読んでみたい本



  ベルマーク新聞の「読んでみたい本」のコーナーで20年以上、児童・生徒・PTA向けに、本を紹介し続けている児童文学者・鈴木喜代春さんの「書評コーナー」を、ベルマーク財団のホームページでもご紹介します。書評は3カ月に1度くらいで更新してゆきます。


『人はなぜ立ったのか?』
島泰三著

 マダガスカルには、74種ものサルがいる。そのすべては「原猿類」のサルという。
  著者は2度3度とながくマダガスカルに渡って、そこに住むアイアイ、ネズミキツネザル、アンワンティボ、コロブスなどなどのサルの手や、指や、歯などを克明に調べて、人類が2本足で立ち上がるようになる謎にせまる。そして「食べ物を砕く石や、集めた食べ物を、手で持つようになって2本足で歩くようになったのでは」などととらえる。中学以上向き。

学習研究社・本体1200円+税
『のんのんばあ カッパの水』
水木しげる作、絵

 三太は、カッパに会いたいのだ。つぼに入った「河童水」を、川に流すと、河童が出てくるという。三太はこっそりと、つぼを持ち出して「河童水」を川へ流してしまう。カッパが出てくる。
  学校から帰ると、三太は毎日カッパと遊んでいた。ある日、鬼ごっこして追われて川へ落ちて「カッパ」にさせられてしまう。
  ようやく人間にもどる三太。日本の各地につたわるカッパ話もたのしい。小学校中級以上向き。

ビリケン出版・本体1600円+税
『いつまでも ずっとずーっと ともだち』
たかやまえいこ作、つちだよしはる絵

 青空小学校で、シロクマのくまがいくんが、山谷村に引っ越すこととなる。アライグマのあらいくんは、山谷村のアライグマ・トリオに、シロクマのくまがいくんをよろしく頼むと手紙を書く。
  アライグマのあらいくんと、シロクマのくまがいくんの友情が、美しい。友達は、生きる元気のもとだということが素直に描かれて嬉しい。小学校初級以上向き。

金の星社・本体900円+税
『進化の迷路』
香川元太郎作、絵

 「原始の海から人類誕生まで」を、大きな絵で「迷路」あそびをしながら、はっきり覚える本だ。
  「絵」は次の9枚。@三葉虫の入り江A魚たちの海B巨大シダの沼(以上古生代)Cは虫類の森D恐竜の平原E花と恐竜の谷F巨大生物の海(以上中生代)Gほ乳類の丘Hけものたちの高原(以上新生代)
  それぞれの絵を、入り口から出口までたどる。途中でその時代の生物に出会って時代を「知る」。「知る」ことは「生きる」こと。楽しく知って、楽しく「生きる」本。小学校中級以上向き。

PHP研究所・本体1300円+税
『ミサコの被爆ピアノ』
松谷みよ子文、木内達朗絵

 「ひろしま」の原爆投下で被爆したピアノの、願いと祈りを静かに、確かなことばでうたったのが本書だ。
  「コンサートがおわってから、ミサコはピアノのそばにより、そっと、ふたをあけました。ポロン。そのとき、ピアノのこえがミサコのこころにとどきました。『ミサコさんもわたしも、原爆のくるしみをこえて、いま、いきているんですよね。』」
  「(中略)みんなに伝えてね。戦争のおそろしさを。戦争のかなしみを。」小学校上級以上向き。

講談社・本体1143円+税
『ローバー』
マイケル・ローゼン文、ニール・レイトン絵、しみずなおこ訳

 この本では「犬」が主人公で「人間」が「ペット」となっている。すべて「犬」の立場から「人間」をとらえていく。人間の女の子は「ローバー」。ローバーは「色つきの箱」(テレビ)を見ている。自家用車は「家族で入る箱」だ。
  このように、ひっくり返して「人間」を見ると、かえって本質が見えてくることがある。愉快で、おかしくて、それで考えさせる本だ。小学校中級以上向き。

評論社・本体1300円+税
『おじいちゃんのふね』
岡信子作、山田和明絵

 団地の8階で、バラに水をあげたおじいさんを思う。世界の海を航海する船の船長のおじいさんを思う。そのおじいさんはいない。バルコニーで、おじいさんを呼んだ。
  するとおじいさんの乗っている飛行船が、飛んでくる。おばあちゃんも、変わっていない。みんなで飛行船に乗って宇宙をめざして飛んでゆく。
  宇宙にいる、おじいさん、おばあさんと出会える、楽しい本だ。小学校中級以上向き。

リーブル・本体1200円+税
『ぼくの コブタは、いいこで わるいこ』
マーガレット・ワイズ・ブラウン作、ダン・ヤッカリーノ絵、はいじまかり訳

 ピーターは、ブタを飼いたいのだ。ママは、ブタはきたないと言う。ピーターは、農場のおじさんに手紙を書く。「ちいさすぎなくて、おおきすぎない いいこすぎなくて、わるいこすぎないコブタはいませんか」と。
  コブタがくる。パパはわるいコブタという、お巡りさんはいいコブタという。
  時、場所、状況によって良いブタにも、悪いブタにもなる。愉快ですばらしい絵本だ。小学校中級以上向き。

