2023年10月号 読んでみたい本


(2023/10/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『とんで やすんで かんがえて』(五味太郎・作、偕成社)
 絵本には左開き(文は横書き)と右開き(縦書き)のものがありますが、これは左開き。表紙も鳥が右を向いていますが、開くとまずは左側のページに右のほうに向かって飛んでいる鳥が、そして次の見開きでは、右側のページに木に止まっている鳥が描かれます。そんなふうに飛んでいくと、いきなり画面が濃い青に。海です。さあ、広い海を前にして、鳥は同じように飛び続けられるのか……。
 言葉で説明するのは疲れますが(笑)、いつもながら、文句なしに楽しませ、考えさせてくれる、五味太郎の世界です。(低学年から、1300円+税)


『草原が大好き ダリアちゃん』(長倉洋海・写真・文、アリス館)
 シベリアの地で、トナカイと共に暮らす家族。ダリアちゃんは5歳の女の子です。10月にはもう雪が降り始めますが、トナカイのえさを求めて一週間ごとに移動する生活です。
 ダリアちゃんのアップ、テントの中の様子や家族たちの表情、そしてシベリアの広大な大地とトナカイたち。白や緑の大地と、民族衣装の鮮やかな色の対比も見事で、ページをめくるごとに、目を奪われる写真絵本です。(低学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『ブニーとブールド』(山下篤・作、広瀬弦・画、福音館書店)
 町外れの丘の上に建つ小さな家。ここに住んでいたおばあさんがある時から帰ってこなくなり、残されたのは二つのブタのちょきんばこ。ピンクのがブニー、水色がブールドです。なにしろちょきんばこですから、2ひきともお金が大好き。それに、パンも大好きです。5日ごとにパン屋さんに出かけて好きなパンを買います。パン屋さんはちょきんばこからお金を取り出し、またお金を入れてくれます。(本当はおつりなのですが、2ひきはお金の数が増えたと大喜び。)雨が近づくとにおいでわかる2ひきは、雨が好きな人を探しに出かけます。教えてあげれば、お金を入れてもらえるかもしれないと思って……。
 ちょきんばこならではの個性が見事に描かれ、これを読んだ子はちょきんばこにお金を入れたくなるのではないでしょうか。(低・中学年以上向き、1400円+税)


『ねこぜ山どうぶつ園』(角野栄子・作、よしむらめぐ・絵、金の星社)
 こちらは本物(?)の動物たちの動物園。園長のリリーさんは、父親から園を受け継ぎ、23歳の若さです。楽しい動物園にするために園の中に住んで、毎朝動物たちに挨拶して回ります。第一話「カバのオシリちゃん」、第二話「ヒツジのヒールくん」というふうに、いろんな動物たちをめぐる話が続きますが、動物たちに苦情を言われたり、教えてもらったり、リリー園長は、実に動物たちと“対等”です。そして、新しい動物がほしいと思っていたリリーさんに、思いがけない出会いがやってくるのです。
 ご存知の方も多いでしょうが、作者の角野栄子さんの文学世界を基調とした「魔法の文学館」が、11月3日、東京の江戸川区にオープンします。大人も子どもも楽しめそうです。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『ひと箱本屋とひみつの友だち』(赤羽じゅんこ・作、はらぐちあつこ・絵、さ・え・ら書房)
 朱莉(あかり)がその店に入ったのは、図書館でようやく借りられた大好きなシリーズの新刊を歩きながら読んでいて、転んでしまったから。目の前のお店から女の人が出てきて、ばんそうこうを貼ってくれたのです。その店は「ひと箱本屋カフェ」。奥にカラーボックスが積まれていて、その一つひとつが、編み物に関する本とか、黒い本ばかりというふうに、それぞれのオーナーの好みの「本屋」になっているのです。朱莉の目を惹いたのは「虹色本屋」という箱で、小学生が自分で書いた物語を本にして売っているのだといいます。持っていた500円で3巻全部買ったその本は、朱莉の大好きなファンタジーでした。
 お店の人に頼んで、〈作者〉に会うことになり、やってきた理々亜は、同じ5年生で、車いすの子でした。仲のいい陽菜にそのことを話すと「ボランティア」と言われてしまいましたが、朱莉にとっては好きな本のことを思いっきり話し合える、初めての友だちでした。
 こんなカフェがほんとにあったら、本好きにはたまらないですね。朱莉、理々亜、そして陽菜、それぞれの個性が時にぶつかり、響きあう、ドキドキハラハラの物語でした。(高学年以上向き、1500円+税)


『世界一長い鉄道トンネル~スイス・アルプス山脈をほりすすむ~』(笹沢教一・文、学研)
 「世界一長い鉄道トンネルはどこ?」、物知り小学生なら答えられる質問かもしれませんが、僕はこの本を読むまで全く知りませんでした。このトンネルができるまでは、青函トンネルが世界一の座にあったことも。
 青函トンネルは日本国内ですが、アルプスのトンネルは、北側のスイス、ドイツと、南側のイタリアをつなぎ、その経済効果は大きく、かなり昔から峡谷に橋を架けたり、トンネルが掘られたりしてきました。ここにきて、57キロメートルにも及ぶ本格的な鉄道トンネルが計画されたのは、速さだけでなく、自動車に比べて環境に悪影響を与えないという要素も重視されたようです。
 この手のノンフィクションは、トンネル工事にあたった人たちの「苦労」を中心に描かれることが多かったように思いますが、この本は、アルプス山脈の地質のことや、トンネル工事の技術史のことがかなりくわしく書かれています。章のタイトルが「始発駅」「1駅目」となっているなど、本作りにも工夫が凝らされていて、読みでのある一冊でした。(高学年以上向き、1500円+税)

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