2023年12月号 読んでみたい本


(2023/12/11)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『あける』(はらぺこめがね・作、佼成出版社)
 表紙はうな重ですね。ふたを開けるとおいしそうなうなぎが見えてきました。続いてお弁当、丼物、鍋物のふた。そして一転、画面にはキャンディーなど包み紙にくるまれたお菓子が並びます。なにかを「あける」喜び、ドキドキ感って、子どもも大人も特別なものがありますね。ページをめくる楽しさが存分に味わえる絵本です。(低学年から、1300円+税)


『わたしたちのケーキのわけかた』(キム・ヒョウン・作、おおたけきよみ・訳、偕成社)
 いちごが載った丸いままのショートケーキ。表紙ではいちごは4個ですが、元々は6個でした。これを兄弟5人でわけます。さあ、どうやって? 分けるのは、ケーキだけではありません。食べ物でも分けにくいものがありますが、1台しかないキックボード、ひとりしかいないおじさん? 分けるのは大変そうですが、シンプルな線で描かれた子どもたちの表情から、うれしさも伝わってきます。(低学年以上向き、1500円+税)


『水は うたいます』(まど・みちお・詩、nakaban・絵、理論社)
 「ぞうさん」などで親しまれたまど・みちおが104歳で亡くなって、来年で10年になるのを前に、「まど・みちおの絵本」シリーズがスタートしました。この詩は、「水は うたいます/川を はしりながら」と始まり、水が海になる日や雲になる日を想う永遠性を、「びょうびょう」「ざんざか」といったオノマトペを駆使して詠っています。それを絵本にする画家さんの歓びがあふれてくる感じでした。(低・中学年から、1900円+税)

 


低・中学年向け

 

『こらしめじぞう』(村上しいこ・作、軽部武宏・画、静山社)
 サブタイトルは「ふらちなやつ引きうけます」。「妖怪わらわら こらしめたいのはだれ」「妖怪くっちゃう 忠告なんてきかない」「妖怪すてまる いちばんこわいのは……」の三話から成りますが、これらの妖怪はこらしめじぞうの手下たち。誰かのことをなんとかしたいと思っている人の前に現れるこらしめじぞう。しかし、うかうかとその言葉に従ってその誰かを懲らしめてくださいと手を合わせると、徹底した懲らしめが待っています。もういいと思っても、取り消しはなし。『れいぞうこのなつやすみ』など、ユーモアあふれる作品世界で人気の作者ですが、二重、三重に“毒”のスパイスを効かせたシリーズの始まりです。(中学年以上向き、1300円+税)


『とったんは理学療法士』(茂木ちあき・作、鈴木びんこ・絵、国土社)
 誕生日に家族そろって出かける予定だったまゆ。ところが、「とったん」(弟が幼い頃の父さんの呼び名が家族にも広まって)の勤める病院からの呼び出しで、行けなくなってしまいました。この始まり方はややパターンともいえますが、この作品では、理学療法士であるとったんの仕事の内容や病院の中での立場がきちんと描かれ、仕事のかけがえのなさがまっすぐに伝わってきます。仕事か家庭かというのは、大人にとっても子どもにとっても簡単に答の出ない設問でしょうが、誇りをもって仕事をしているとったんの姿が胸に迫ります。(中学年以上向き、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『悪漢を追跡せよ』(仁木悦子・作、あすなろ書房)
 この作者の名をご記憶の方もいらっしゃると思いますが、それは「日本のアガサ・クリスティー」と呼ばれたミステリー作家としてでしょう。実はその出発は児童文学で、本名の「大井三重子」の名で作品を残しています。これは、彼女の子ども向けのミステリーを新たに「仁木悦子・子ども謎ときミステリー」として編集した第一弾で、4編から成っています。表題作の「悪漢追跡せよ」は、5年前に父親を交通事故で亡くした澄子と勉の姉弟の物語。父の死後、手芸店を営む母親に新しいお相手ができたようですが、澄子は歓迎できません。ところがそのお相手、秋谷のおじさんが殺人容疑で逮捕されるという事態に。被害者は、おじさんが一時付き合っていた女性でした。アリバイを証明できたはずの母親への手紙を捨ててしまったということもあり、澄子は真犯人探しに動き出します。今の児童書の世界ではこうした話は本になりにくいだろうという展開で、「ごっこ」ではない本格推理が楽しめるシリーズです。(高学年以上向き、1800円+税)


『アップサイクル! ぼくらの明日のために』(佐藤まどか・作、ポプラ社)
 古いタオルを雑巾として使うといったダウンサイクルに対して、アップサイクルというのは、古い衣類をおしゃれなバッグに作り変えるというように、グレードアップして物を生まれ変わらせること。中学2年生の丈、紫月(しづき)、王(ワン)ちゃんの3人は、社会科の夏休みの課題でグループ研究をすることになります。丈と紫月は幼稚園からのつきあいですが、中国人である王ちゃんは転入生。有名私立中学に入るだけの学力と財力に恵まれているようなのに、「あえて」区立中学に入ってきたという変わり種。3人が集まったのは、新しい冷却器の特許を取るなどして、大学生ながら起業を図っている紫月の姉の茜が使っているスタジオでした。ここは倉庫カフェとして使われていた所で、その備品だった黒板を天板に、古いミシンの脚を支えにして、思いがけなく素敵なテーブルができあがります。これをきっかけに、3人がアップサイクルのためのサイトを立ち上げるまでに至るのですが、そのプロセスがリアリティにあふれています。3人の個性と掛け合いのおもしろさ、そしてアイデアが段々と現実のものになっていく痛快さは、同世代の読者をひきつけずにはおかないだろう、と感じさせる一冊でした。(小学校高学年・中学生以上向き、1600円+税)

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