杉田玄白の“末裔” 実験に目を輝かす小学生たち/この世は“不思議”であふれている


(2018/11/22)印刷する

福井県の中名田小学校で理科実験教室

 「オガムシ(カメムシ)が多い年は大雪になるって言い伝えがあるけど、今年は暖冬になりそうだね」

 南川の渓流沿いの山道を走りながらタクシーの運転手さんが首を傾げます。11月に入って2度目の週末(11日)とはいえ、車窓を流れる山々の景観はまだ一部で色づき始めたばかりです。「この世は“不思議”であふれているな」と独りごちると、程なく理科実験教室の舞台、小浜市立中名田小学校(村上奈保子校長、児童数33人)に着きました。その昔、若狭国と呼ばれた福井県南西部、四方を山々に囲まれた人口千人の中名田地区までは、JR小浜駅から15分ほどです。

中名田小学校 山は一部で色づき始めたばかり

 理科実験教室は、ベルマーク財団がへき地校支援の一環として行う「出前授業」で、1999年から昨年度まで221回開催してきました。今回のテーマは「空気の実験を体験しよう」。講師は理科教育分野で数々の受賞歴を持つ同県坂井市立丸岡南中学校の月僧(げっそう)秀弥先生です。

 「空気って、本当は重いんだよ」

 さあ、サイエンスショーの開幕です。体育館に集まった全校児童と保護者、先生など約80人を前に、月僧先生が語りかけます。子ども達は半信半疑。月僧先生はすかさず大きな風船を膨らませます。前に出てきた児童に持ってもらうと、「軽いです」。今度は不意に風船を背中からぶつけると、児童がよろけました。「中の空気にちゃんと重さがあるのが分かったかな」

 今度は広口びんの口にラップを張り、横の穴から中の空気をどんどん抜いていきます。パーンと大きな音を立ててラップが破れました。耳を塞ぐ子どもたち。「外側から空気が強い力で押しているからだよ。難しい言葉だけど、大気圧って言うんだよ」

 次は水槽の中に沈めたビンを逆さまにして、口に板を当てて取り出しました。板から手を離しても、中の水はこぼれません。「これも空気が板を押しているからだね。この板にフックがついています。そこにペットボトルをぶら下げるよ。さて、何本まで耐えられるかな?」

 「1本」「3本」。子とも達から声が上がります。

 「さあ、やってみるよ」。次々と本数を増やしていく月僧先生。なんと、10本になっても板はビンの口に張り付いたままです。「10本なので5キロだよ。空気の力、とても強いのがわかったかな」

空気の重さは…
空気の力でラップを割る
ペットボトル10本も

 段々と実験が大掛かりなものになっていきます。アクリル製の大きな筒にボウリングのボールが入っています。掃除機も登場しました。「これはダイソンです」。よく見ると、日本製の掃除機にマジックで「だいそん」と手書きされています。皆、大笑い。実験の合間に、子ども達を和ませる演出も欠かしません。掃除機が大きな音をたて、筒の上部から空気を吸い出していきます。でも、ボールは浮きません。「なぜだろう、どうして浮かないのかな?」

 「ダイソンじゃないから」。子どもの思わぬ答えに、月僧先生も吹き出します。

 「筒の下が塞がっているからだよ。こうして床との間に隙間をつくって、空気が入るようにして……」。今度は重たいボールが見事浮き上がりました。

 全体で1時間半余り。10数種類の実験を行いましたが、子ども達は終始、目をキラキラ輝かせていました。6年生の野勢くるみさんは「ペットボトルは1個でも無理だと思ったのに本当に“不思議”」、同級生の大江健斗くんは「あの重たいボウリングの球が……。“不思議”です。これまで空気や風について、あんまり考えたことがなかったので勉強になった」とうれしそうです。探求心旺盛な子ども達の姿を見ていると、この地が生んだ偉人、杉田玄白のことをふと思い出しました。

空気の力でボウリングの球が浮く
速い空気の流れで板と板が吸い付いているんだよ


 人体の“不思議”を解き明かす「解体新書」で知られる江戸時代の蘭学者玄白は、実は小浜藩の藩医で、今でも小浜市民の誇りです。駅前通りにある地域の拠点病院は、その名も「杉田玄白記念 公立小浜病院」。玄白の銅像まで立っています。

 学校を後にして小浜市の市街地に戻ると、かすかに潮の香がしてきました。リアス式海岸の景勝地「若狭湾国定公園」の港町。言わずと知れた「鯖街道(さばかいどう)」の起点です。若狭湾でとれた鯖に一塩して、夜を徹して街道をゆくと、京の都に着くころにちょうどいい味になっていたと言います。

 「昼食は鯖寿司で決定」。でも、堪能したいという思いが強すぎたのか、「生」も、「焼き」も、とやっているうちに、いささか食べすぎました。実は「医食同源」を提唱したのも、他ならぬ杉田玄白だったと言われています。「医者から痩せるように、と言われているのに」。意志の弱さを玄白先生に恥じながら、小浜駅に戻りました。列車を待つ間、観光案内所をのぞくと、妙なせんべいが並んでいました。見覚えのある顔が描かれています。愛嬌のあるその面立ちを眺めていると、“不思議”と自信が戻ってきて、思わずこうつぶやいていました。

 「Yes, we can」「Yes, we can」

杉田玄白病院
鯖ずし
オバマせんべい

ベルマーク商品

KGスキンタッチコットン(男児)

ベルマーク検収

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