2019年6月号 読んでみたい本


(2019/06/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『あれ あれ あれれ』(つちだのぶこ・作、ポプラ社)

 「あれ、どこだっけ?」「あれがほしいんだけど」と、家族が次々に言い出す「あれ」が、すぐにわかってしまうお母さん。どうしてなんだろう、と首をかしげる子どもたち。どこの家でもありそうなお母さんの超能力?が楽しく描かれ、思わずうなずきながら見てしまいました。(低学年から、1300円+税)


『いないいないばあさん』(佐々木マキ・作、偕成社)

 こちらは、おばあさん。おばあちゃんと一緒に出かけると、おばあちゃんは時々ふっと姿を消します。ショーウィンドウの中でマネキンのまねをしていたり、公園の彫刻の上でポーズをとっていたり、神出鬼没なおばあちゃん。ちょっとシュールな世界が持ち味の作者ですが、これはどの子にも受けそうです。(低・中学年向き、1200円+税)


『おーい、こちら灯台』(ソフィー・ブラッコール作、山口文生・訳、評論社)

 北の海の小さな島に建てられた灯台。そこに新しくやってきた灯台守。一人だけの生活で、待っている奥さんへの手紙をビンに入れて、海に流します。やがてやってきた船に荷物と一緒に乗っていたのは奥さん。それから二人の暮しに、やがて三人の暮しになりますが、沿岸警備隊から手紙が届き、灯台守は灯台を去ることになります。灯台の白と赤、海や空の青、そして氷の海の白など、単調な灯台の暮しがさまざまな色で彩られ、心に迫ってきます。子どもから大人まで、それぞれに味わってほしい絵本です。(1600円+税)

 


低・中学年向け

 

『カイとティム よるのぼうけん』(石井睦美・作、ささめやゆき・絵、アリス館)

 6歳の誕生日を迎えて、一人で寝るようになったカイと、心細いカイのもとにやってきたおてつだい妖精ティムの話。この本のキーワードは”遊び心”でしょうか。まずは、部屋に向かう時のお母さんとカイのやりとり。本心は一緒に寝てほしいカイのプライドを傷つけないように、お母さんが言葉巧みにかわします。そして、カイをいろんな場所に案内するティムとカイのやりとりにも、台詞劇のような趣きがあります。本の作りにも工夫が凝らされていて、いろいろに楽しめる一冊です。(低・中学年向き、1400円+税)


『ノウサギのムトゥラ 南部アフリカのむかしばなし』(ビヴァリー・ナイドゥー作、ピート・フロブラー絵、さくまゆみこ・訳、岩波書店)

 アフリカ南部のツワナ人に伝わる昔話で、主人公は野ウサギのムトゥラ。8話から成りますが、緩やかにつながっていて長編としても楽しめます。ムトゥラの相手となるのは、ゾウだったり、ライオン王だったり、腕力では到底かなわない者たちを言葉の力でやりこめるムトゥラ。一方で、カメとの競走では、油断のあまり苦杯をなめます。トリックスターという言葉がぴったりのムトゥラ、狭い意味での善悪を越えた魅力に満ちています。(低・中学年以上向き、1600円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『鬼遊び』(廣嶋玲子・作、おとないちあき・絵、小峰書店)

 6話からなる短編集ですが、まずは第2話の「鬼ごっこ」を紹介します。足が速すぎて鬼ごっこに入れてもらえないサク。「鬼や化け物が相手でもいいから鬼ごっこがしたい」とつぶやいた夜、夢を見ます。キツネのお面をつけた少年が現れ、鬼ごっこに誘うのです。必死に逃げるサク。捕まれば大変なことになるという予感がしたからです。ところが五日目の夜、夢の中で転んでしまい、朝起きると本当に足を痛めています。今夜夢の中で追いかけられたら、もう逃げられない……。そのサクに手を差し伸べたのは、村に住む白目のおばばでした。様々な姿を見せる「鬼」は、わたしたちの心の闇の複雑さの現れのようでもあります。「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」などで人気の作者の新シリーズです。(高学年以上向き、1200円+税)


『徳治郎とボク』(花形みつる・作、理論社)

 妻を亡くして一人暮しの徳治郎と、折々に集まる3人の娘たちと孫たち。孫たちの中で一人だけの男の子ケンイチが、物語の語り手です。お祖父ちゃんの思い出は4歳の時に始まり、6年生の3月に亡くなります。様々な思い出が語られますが、幼いころの思い出の意味が、成長と共に別の意味を帯びてくる場合もあります。山の畑に毎日通い、娘や孫たちが来てもその日課を崩さなかったお祖父ちゃん。ある時からケンイチもお供をするようになるのですが、それはどうやら、母親が電話で友達に父親の悪口をしゃべっているのを聞かせたくなかったからだと、後になって思い至ります。そんなふうに、徳治郎が折々に話す昔の話がケンイチの心にじわじわと届き、ケンイチの成長とリンクしていきます。読後なんだかいい映画を見終わったような(文学作品の誉め言葉として適切かどうかわかりませんが)ずしりとした感動を覚えました。(高学年・中学生以上向き、1400円+税)


『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』(斉藤倫・著、高野文子・画、福音館書店)

 〈ぼく〉は大人で、近くに住んでいるらしい子どもの〈きみ〉が、時々訪ねてきます。彼らがどういう関係なのかは次第に明かされますが、二人の対話が楽しく、そして実に無理なく〈ぼく〉が〈きみ〉に詩を紹介する流れになっていきます。まとめてしまえば、物語仕立ての詩の案内書ということになるのですが、多分そういう本をこれまでも考えた人はいるでしょうが、これはもしかして(少なくとも子ども向けとしては)初めてそれに成功した一冊かもしれません。著者は、詩人にして独特のファンタジー世界が注目の新進作家。高野文子の絵というのも楽しみです。まずは、タイトルを味わってください。(子どもから大人まで、1200円+税)

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