読んでみたい本



  ベルマーク新聞の「読んでみたい本」のコーナーで20年以上、児童・生徒・PTA向けに、本を紹介し続けている児童文学者・鈴木喜代春さんの「書評コーナー」を、ベルマーク財団のホームページでもご紹介します。書評は3カ月に1度更新していきます。


『貧困を考えよう』
生田武志著

 現在の最も重要な問題をとらえた、とっても温かくて、力の湧いてくる本。
 「いすとりゲーム」をする。「いすの数が1つ減れば、だれかがどう努力しても座れない人がぜったいに1人増える」「別に、努力の足りない人や野宿の好きな人が日本で突然増えたからではないのだ」という。こうして「貧困」を@2人のひろしA日雇労働者の貧困−あいりん小中学校B子どもの貧困C大阪西成区でD激化する貧困E貧困の解決のために、と追求してゆく。
 「経済の貧困」と「関係の貧困」が、重なりあうところに「現代の貧困」が拡大しているという。いま必要とされているのは「2つの貧困」に対抗する「ネットワーク」だと述べる。「人間」を排除しない、地域のネットワークづくりが報告されている。中学以上向き。

岩波書店・780円+税

『なきすぎては いけない』
内田麟太郎作、たかすかずみ絵

 「死」は悲しい。ことばに出せば出すほどに、悲しみがあふれて、悲しみに沈み込んでしまう。
 この絵本は「死」の悲しみを、静かに「祈り」に昇華させてくれる。
 まず、文章を読んでみる。「おまえはまっている/まだわたしのなくなったことを/しらないで/しればおまえはなくだろう/めそめそと/それはよわむしだろうか/よわむしだ/でもわたしはよわむしがすきだ/よわむしは/ひとのかなしみをおもいやれるから/」
 「心」が透き通るような色と線の絵もすばらしい。新しい「絵本」の創造を喜ぶ。小学校中級以上向き。

岩崎書店・1300円+税

『ダーウィン』
アリス・B・マクギンティ文、メアリー・アゼアリアン絵、千葉茂樹訳

 「種の起源」などの著者のチャールズ・ダーウィンの伝記絵本である。
 ダーウィンは、子どもの頃から貝殻を集め、昆虫や植物を集め、好きな化学実験に熱中する。5年間かけて世界一周の旅に出て、各地の化石、生物などを集めて分析してまとめたのが「種の起源」である。
 「進化論」を提起した科学者のチャールズ・ダーウィンの生涯と、高度な「進化論」の「理論」を絵本にまとめてすばらしい。小学校上級以上向き。

BL出版・1600円+税

『ありがとう チョビ』
高橋うらら著

 飼い主などがいなくて、保健所のガス室で、殺される犬や猫は、1年間に30万匹ともいわれている。
 イギリス生まれのオリバーさんは、日本に来て、英語を教えながら「動物保護施設」の「アーク」を、大阪の能勢町につくり、活動している。
 犬の「チョビ」は、ここで生かされ、オリバーさんの講演などで紹介されると、ひとりで舞台の下まで歩いていくのだった。
 「いのち」を見つめるオリバーさんと、生きて「いのち」を見せてくれる「チョビ」に胸があつくなる。小学校上級以上向き。

くもん出版・1400円+税

『おとうさんの ちず』
ユリ・シュルヴィッツ作、さくまゆみこ訳

 戦争で、逃げまわり、すべてを失い、小さい家で暮らす。お父さんがパンを買いに行ったのに、地図を買ってくる。ぼくは怒り、はった地図を見つめる。
 たくさんの国が描かれている。ぼくは地図の国を歩きつづけている。雪の山、美しい湖、豊かな果樹園などなど、ひもじさも忘れて歩きつづける。ぼくはパンを買わなかった父を、ゆるしていた。小学校上級以上向き。

あすなろ書房・1500円+税

『海辺の町を走るバス』
西本鶏介・さく、小林豊・え

 港町で生まれた中田さんは、車が好き。漁師にならないでバスの運転士になる。
 ある日、線路の上を、ぼけた老人が歩いて行く。中田さんはバスをとめて、線路を走って、おじいさんを助ける。
 バスは30分ほど、おくれ、中田さんはあやまる。皆さんは喜んでゆるす。
 大きくて鮮やかな絵は、「いのち」が見えてくるように明るい。このような確かな「本」が、もっと出版されるとうれしい。小学校初級以上向き。

そうえん社・1300円+税

『和尚さまと小坊コ』
佐々木達司、村田良子・再話

 お正月が来ても、餅を買うお金もない。おじいさんはすげ笠を作って、売りに行くが、売れない。その笠を雪をかぶっている六地蔵にかぶせる。1枚足りないので自分の笠をかぶせる。
 その夜、米、餅、酒、鱈(たら)、大判小判を、そりに積んで、歌いながら、おじいさんの家へ来て、家にどさっと、おろしたのは六地蔵だ。
 このように、心がホカホカと温かくなる「青森むかしばなし」が33話、収録されて、優しくて楽しい。小学校中級以上向き。

