19分の16が意味するもの/へき地教育研究大会分科会、宇治市立笠取小学校の場合


(2018/10/24)印刷する

 「19分の16」がすべてを表しています。「19」は京都府宇治市立笠取小学校の全校児童の数。うち16人が、学区外の市街地からスクールバスで高速道路を経由して通学している児童の数です。

 小学校があるのは、宇治市の北東部の山間の集落で、過疎化が進む地域です。なぜ、宇治の市街地からわざわざ子どもたちが通ってくるのか、10月12日、全国へき地教育研究大会の分科会で同校を訪ね、公開授業を見学して謎が解けました。

笠取小学校の全景

雑草はなぜそこに‥1、2年「生活科」

 最初は1、2年生合同の生活科の授業です。学校の周囲を散歩して撮影してきた20枚の写真をもとに、雑草はなぜそこに生えているのか考えるのが課題です。自然豊かな地域なのに、電柱とアスファルトの隙間や、石垣の間に生い茂っている雑草たち。担任の西田泰久先生が尋ねます。「どこが不思議やと思った?」

 「土もないのに何で生えているんだろう」

 「狭いところにぎゅうぎゅう詰めで大変そう」

 7人の児童が次々に感想を言い合います。途中で子どもたちが気づきました。

 「でも、それって、草にとってはどうなんだろう」

 植物の生育環境という視点で考え始めた子どもたちは、自然の力強さや自分たちの生き方との比較にまで思いを馳せていきました。

 3、4年生は8人の複式学級です。「総合的な学習」の授業で、校舎の周りで見かける昆虫の「擬態」について考えました。「何のために、何のまねをしているのかな?」。水田利枝先生の問いかけに、発言が相次ぎます。

 「敵に食べられないため」「身を潜めてエサを捕まえるため」「強い生き物に似せることで、周りに危険だと思わせる狙いもあるよ」

 黙っている児童は一人もいません。

 5、6年生(複式)は総合学習の授業で、一学期から近くの竹林に足を運んできました。竹が地下茎で増えていることを知ったり、竹の特性を生かして一輪挿しを作ったり。この日の授業では、児童4人で、竹は人間にとってどのような存在なのかを話し合いました。

昆虫の擬態って‥3、4年「総合学習」
竹林体験を踏まえて‥5、6年「総合学習」


 笠取小学校は、2001年度から京都府内で初めて「小規模特認校制度」=メモ=を導入し、学区外の児童を受け入れ始めました。前年度、全校児童が6人にまで減少して、学校の存続が危ぶまれたからです。「地元の学校を守りたい」と地域の人たちが教育委員会に働きかけて実現しました。

 「ふるさとが教科書になり、教材になる」がコンセプト。清流の川辺にはシロツメクサが密生し、森に入ればアケビが実をつけています。子どもたちは探検を通じて探求心を育み、深い気づきを得ていきます。地域の方々が全面協力していることも特徴で、田植え、草抜き、稲刈り、しめ縄作り、タケノコ堀り、干し柿づくり、餅つき、乗馬、伝統工芸の陶芸など、貴重な体験の機会を数多く提供してもらっています。祭り太鼓にも取り組み、毎年秋に地域の皆さんに練習の成果を披露しています。

 こうした特色ある教育内容が評判となり、学区外からの入学希望者が急増しました。教室が狭いこともあり、抽選で人数を制限しなければならない年も出てきました。また、市立小学校なので、学区外といっても宇治市内居住が条件です。

 「お子さんを笠取小に通わせるために、京都市内や大阪府内から家族で宇治市内に転居したというご家庭もあります」と角田泰志校長は言います。

 そうした意識の高いご家庭にとって、いま、山間の学校が注目の的になっているのです。

見事なバチさばきの祭り太鼓

《メモ》「小規模特認校制度」とは

 少人数ならではのきめ細かな指導、豊かな自然環境や地域の特性を生かした活動など、特色ある教育を行う学校を小規模特認校に指定して、一定の条件のもと学区外からの通学を認める制度。97年に文部省(当時)が「通学区域制度の弾力的運用」を通知、全国の自治体に広がった。

      

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