BL出版・本体1300円+税
『ぼくのいいところ』
たかすぎなおこ作、絵

 ぼくは、アカシア小学校1年生の「しろくま」。サッカー大すき。親友はひろし君。好きな子は、みよちゃん。
  「しろくま」は毛ぶかい。気になる。夜も眠れない。
  お母さんは「自分のよいところを10こ、書け」という。「しろくま」は書いた。優しいところ、力もちなどなどと。こうして自己発見する。ほのぼのと明るくて、どの子にも分かって、どの子にも力を与える小さくて、大きい本である。小学校初級以上向き。

らくだ出版・本体800円+税
『パセリともみの木』
ルドウィッヒ・ベーメルマンス作、ふしみみさを訳

 がけに、いっぽんのもみの木が生えている。もみの木は、奥へ奥へと根をのばし、吹きつける風や吹雪に耐えて大きくなった。
  もみの木の下に、シカが住みつき、子を産み、育てている。ところがある朝、猟師が鉄砲で、シカをねらっている。もみの木は危険を知らせた。
  もみの木は、シカをおもい、シカはもみの木をおもう、その仲良しが、目に見える。絵もよい。小学校初級以上向き。

あすなろ書房・本体1600円+税
『ヒロシマのピアノ』
指田和子文、坪谷令子絵

 1台のピアノが、ヒロシマのみさちゃんの家に運ばれていく。みさちゃんは、東京の音楽学校へ入る夢をふくらませて、ピアノの練習をつづけている。
  ところが、日本は戦争をはじめてしまう。そして8月6日。ピカッと原子爆弾が落ちる。ピアノも被爆。
  それから60年たったいま。みさちゃんは「被爆ピアノ平和コンサート」で、平和を訴えてピアノをひいている。ピアノのCDもついた絵本。小学校中級以上向き。

文研出版・本体1600円+税
『財政のしくみがわかる本』
神野直彦著

 「財政」とは「社会のすべての人が、力を合わせて運営している経済」「社会のすべての人のために運営されている経済」という。
  朝、起きて顔を洗う。その水は「財政」を通じて供給されているという。
  鋭い目を「社会」に向けていく中学生、高校生は「格差社会」などといわれるいま、このような本に挑戦して、更に「社会」を見る目を鋭くすることも楽しいことではないか。中学以上向き。

岩波書店・本体780円+税
『たたみの部屋の写真展』
朝比奈蓉子作

 中学生のタモツとユウイチは、空き家の庭に、池を掘ってカメを飼うことにする。そこへ家主のおばあさんと娘のなつみが帰ってくる。おばあさんは、タモツを見るなり「とおる」と呼ぶ。おばあさんは「認知症」なのだ。夏休み、タモツとユウイチは、おばあさんの家へ手伝いにいく。
  「認知症」を描いて、さらに細かく、深く「人間」をとらえ、「人間」の「尊厳」を目に見せてくれる。決して悲しくない。明るい。「いのち」賛歌の嬉しい本。中学以上向き。

偕成社・本体1200円+税
『風になった覚さん』
久木田雅之著

 「グライダーの神様」といわれた原田覚一郎は、小学校4年生の時、諏訪湖上を飛んだ飛行機をみて、唐傘2本を持って家の屋根からとびおりる。頭から突っ込んで気絶してしまう。
  覚一郎の空をとぶ夢は、ますます大きくなる。とくにエンジンを使わないで風を切ってとぶグライダーだ。やがて覚一郎は「日本学生航空連盟」の指導員となってグライダーの発展に生涯を捧げた。同じ日本学生航空連盟の事務局員をしていた著者は、より覚一郎の願いをとらえている。小学校上級以上向き。

鳥影社・本体1500円+税
『若山牧水ものがたり』
楠木しげお文、山中冬児絵

 「幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく」
  広く愛誦されているこの歌は、牧水が22歳の早稲田大学生のとき、夏季休暇で宮崎県坪合の自宅へ帰る途中、岡山の旅館から有本芳水にあてた手紙の中に書いた歌という。酒が好き。石川啄木の臨終をみとどけるなどした牧水を、丹念な調査と優しい文章で、牧水が向こうに見えるようにまとめた1冊はありがたい。小学校中級以上向き。

銀の鈴社・本体1200円+税
『佐倉牧を歩く』
青木更吉著

 江戸時代、房総台地は徳川幕府の軍馬の養成地であった。台地で飼っている馬が低地の村や、水田へ入らないようにと、高い土手が築かれていた。
  その土手は、いまも、そちこちに残っている。
  著者の青木更吉さんは、広い房総台地の、牧を囲む土手のすべてを、自転車と足で、丹念に調査し、更に「牧」の歴史や生活をも調べた。「佐倉牧を歩く」はその1冊である。江戸幕府の研究にとって、新しい分野をきりひらく研究として注目されている。PTAで読みあうことをすすめる。

崙書房・本体1500円+税
『夜店の風船』
宮坂喜恵子著・宮前やすひこ絵

 この本は、昭和11(1936)年「わたしが3歳」からはじまる。
  和歌山県の江住の海で遊ぶ。お父さん北支へ出発。岐阜市の加納国民学校1年入学。防空訓練。
  20年間の喜恵子を中心とした兄さん、姉さんの3人の生活が語られていく。
  3人は、知恵を出しあいよく遊び、よくお手伝いをする。たくましくて力強くて明るい。いまこの本が出版されたことが嬉しい。小学校上級以上。PTAの読書会で取りあげたい。

けやき書房・本体1700円+税