2023年6月号 読んでみたい本


(2023/06/12)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『ほしまつりが やってくる!』(杉田比呂美・作、アリス館)
 「10年ぶりの星祭りです」という、村長さんからのお知らせに沸き立つ村の人たち。衣装の用意、楽隊の練習、星祭り用のパン作り等々、着々と準備に取り組む様子が、ページをめくるごとに展開していきます。もちろん会場の広場の準備も急ピッチに進められます。ラスト、灯りを消しての、「本当の星祭り」もすてきですが、祭りのある意味一番のうれしさが、それを待つ日々であることを思いださせてくれる絵本です。(低学年以上向き、1500円+税)


『ピージョのごちそう祭り』(川端誠・作、偕成社)
 こちらは食欲派向きで、ピージョという(多分)架空の国の、かなりにシステム化(?)されたお祭りです。この国は四つの村から成っていて、それぞれ毎年新しい料理が出されます。人々は乗り物で村から村へ食べ歩き、おいしいと思った料理に投票するのですが、投票権があるのは子どもだけ。夜に備えて昼寝をしたり、たくさん食べてもお腹一杯にならない仕掛けもちゃんとあります。本当にこんな祭りがあったら、世界中から人が集まりそうです。(低・中学年から、1300円+税)


『ふしぎいっぱい! 学校の木』(高柳芳恵・文・写真、偕成社)
 子どもたちにとって、学校の校庭などの木は、あまりに見慣れた存在だけに、意識しないままでいることが多いのではないでしょうか。この写真絵本は、〈かんさつ〉〈あそび〉〈実験〉という副題が示すように、サクラ、ケヤキ、イチョウなどを始めとする「学校の木」を紹介するとともに、葉っぱや木の実の特徴や、それらを使った遊び方などを伝授してくれます。例えば葉っぱに切手を貼ってハガキにすることも可能、文字通りの「葉書」ですね。図書館の目立つところに備えたい一冊です。(中学年から、2500円+税)

 


低・中学年向け

 

『一年一組 せんせいあのね こどものつぶやきコレクション』(鹿島和夫・選、ヨシタケシンスケ・絵、理論社)
 このタイトルに覚えのある先生も、いらっしゃるのではないでしょうか。神戸で小学校の先生をしていらした鹿島和夫さんが一年生に書かせた「あのね帳」から選んだ言葉が4巻にまとめられて話題になったのは、1980年代のことでした。『兎の眼』の灰谷健次郎さんも、鹿島さんのお仲間でした。その『一年一組 せんせいあのね』からとられた子どもたちの「つぶやき」が、ヨシタケさんの絵で新たによみがえりました。子どもの言葉にドキッとさせられた経験はみんなあるはずですが、ドキッとさせられながら笑うことのできる、微笑むことのできる、人を好きになることができる、やはり「珠玉」のつぶやき。大人と子どもで一緒に楽しみたい一冊です。(低学年から、1500円+税)


『2だい目びょういんきんむ犬 モリスのでばんです!』(若月としこ・作、八木橋麗代・絵、岩崎書店)
 病院勤務犬というのはあまり聞きなれない名前ですが、この本の「主人公」モリスは、スタンダード・プードルで、週2回聖マリアンナ医科大学病院で、「仕事」をしています。入院しているお母さんを見舞いに来た子どもたちの所にモリスがやってくると、お母さんのことが心配で沈んでいた子どもたちも元気になりました。また、交通事故で膝から下を切断し、ベッドから出てこなかった若者も、モリスに会ってから車椅子で出かけるようになりました。初代の勤務犬モカと共にスウェーデンからやってきたモリス。入院はしていなくても、モリスに会いたくなりました。(低・中学年以上向き、1100円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『夏に、ネコをさがして』(西田俊也・作、徳間書店)
 祖母の死で空き家になった家に、夏休みに越してきた6年生の佳斗。夏子という名前の通り、明るくて元気だった祖母の死は突然で、この家には祖母との思い出がつまっていました。祖母がかわいがっていた外ネコのテンちゃんが懐いてくれた矢先、そのテンちゃんの姿が急に見えなくなります。テンちゃんを探して歩くうちに、このあたりの地理を覚えていく佳斗は、信号の所で蘭という男の子に声をかけられます。この登場のしかた、蘭の人物像が出色。結局テンちゃんは、思いがけない所で見つかるのですが、佳斗はその途上でいろんな人(やネコ)と出会うことになります。寡作が惜しまれる作者ですが、それだけに作品の密度は確かで、読者はいつのまにか佳斗と一緒に、この「年寄りだらけ」の住宅団地を探検し始めるのではないでしょうか。(高学年以上向き、1700円+税)


『ベアトリスの予言』(ケイト・ディカミロ作、ソフィー・ブラッコール絵、宮下嶺夫・訳、評論社)
 〈悲しみの年代記修道院〉のエディック修道士は、ある時ヤギのいる納屋で、泥や血で汚れた女の子が眠りこけているのを見つけます。数日後、高熱から醒めた女の子は、自分のベアトリスという名前以外は、何も覚えていません。しかし、エディック修道士を驚かせたのは、彼女は字が読めるらしいことでした。この国では、女性は、字を読むことも書くことも禁じられていたのです。村の少年ジャック・ドリーは、旅籠で死にかけている兵士のために修道院に行き、そこでベアトリスと出会います。ベアトリスが誰かから逃れてきたらしいと気づいた修道院長は、ベアトリスを追い出そうとし、そこからベアトリスとジャック・ドリーとヤギのアンスウェリカの冒険が始まります。
 いかにもファンタジーらしい象徴性にあふれた物語ですが、それらは言葉や文字の持つ力がいかに人の心を解放し、社会の暗黒を照らすかという寓意に満ちていて、中世的な世界を描いたこの物語が、期せずして現代を照らす物語として迫ってきます。(高学年・中学生以上向き、1800円+税)

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