜、石塚さんの部屋に置かれたものたちが一斉にしゃべりだしたのです。こうした様々な不思議がアリババやシャリフのたどってきた道と符合していき、その背景にあるイランや中東の今と重なっていきます。様々な発見と驚きに満ちたファンタジーでした。(高学年以上向き、1500円+税)


『きみが、この本、読んだなら』(戸森しるこ・おおぎやなぎちか・赤羽じゅんこ・池田ゆみる作、さ・え・ら書房)

 4人の著者による連作アンソロジーで、共通点は、登場人物の誰かが主人公に一冊の本を勧めること。これも「本の本」、オマージュ短編集ともいえるでしょうか。例えば第一作の「クロエ・ドール」(戸森しるこ)では、転校してきた主人公の新しいクラスにとても気になる女の子がいます。彼女はいつも20センチほどもある人形をひざに乗せているのですが、先生も注意せず、誰も不審に思っていない様子なのです。母親にそのことを話すと、「まるで『りかさん』みたい」と、梨木香歩作のその本のことを教えてくれます。読んでみて「なるほど」と思った主人公は、今度はその女の子になんとか『りかさん』を読ませようとします。例えばこんなふうに、作品が読者を呼ぶとでもいうか、登場人物たちのドラマに、勧められた本のドラマが重なって、不思議なおもしろさを備えた一冊に仕上がっています。(高学年以上向き、1400円+税)

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