2018年新年号 読んでみたい本


(2018/01/05)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 新しい年を迎えましたが、今年は大正期に創刊された児童雑誌「赤い鳥」の創刊百年に当たります。つまり、創刊は1918年で、創刊号には芥川龍之介の「蜘蛛の糸」が掲載されました。一度の中断を経て、昭和11年までほぼ二百号が発行されましたが、昭和7年の1月号に掲載されたのが、当時18歳だった新美南吉の「ごん狐」です。またこの雑誌を特徴づけたジャンルが童謡で、北原白秋を始めとする童謡作品が毎号を飾り、その多くに曲がつけられました。これらの童謡は、今も親しまれています。この「赤い鳥百年」の記念イベントが各地で催されますが、児童文学関係の4団体による実行委員会企画としては、5月5日に、上野の国際子ども図書館で記念講演会、そして9月には、「赤い鳥」掲載作品を課題作とした感想文コンクールなども実施されます。これらについては、春頃から僕が所属する日本児童文学者協会のホームページなどで随時紹介されますので、ぜひご覧になってください。

  


  

 さて、まずは例によって絵本から。

 

『ルラルさんのだいくしごと』(いとうひろし・作、ポプラ社)

 ゆったりおじさん「ルラルさん」シリーズの8作目。今回、ルラルさんは屋根の修理にとりかかりますが、終わって下りようとすると、はしごが倒れていて、下りられません。ルラルさんの呼ぶ声にいつもの動物たちが集まってきますが、そこで即、解決とはもちろんなりません。ある意味とても日常的なストーリーが、独特なおかしさをかもしだす、ルラルさんならではの世界です。帯に「いとうひろしデビュー30周年」とありました。100年に向けて(?)がんばってください。(低学年から、1200円+税)


『ちいさなちいさなちいさなおひめさま』(二宮由紀子・文、北見葉胡・絵、BL出版)

 「ちいさな」の3連発もなかなかすごいですが、このお姫様、本当に小さいのです。侍女たちは鼻で吹き飛ばしては大変と、お世話はしないことにし、兵隊たちはうっかり踏みつぶしては大変と、訓練をやめてしまいます。「誰も見たことがないくらい美しい」という評判を聞いてお城にやってきたのは、隣の国の王子さまでした。さて、王子は、無事お姫様に会うことができたのか? 映画風にいえば、「驚愕(きょうがく)」の結末が待っています。(低・中学年向き、1300円+税)


『星につたえて』(安東みきえ・文、吉田尚令・絵、アリス館)

 生き物がまだクラゲしかいなかった頃、夜の海に浮かぶクラゲに声をかけたのは、何万年も一人ぼっちで空を旅していたほうき星でした。星は空の果てしなさを語り、クラゲは海の底深さを語ります。どちらにとっても夢のような一夜でした。クラゲと星は再会を約しますが、ほうき星が次にやってこれるのは何百年か先なのでした。星を待ち続けたクラゲは、子どもクラゲにそのことを伝え、クラゲたちに伝えられた思いはやがて……。まるで語り伝えられた神話のようで、文字が縦組みになっているのも素敵でした。(子どもから大人まで、1500円+税)


『文様えほん』(谷山彩子・作、あすなろ書房)

 わたしたちが日々目にしているけれど、あまり意識することのない様々な文様。植物や動物の形から、星や雪や月などのイメージからと、由来も様々。直線が組み合わさったもの、曲線が組み合わさったもの、網目からイメージされたものと、本当に多彩です。帯には「古今東西、300種の文様がこの1冊に!」とありますが、もっとたくさん見たような気がしました。(中学年以上向き、1400円+税)


『はたらく』(長倉洋海・著、アリス館)

 雪の朝、冷たい水を汲みに行く子ども、山道を山羊たちを追って家に向かう少年。家族と共に働く子どもたちもいれば、市場で助け合いながら働く子どもたちもいます。そんな世界の子どもたちの姿を追った写真絵本なのですが、一人ひとりが「生きている」ということを感じさせてくれます。彼らの表情にある生きることの楽しさや大変さは、文字通りの意味では働くことの少ない日本の子どもたちにも、共感をもたれるに違いありません。(中学年以上向き、1400円+税)


  


  

 次に、低学年から中学年向きの読み物から。

 

『きみ、なにがすき?』(はせがわさとみ・作、絵、あかね書房)

 草ぼうぼうの庭を耕してじゃがいもを作り、こぶたにごちそうしようと思ったあなぐま。早速種いもを買いに出かけようとすると、こぶたが自分の畑でとれたじゃがいもを持ってやってきました。それならりすのためにりんごの木を植えようと思ったら、りすがかごいっぱいのりんごを持ってきてくれました。そんなことを繰り返したあなぐまが、最後に庭に作ったものは……。あたたかい結末に拍手が起きそうです。(低学年向き、1200円+税)


『つくえの下のとおい国』(石井睦美・作、にしざかひろみ・絵、講談社)

