2019年8月号 読んでみたい本


(2019/08/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『あみ』(中川ひろたか・作、岡本よしろう・絵、アリス館)

 中川ひろたかさんの本は見る度に感心してしまいます。アイデアが抜群。今回の題材は「あみ」。蜘蛛の巣から始まって、漁師さんの網や網戸、虫取り網と続きます。さらにバトミントンのラケットやバレーボールのネットがなぜ網なのか、更にマスクや洋服も実は網になっている、と発見が広がります。「生活科学絵本」シリーズの名がぴったりの一冊です。(低学年から、1400円+税)


『みらいのえんそく』(ジョン・ヘア作、椎名かおる・文、あすなろ書房)

 アポロ11号から50年ということで宇宙への関心が高まっていますが、帯には「西暦2100年」とあります。遠足の行き先は月。月面から見える地球は、とてもきれいです。ところが一人寝てしまい、月に取り残されてしまいます。「遠足」という日常性と「宇宙」という非日常性がうまくマッチした楽しい絵本です。(低・中学年向き、1400円+税)


『ドーナツのあなのはなし』(パット・ミラー文、ヴィンセント・X・キルシュ絵、金原瑞人・訳、廣済堂あかつき)

 ドーナツの穴がいつ誰によってできたか、となると、「諸説ある」となりそうですが、アメリカでは1941年に二人の候補をめぐって論争があり、そこで発明者と認定されたのはハンソン・グレゴリー船長。船で働き始めてコック見習いをしていた時、砂糖をまぶした揚パンの中の方が生のままなのに気づき、穴を開けてみたというのです。その後、鉱山技師としても活躍したというグレゴリー。ドーナツからも歴史が広がります。(中学年から、1600円+税)

 


低・中学年向け

 

『ミッチの道ばたコレクション セミクジラのぬけがら』(如月かずさ・作、コマツシンヤ・絵、偕成社)

 田舎のおじいちゃんからもらった宝箱に、道ばたで集めたいろんなものをためているミッチ。セミのぬけがらを探している時に、クジラみたいな形の木のかけらを見つけて持ち帰ります。ところが、こぼした麦茶がかかると、本当のくじらのように動き始め、とりあえず金魚ばちに入れて飼い始めます。「ミッチの道ばたコレクション」はシリーズタイトルでしょうか。子どものささやかな冒険心をふくらませ、励ましてくれるシリーズになりそうです。(低・中学年向き、1200円+税)


『うそつきタケちゃん』(白矢三恵・作、たかおかゆみこ・絵、文研出版)

 父親の仕事の関係で何度目かの転校を迎えた元希。大阪から越してきたと聞いてすぐに「もとヤン」と呼び始めたのは、「迷子の宇宙人の面倒を見てて遅刻した」などと平気で話すタケちゃんこと竹中育美でした。元希の戸惑いをよそに、次の日からタケちゃんは、遠回りをしてまで毎朝迎えに来ます。タケちゃんのおかげで、これまでの転校で得たはずの「教訓」がどんどん破られていく元希でしたが、4年生の教室の中でタケちゃんは次第に浮いた存在になっていきます。子どもが子どもであることの難しさ、大切さを考えさせてくれた作品でした。(中・高学年向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『手紙―ふたりの奇跡―』(福田隆浩・作、講談社)

 長崎市の小学校6年生の吉野耕治に、学校宛で届いた秋田市の6年生清水穂乃香からの手紙。耕治の「祖父の思い出」という入選作文をネットで見て、この人ならと思ったということで、自分の母親にまつわる大事なことを調べてもらえないかという内容でした。戸惑いつつも、謎だらけの手紙に興味を惹かれた耕治。やりとりをしているうちに、死んだ母親が高校の修学旅行で出会った長崎でのできごとを知りたいという穂乃香の願いがとても切実であることを理解し、なんとか力になりたいと思い始めます。二人の一年間にわたる手紙が交互に紹介され、次第に真相に近づいていく展開は、まさにミステリーのおもしろさ。二人の人物像が手に取るように伝わってきて、共感がふくらんでいきます。(高学年以上向き、1400円+税)


『12歳で死んだあの子は』(西田俊也・作、徳間書店)

 中学2年の須藤洋詩に小学校のクラス会の案内が届きます。洋詩が通っていたのは大学の付属小で、洋詩は付中の受験に落ちたので出席を迷いますが、まずまず楽しい時間を過ごします。しかし後になって考えたのは、話題に上らなかった同級生、卒業間際に亡くなった鈴元育朗のことでした。そんな折、駅で私立中に通う篠原と出会い、彼女も鈴元のことが気になっていたことを知らされます。そして、鈴元と仲の良かった小野田も誘い、元の同級生たちで鈴元のお墓参りに行くことを計画します。声をかけられた子たちそれぞれの6年生の時のこと、今までの時間、そして今抱えていること、それらの心模様が次第に浮き彫りになっていく展開。亡くなった鈴元をめぐるドラマであると共に、今を生きる洋詩たちのドラマでもあり、彼らの息遣いがすぐ近くに感じられるような作品でした。(高学年・中学生向き、1600円+税)


『「空気」を読んでも従わない 息苦しさから楽になる』(鴻上尚史・著、岩波書店)

 あなたは人から何か頼まれた時にすんなり断れるか、部活で先輩の言うことに反対できるか、面倒なのにしかたなくラインに返信したりしてないか。著者はそういう問いかけから、わたしたちをとりまく「息苦しさ」の正体に迫ります。その正体とは、日本人が「社会」ではなく「世間」の中で生きているから。なぜそうなのか、どうすればそこから脱却できるのか……、驚くほどの明快さでそのあたりが解き明かされていきます。著者の『「空気」と「世間」』(講談社現代新書)のジュニア版ですが、同調圧力と日々対している中高生にこそ、ぜひ。(820円+税)

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