読んでみたい本



  ベルマーク新聞の「読んでみたい本」のコーナーで20年以上、児童・生徒・PTA向けに、本を紹介し続けている児童文学者・鈴木喜代春さんの「書評コーナー」を、ベルマーク財団のホームページでもご紹介します。書評は3カ月に1度くらいで更新してゆきます。


『ラッキーボーイ』
スーザン・ボウズ作、柳田邦男訳

 その犬は、体は汚れて臭い。いつも庭にすわっている。ガスティン家の人たちは悪い人ではないが、犬の世話をする暇がなかった。その犬は土を掘って隣りへ入り、おじいさんと仲良しになる。おじいさんは一人ぼっちで寂しい。犬を連れて歩く。首輪を買ってあげる。一緒に食事をする。
  おじいさんと、犬と、けんめいにしあわせをつくりあげていくことを線画と文章で温かく表現して美しい。小学校中級以上向き。

評論社・本体1300円+税
『アフガニスタン 山の学校の子どもたち』
長倉洋海著

 アフガニスタンも、ながい間、戦乱の中にあった。戦争が終わって、学校が再開された。
  首都カブールから北のヒンズークシ山脈の山の中にある学校。鋸の刃のような険しい山の中の曲がりくねった路を、転げ落ちるように駆けて、学校へ来る子供達。教科書が少ないので2人、3人で見る。どの子も、どの子も、目はキラキラ。
  喜びの声が、写真の中から聞こえてくるような、静かで熱い写真集である。小学校上級以上向き。

偕成社・本体1800円+税
『あきらめないこと それが冒険だ』
野口健著

 野口健の父はイギリスの日本大使館勤務。母はいない。ひとりぼっちで寂しいなどなどで、健は「落ちこぼれ」となる。その健が「自分の道」を進む。それは「登山」だ。
  モンブラン、キリマンジャロ、アコンカグア、エベレストと、17歳から登りはじめ、25歳で「世界七大陸最高峰」登頂をなし遂げて世界最年少記録をつくる。
  次に健の進んだ道は「環境学校」をつくり「清掃登山」だ。エベレストや富士山のゴミを拾ってきれいにする。「人間」は1人1人みなちがって、すばらしい。力の湧いてくる本だ。小学校上級以上向き。

学習研究社・本体1200円+税
『宇宙ステーションにかけた夢』
渡辺英幸著

 1998年から世界の15か国が、共同して科学実験室「国際宇宙ステーション(I・S・S)」づくりをすすめている。この「ISS」が完成すると、宇宙飛行士が生活する場所が1か所、実験する場所が5か所できて、6人の宇宙飛行士が、常に宇宙に滞在できるようになるという。
  日本の分担は「実験室」の「きぼう」を開発することだ。その開発を担当する著者が「宇宙とはどんなところか」「宇宙ステーションとはなにか」「日本初の宇宙実験室『きぼう』の開発について」語る。遠い遠い宇宙が、近くに見えてくる楽しい本だ。中学生以上向き。

くもん出版・本体1200円+税
『とびたいペンギン』
新谷智恵子詩、徳田徳志芸絵

 「て・て・て・て ててててててて/ひとりの手より ふたりの手 手/ふたりの手より 三人 手手手/(中略) 寂しいときは ここにおいで/悲しいときは ここにおいで/手と手と手と手を合わせて/心を合わせて/きみのため作るよ/とびきり 楽しい時間」
  子ども達の人間関係がおかしくなって「いじめ」のはびこるいま、「子ども」を「人間」として真正面からとらえているから、強くてさわやかで美しいのだ。高らかな「人間発見」だ。小学校上級以上向き。

銀の鈴社・本体1200円+税
『トトフ、じゅういになる』
リオネル・コクラン作、石津ちひろ訳

 チビのトトフは、消防士をやめて獣医になる。ところが仕事は、雑用ばかりでおもしろくない。やめて動物園を出て行く。と、動物園の中からパオーンという音。象がお腹が痛いと泣いているのだ。トトフは象のお腹へ入って、ハリをとってやる。象はハリネズミを食べたのだ。
  チビのトトフの大活躍で大きな象は助かる。皆はチビのトトフを称える。幼児以上向き。

コブリン書房・本体1500円+税
『福沢諭吉』
小野忠男・相磯裕文、穂積和夫絵

 1歳半で父は亡くなる。大阪から中津へ帰る。よくしゃべり、よくとびまわる子だった。手先が器用で障子はりをする。神様の札を踏みつけ、何かが起こるか試すが、何も起こらない。借りた本を全文、写す。 やがて咸臨丸でアメリカへ。芝に慶応義塾をつくる。
  これまでの伝記本とちがい絵も鮮やか。時代をおさえ、著書などもとりあげ、立体的、体系的に諭吉をとらえ、小学校高学年は勿論、中学、高校生から大人まで学び、楽しめる1冊である。