 1年生を迎えるマナと、一つ下のリオの姉妹。二人が住んでいるのはお母さんが生まれた家で、お気に入りの場所はおじいちゃんの書斎です。ある日おじいちゃんの古い机の下にもぐりこんだ二人。マナは壁に手があたったとたん、壁の向こうが遠い国で、そこは「トホウ・モナイ国」だと、リオに話していました。さっきまでそんなことは全然頭になかったのに。マナは1年生になったお祝いをこの机にしてもらいます。そして思った通り、机の下から不思議なできごとが始まるのです。

 入口の部分しか紹介できないのが残念ですが、マナとリオのコンビが絶妙で、遠い国を近くに引き寄せることのできる二人のパワーに惹(ひ)かれる読者がたくさんいるに違いありません。(中学年以上向き、1400円+税)


『拝啓、お母さん』(佐和みずえ・作、かんべあやこ・絵、フレーベル館)

 お腹に赤ちゃんがいるお母さんの入院で、夏休みに祖父母の家へ預けられることになった、4年生のゆな。お父さんと二人でがんばるつもりだったゆなにとっては、不本意なことでした。祖父の家は今は珍しい活版印刷の印刷所で、ばあばも仕事を手伝っています。はんこのような活字が数え切れないほど並んでいる作業場。地元の6年生が自由研究でやってきて、その二人の作業の様子に、ゆなも活版印刷のおもしろさに目を開かれていきます。時代がオフセット印刷に変わった頃の祖父母の苦悩などもきちんと描かれ、ゆなの変化に説得力を加えています。(中学年以上向き、1300円+税)


  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

 

『図書館にいたユニコーン』(マイケル・モーパーゴ・作、ゲーリー・ブライズ・絵、おびかゆうこ・訳、徳間書店)

 「ぼくが、はじめてユニコーンを見たのは、八歳のときだった。もう二十年も前のことだ」という書き出しの、回想体で語られる物語です。家や学校で一人でいることの多い〈ぼく〉は、母親に連れられて行った図書館で、女性の司書が、子どもたちにお話を聞かせている場に行き会います。その司書の傍らには、木でできたユニコーンが置かれていて、大きさといい色合いといい、本物のように見えます。子どもたちからせがまれてユニコーンの物語を始めた司書の話に魅了され、それ以来図書館に足を向けるようになった〈ぼく〉。ある時、司書が大切にしている本に焼け焦げがあるのを見て聞いてみると、子どもの頃に兵士が町にやってきて、本を集めて焼いてしまったというのです。ところがやがてこの村にも「戦争」がやってきて、図書館が火に包まれる事態となります。その時何が起こったのか、その後どんなことがあったのか、主人公の語りから、本や物語への思いが切々と伝わってきます。(高学年以上向き、1300円+税)


『図書館につづく道』(草谷桂子・作、いしいつとむ・絵、子どもの未来社)

 こちらは日本の、現代の図書館が舞台で、「星とお茶の里」を標榜する町の図書館をめぐる様々な人たちが語り手となる、連作の構成になっています。プロローグでは、草木染の店をオープンするためにこの町に移ってきた美月さんと図書館との出会いが語られ、第一話は美月さんの連れ合いのカナダ生まれのグレーアムさんが語ります。そして第二話は、図書館の熱心な利用者である5年生のみのりが、第三話は、図書館は苦手という78歳の章夫さんが語り手となります。そうした様々な立場、年代の語り手によって、開館50年を迎えたこの図書館の歩みや課題が、少しずつ浮き彫りにされていきます。長年図書館と付き合い続けてきた著者ならではの洞察が感じられる、ふかーい物語です。(高学年以上向き、1400円+税)


『一〇五度』(佐藤まどか・作、あすなろ書房)

 一人になった父方の祖父の家に同居するために、中3になる時点で都内の中高一貫校に転校してきた真(しん)。椅子職人だったじいちゃんの影響で、真の趣味というか夢は、椅子デザイナーになること。新しい学校で、真は初めて椅子について語り合える相手の梨々と出会います。梨々は学年で唯一制服のスカートでなくスラックスをはく女の子で、やはり祖父が椅子の製作所を営んでいました。デザイナー志望の真と、それを実際の形にするモデラ―志望の梨々は、二人で「学生チェアデザインコンペ」への応募を決めます。しかしそれは、かなり困難な取り組みでした。技術的な点はもちろん、祖父を嫌い、真にも手堅い進路を求める父親の存在があったからです。

 タイトルは、イスの背もたれの角度に事寄せて、人と人との関係性を象徴する数字として表されています。イタリアでプロダクトデザインの仕事をしてきた著者だけに、物語の中で展開される椅子作りの工程や、それを仕事にすることの大変さをめぐってのリアリティが半端ではなく、僕はかつて村上龍が書いて話題となった『13歳のハローワーク』の物語版という気もしました。(中学生以上向き、1400円+税)

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