2020年2月号 読んでみたい本


(2020/02/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『さくらの谷』(富安陽子・文、松成真理子・絵、偕成社)

 季節はまだ肌寒い3月、林の中の尾根道を歩いていた「わたし」の前に、ふいに深い谷が姿を現します。そして谷をのぞいたわたしの目の下に、そこだけ満開の桜が広がっています。何やら聞こえてくる歌声に魅かれるように谷に降りていったわたしが見たのは、車座になって花見をしている鬼たちでした。いつのまにかわたしも鬼たちにまざり、やがて鬼ごっこが始まるのですが、鬼になって追いかけるわたしの中で、なぜか鬼たちが亡くなったおばあちゃんやお父さんの面影と重なってくるのです。桜や鬼といったイメージを駆使しながら、読者の心の奥に訴えてくる見事な絵本です。(中学年から、1300円+税)


『ふゆとみずのまほう こおり』(片平孝・写真・文、ポプラ社)

 著者は以前に『おかしなゆき ふしぎなこおり』という写真絵本を出されていて、僕はそこから何枚かをピックアップして、大学の創作の授業でその写真を使って絵本を作るという授業をしていました。冬の景色は本当に幻想的な世界に誘ってくれます。ただ考えてみると「雪景色」という言葉はあっても「氷景色」という言葉はありません。今回のこの絵本ではその氷の様々な姿が、アップやロングを効果的に使ったアングルで映し出されます。氷は温度によって刻々と姿を変えるわけで、「瞬間の芸術」という言葉を思い出しました。(低学年から、1500円+税)


『「てへか へねかめ」おふろでね』(宮川ひろ・作、ましませつこ・絵、童心社)

 『先生のつうしんぼ』などで親しまれた宮川ひろさんが亡くなられて一年余り、その宮川さんの新作絵本です。お風呂で温まる時の唱え言葉というのは色々で、中には家族のオリジナルもあると思いますが、宮川さんは「てへか へねかめ」で始まる唱え言葉を信州出身の方から聞き、いつか絵本にしたいと考えていました。そして病床のベッドで原稿を書かれていたということです。おじいちゃんと孫が三回繰り返す暗号のような楽しい唱え言葉から、宮川さんが子どもたちに注いできた限りない愛情を感じ取ることができます。(低学年以上向き、1300円+税)

 


低・中学年向け

 

『にんげんクラッシャーさんじょう!』(最上一平・作、有田奈央・絵、新日本出版社)

 1年生のいがらし君は登校の途中で何かを見ているりゅうせい君に気づきます。彼が見ていたのは工事現場のクラッシャーで、まるで人の腕のような動きで建物を壊しています。離婚したりゅうせい君のお父さんはクラッシャーのオペレーターをしているようなのです。放課後もクラッシャーを見にきた二人でしたが、次の日に工事は終わってしまいました。ここから二人が考えた「人間クラッシャー」遊びの世界が繰り広げられます。子どもの日常の中のできごとをドラマにしていくのはこの作者の独壇場ですが、読者には二人がいつのまにか友だちのように思えてくるに違いありません。(低学年向き、1300円+税)


『災害救助犬じゃがいも11回の挑戦』(山口常夫・文、岩崎書店)

 災害救助犬は土砂やがれきに埋もれた人を発見する大切な役目を負っていますが、合格率2~3割という厳しい試験をクリアーしなければなりません。東日本大震災の直後に福島で生まれたじゃがいもは、岐阜の訓練施設に引き取られ、災害救助犬を目指すことになります。一歳半から始めて、1年に2回の試験に挑み続け、被災地生まれということで注目されたじゃがいもでしたが、10回続けて不合格。ところがラストチャンスともいえた11回目についに合格。このニュースは、出身地の飯館村を始め、福島の人たちを大いに励ましました。じゃがいもを引き取り、育ててきた著者によるノンフィクションです。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『希望の図書館』(リサ・クライン・ランサム作、松浦直美・訳、ポプラ社)

 舞台は1940年代後半のシカゴ。この前後多くの黒人が差別から逃れ、仕事を求めて南部から北部に移り住みました。ラングストン少年もその一人で、母の死を契機にアラバマから父と二人でシカゴにやってきたのです。しかし、中学校のクラスでは「南部のいなかもん」と言われ、アパートでは父の帰宅を待つだけの日々。そんなラングストンが、学校帰りに図書館を見つけます。アラバマでも図書館はありましたが、それは白人専用。しかしここでは多くの黒人が利用しています。元々本が好きなラングストンは、ここで自分と同じ名前の詩人の詩集に出会います。詩の一編一編がラングストンの心をどんなふうに目覚めさせていくのかを通して、社会と文化の、時代と人間との関係性について考えずにはいられない物語でした。(高学年以上向き、1500円+税)


『戦場の秘密図書館~シリアに残された希望~』(マイク・トムソン作、小国綾子・訳、文溪堂)

 シリアでは2011年にアサド政権への抗議活動が広がり、その拠点の一つがダラヤでした。しかし、翌年、ダラヤは政府軍に包囲されます。そうした中で、爆撃を受けた地区の地下室を利用して、がれきの中から集めた本を収集し、図書館を作った若者たちがいました。ここの「司書長」を名乗るのは、14歳のアムジャドで、1万4千冊という蔵書数からもわかるように、決してただ本を並べているだけでなく、図書館としてのシステムを備えており、爆撃から救った本も、最大限持ち主と連絡をとって、後で返せるようにしていたのです。著者はイギリスBBC放送のジャーナリストで、現実には2016年にこの図書館は政府軍に発見され、略奪されてしまいますが、これこそまさに現代の「希望の図書館」だと思わされました。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)

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