2019年2月号 読んでみたい本


(2019/02/12)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 昨年の大晦日、新聞によっては元日付けに載っていましたが、作家の宮川ひろさんが亡くなられました。産休補助の先生と子どもたちの交流を描いた『るすばん先生』で1969年デビュー、この時宮川さんは46歳でした。そこからちょうど50年、『先生のつうしんぼ』『天使のいる教室』など、多くの作品を通じて、子どもたちや子どもと関わる大人たちを優しく励ましてきました。聞けば、これから本になる原稿があるというくらい、現役作家でした。ご冥福をお祈りします。

絵本

 

『そらのうえのそうでんせん』(鎌田歩・作、アリス館)

 高い鉄塔と鉄塔をつなぐ送電線。この補修点検の仕事をしている人たちは、ラインマンと呼ばれます。高さ50メートルの世界で、どんなふうに仕事をするのか。絵本の画面を文字通り縦横に使いながら、その仕事ぶりや、ラインマンから見える光景が描かれます。この絵本を見た後では、送電線を見上げた時の気持ちがガラッと変わるでしょう。(低・中学年以上向き、1400円+税)


『だいだいだいすき』(石津ちひろ・文、たかくわこうじ・絵、ハッピーオウル社)

 僕は専門学校で絵本作りの授業の最初の時間に、学生に「折句」での自己紹介をしてもらいます。〈フるい人間と〉〈ジかくはしてますが〉〈タのしくやりましょう〉という具合です。この絵本は、カバの親子の日常の風景についている文が、すべて動物の折句になっています。〈クるくるまわる〉〈マまのまわりを〉という具合に。そしてその動物がページのどこかに隠れているという仕掛け。この絵本を読んだ後、子どもと一緒にぜひ折句を楽しんでください。(低学年から、1300円+税)


『だいじょうぶじゃない』(松田もとこ・作、狩野富貴子・絵、ポプラ社)

 〈ぼく〉のおばあちゃんは、山の中の家での一人暮し。夏休みに遊びに行くと、まわりの畑でとれた野菜がとてもおいしいのです。ところが、さるたちがその野菜を狙ってやってくるというのです。畑に入り込もうとするさるたちを、おばあちゃんがゴム鉄砲で追い払いますが、さるたちも負けてはいません。夜に屋根の上で騒いだり、食べかけをまき散らしたり。お父さんが迎えに来た日、「だいじょうぶだから」というおばあちゃんに、「だいじょうぶじゃなーい」と叫ぶ〈ぼく〉。絵本のタイトルになっているこの言葉は、子どもたちの心にさまざまな波紋を投げかけてくれるでしょう。(低学年向き、1400円+税)

 


低・中学年向け

 

『二年二組のたからばこ』(山本悦子・作、佐藤真紀子・絵、童心社)

 二年二組にある「たからばこ」は、たから君の落とし物を入れるための箱。それくらいたから君は落とし物が多いのです。隣の席になったみなは、たから君に物を貸すのが嫌になってきます。悪いのはたから君なのに、全然平気そうなのです。二人が日直の時、大事な鍵がなくなり、みんなたから君のせいだと言い始めますが、実はみなのほうに心当たりがありました。教室に漂う「当たり前」をものともしない、たから君のキャラクターが魅力的です。(低・中学年向き、1000円+税)


『がんばれ給食委員長』(中松まるは・作、石山さやか・絵、あかね書房)

 ゆうなの学校は5年生から委員会活動があり、なんとなく給食委員になったゆうな。初めての給食委員会で、くじで給食委員長を引き受けるはめに。若い栄養士の藤代先生が、食べ残しの多いことに悩んでいるらしいことを知り、給食委員会で子どもたちの好きなメニューを出し合ったりするのですが、学校給食がいかにさまざまな制約の中で作られているかを知っていきます。冒頭の『先生のつうしんぼ』を始め、給食のことはよく題材になるのですが、これほど本格的に学校給食をめぐる制度的な背景が語られた作品は初めてでした。さて、優菜たちが試行錯誤の末にたどり着いた方策は? 5年生中心の物語ですが、4年生くらいから充分興味深く読まれるでしょう。(中・高学年向き、1200円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『むこう岸』(安田夏菜・作、講談社)

 医者の息子で難関中学への入学を果たした山之内和真。母子家庭でその母も病弱なため生活保護を受け、家事や妹の世話まで負担している佐野樹希。本来接点のないはずの二人でしたが、勉強についていけなくなった和真が、樹希のいる公立中学3年生のクラスに転校してきたのが始まりでした。有名中学からの転校であることをひた隠しにする和真でしたが、偶然樹希がそれを知り、口止めとして出した条件が、同じような境遇で父親が黒人のアベルに、勉強を教えることでした。ここから、和真はまったく知らなかった世界に足を踏み入れ、生活保護をめぐる不条理に目が向けられていきます。このように書くと、いささか図式的な印象を受けるかもしれませんが、そうした図式を越えて、というか図式であることを恐れずに、もがき苦しむ中学生たちの姿が、そのまわりの大人たちの姿が、あぶりだされていきます。その手応えは、まさにハンパではありませんでした。(高学年・中学生以上向き、1400円+税)


『クローンドッグ』(今西乃子・作、金の星社)

 学校の帰り、航が原っぱの段ボール箱の中に見つけたのは、両方の後ろ足が切られた子犬でした。獣医師である父親に診てもらい、その子犬を飼うことに。長く親しんできた愛犬が、前の年に亡くなっていたのです。希(のぞみ)と名づけたこの犬を世話する中で、航の心も成長していきます。希との絆が深まるにつれ、一方で遠くない将来の希との別れが心配な航が、ネットで偶然目にしたのは、「ペットのクローンを誕生させます」というサイトでした。『犬たちをおくる日』などのノンフィクションで知られる著者が、人間とペットとの関りについて読者に問いかけます。(高学年以上向き、1300円+税)

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