青森県文芸協会・840円+税

『ふゆですよ』
柴田晋吾作、降矢なな絵 「人間」は「時間」(いつ)と「空間」(どこで)のなかで生きている。  「人間」は「時間」(いつ)と「空間」(どこで)のなかで生きている。
 本書は、「人間」にとって生きる「時間」を、はっきりとらえさせてくれる、すばらしい絵本である。
 他に「なつですよ」「あきですよ」も出版され「はるですよ」も近く出版されるという。
 頁を開く。雪の山で、たきぎを集める親子。雪山のスキーすべりなどなど「冬と人間」が描かれていて、まさに「冬と人間」「冬の季節」を発見する絵本。小学校初級以上向き。

金の星社・1200円+税

『おひさまは いつも あったかいね』
くさかはるか・詩、日下由美・文

 「グルタル酸血症T型」という難病をもって生まれた「遥」は、病気とたたかいながら楽しく勉強していく。
 「遥」の詩「ようちえんは にげないよね まっててね はるかがいくまで」
 「母」の文「年少から年長組になったのに、病院ですごしていたので『行きたいのに、行けない』もどかしい気持ちでいっぱいだったと思います」
 必死に生きる遥の「命」と、母の「愛」が、キラキラと輝いて美しい。親と子と一緒に読みたい。小学校初級以上向き。

偕成社・1400円+税

『おとうさんは だいくさん』
平田昌広作、鈴木まもる絵

 ぼくのお父さんは「だいく」。ぼくは、父ちゃんに頼んで、父が仕事をして、家を建てている現場へ行く。それぞれ大工さんも、仕事を分担して家を建てている。
 ここでぼくは、大工としての父を発見する。
 「人間」は、それぞれに違った仕事をしているから、すばらしい社会がつくられていることが、見えてくる。明るく、ありがたい1冊である。小学校初級以上向き。

佼成出版社・1300円+税

『地球の大研究』
監修・束田進也、杉田精司、吉岡真由美

 まさに「身近な疑問から"地球"のしくみを探る」大型の「地球絵事典」である。
 いま「石油はどうしてできたのか?」という問題意識をもつ。どんな「事典」よりも、この「絵事典」がみごとに認識させてくれる。「地球の大事典」の31頁を開く。「石油ができるまで」とあり、@動物などの死がいが水底にうもれるAさらに土砂がつもって死がいがケロジェンとよばれる石油のもとになるBケロジェンから石油ができて地中にたまるC地中に油田ができる。このように詳しい文章で述べる。しかも的確な絵が理解を深める。小学校中級以上から活用できる。

PHP研究所・2800円+税

『ちがうけど おんなじ』
メラニー・ウォルシュ作、木坂涼訳

 海の底を泳ぐサメと、小さな器の中で泳ぐ金魚はちがう。でも、水の中でプププと、あぶくを出して泳ぐことは同じ。
 この他、黒猫と灰色の猫、ライオンと子猫などなどの「ちがう」「おなじ」をみごとな絵も使って目にも見せてくれて、分からせる。
 この絵本は、「人間」は顔形が、ちがっても「命」「人権」は等しく同じということを悟らせてくれるすばらしい力を持っている。小学校初級以上向き。

コンセル・1600円+税

『泣いたゼロ戦』
ぶな葉一作、関口コオ絵

 東京九段の靖国神社の「遊就館」に「ゼロ戦」(零式艦上戦闘機)が置かれてある。この「ゼロ戦」は、たくさんの空中戦をおこない、たくさんの空中戦をみてきた。
 そのときの空中戦では、日比少尉の「ゼロ戦」が、血を吹き出した少尉を乗せて、密林に突っ込んでいった。そのとき日比少尉は叫んだ。「なぜ戦う!なぜ殺す!みんな地球の子じゃないか。みんな同じにこの星から命をもらっているのに。ああ、一日、一日を生きたい、この太陽のしたで」
 日比少尉の祈りと願いは、本書の出版によって、より強大になってうれしい。小学校上級以上向き。

銀の鈴社・1200円+税

『ああ保戸島国民学校』
小林しげる作、狩野富貴子絵

 大分県の小さな「保戸島」の「国民学校」の5年生の洋太の家は8人家族。
 ところが兄の岩男は戦死。洋平兄も特攻隊で戦死。2人の戦死を悲しみ、母は病気で死ぬ。
 1945(昭和20)年7月に、アメリカ軍機は保戸島国民学校を爆撃する。126名が死ぬ。洋太の兄の和平と、妹の波子もこのとき死ぬ。洋太の家は、父と、姉と3人だけになる。洋太は叫ぶ。「いくら戦争だからって、子どもが勉強している学校まで爆弾を落すなんて、ひどいじゃないか」
 戦後64年で、この本が出版され、読むことができる。ありがたいことである。小学校上級以上向き。

文研出版・1300円+税

『ママは おしゃべり』
山中恒作、おのきがく絵

 ミナのママは、ミナを「おしゃべり」と言う。ところがママが、もっともっと「おしゃべり」なのだ。
 裏のおばさんと、買い物の道であった。そこで、ぺちゃくちゃと、話しあいがつづいていく。とまらない。
 ママはいつも、ミナを「うそ、おっしゃい。よけいなおしゃべりばかりして」としかる。ところが「ほんとう」の「おしゃべり」を発見したミナは、大きく成長していく。
 笑わせて、考えさせて、自己をとらえさせる1冊で、PTAの読書会で、子ども達と一緒にとりあげたい。小学校初級以上向き。

小峰書店・1400円+税