にっけん教育出版社・本体1500円+税
『ゆびのおへそ』
池田もと子童謡、小倉玲子絵

 「たんぽぽさん/ひかってる/おひさまと なかよしね/たんぽぽさん/わらってる/ちょうちょうさんとも/なかよしね」
  ここで立ちどまって、たんぽぽさんに問いかける。「どんな おはなし/していたの」と。
  遠く、近く、たんぽぽの声が聞こえてくるような気がする。
  このように、どの童謡からも声が聞こえて来て、心と心をつないでくれる。小学校初級以上向き。

てらいんく・本体1200円+税
『まるいね まるいぬ』
ケビン・ヘンクス文、ダン・ヤッカリーノ絵、灰島かり訳

 赤い犬と、黒い犬が、まるくなって眠っている。「おひさま のぼって/あかちゃん ないて/とけいが なって/とりが うたうと」、犬は目をさます。赤と黒の犬は、のーんのーんと、のびをする。長い長い犬になり、遊び、転がり、食べる。
  まるい線と、長い線で犬を中心に、周りの世界を形象化して、とらえてみせておもしろい。楽しい。小学校初級以上向き。

BL出版・本体1300円+税
『やってきた オハシマン』
箸匠せいわ原案、いわたくみこ絵

 にこにこ園の給食の時間。ポポくんはご飯をぽろぽろこぼしている。ミミちゃんは豆をつまめない。ここで「オハシマン」が登場する。箸(はし)を上手に使えば、食物はおいしいことから、箸の持ち方を教える。はじめは1本の箸を持って練習するのだ。
  丁寧で、よく解るように教えてくれる。それが食育、食事マナーへと発展して、形式と内容を統一していくところがすばらしい。幼児以上向き。

コンセル・本体1200円+税
『ねんねのうた』
たかぎあきこ詩、いもとようこ絵

 「ねんねすると/おおきくなるんだって/うーんと いっぱい/ねんねすると/うーんと/おおきくなるんだって」
  「たくさん わらって/げんきに ないて/きょうも しずかな/よるが きた」
  優しい、可愛い、美しい。みごとな絵と詩が一体となって乳幼児の体と心を、さわやかに包んでしまう。 乳幼児と一緒に、この本を開いて、歌うように読んであげて共に輝きたい。

リーブル・本体1000円+税
『十二支のことわざえほん』
高畠純著

 「ねこ」が「ねずみ」を入れた袋を持っている絵。その絵に「袋の鼠」という「ことわざ」がついている。その「ことわざ」に「ふくろのなかにおいこまれたねずみ。もう、どこへもにげることができなくなってしまうこと」と解説がついている。このような内容の十二支全部の「ことわざ絵本」だ。
  絵もよくて、込み上げるおかしさがあり、考えさせる人生があり、先祖の人間に対する愛と情がつたわってくる。嬉しい絵本だ。小学校上級以上向き。

教育画劇・本体1000円+税
『シイの実のひみつ』
かわな静著、うすいしゅん絵

 4年生のユタカは背が低い。手足は細い。友だちはガイコツとよぶ。お母さんが、ユタカをおばあさんの家へ連れてゆく。おばあさんは、一人で住んでいる。
  おばあさんは、ユタカを山の畑へ連れてゆく。アズキを育てるのだ。おばあさんが畝をつくる。ユタカはアズキを3粒、畝の穴に入れてゆく。
  大きな自然の中で、作物を育てる9編の物語はさわやかだ。生産活動は子どもを育ててくれる。小学校上級以上向き。

けやき書房・本体1500円+税
『単位にくわしくなる絵事典』
PHP研究所編

 小学校高学年から、中学高校向きの基本図書、基本図鑑として定評がある「絵事典」「絵図鑑」のなかの1冊が「単位にくわしくなる絵事典」である。これまで出版されたのは「市場がわかる絵事典」「なりたい職業ガイドブック」などなど35冊。
  本書を開いてみる。サラダ油、洗濯機、肺活量、地震、コンピュータ、栄養素、電波などなどの単位について詳しく述べている。
  この本を見ていると、自分の考えが、とってもはっきりしてくるから嬉しい。「絵事典」が次ぎつぎと出版されていくことを喜ぶ。

PHP研究所・本体2800円+税
『世界の遺児100人の夢』
あしなが育英会編著

 アフガニスタンの戦争遺児、ウガンダのエイズ遺児など、海外16ケ国の遺児100人が、日本に集まり、日本の遺児1100人と交流会を開いた。招待したのは政府でも、企業でもなく一般の人たちで支える「あしなが育英会」だ。
  「私の地方を襲った地震と津波のせいで、両親と三人の弟を亡くしました/学校へ行きたい/経済的余裕がないので行けない/食べることも難しい/私は成功して両親を喜ばせたい」インドネシアの16歳の少女のことばだ。全体に遺児たちの手記は力強い。まさに「子どもは未来」である。中学生以上向き。

岩波書店・本体840円+税