2018年10月号 読んでみたい本


(2018/10/15)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『つくえはつくえ』(五味太郎・作、偕成社)

 男の子の前にある物が山積みの小さな机。「なんだか つくえ せまいきがする」とあります。隣で父親らしき男の「きがするんじゃない。せまいのだ」「ひろいつくえをつくってやろう!」という台詞。そして、見開き一杯の広い机。あまりに広いので、いろんな子たちが机の上に集まってきます。絵本『てぶくろ』と『おおきなおおきなおいも』を掛け合わせたようなおもしろさといったら説明になるのでしょうか。でも、机は机なのです。(低学年から、1200円+税)


『じめんのしたにはなにがある』(中川ひろたか・文、山本孝・絵、アリス館)

 お母さんにもう遊ばなくなったミニカーを捨てなさいと言われた〈ぼく〉。大人になったらお宝として掘り出そうと、箱に入れて土中に埋めます。地面の下にはいったい何があるんだろう?と考え始める〈ぼく〉。ここからは科学絵本のような細密さと、どんどん広がる〈ぼく〉の妄想(?)が不思議に重なって、独特の世界を形成していきます。こういう絵本は、あまり本好きでない子に勧めても、きっと大丈夫でしょう。(低・中学年から、1400円+税)


『スタンリーと小さな火星人』(サイモン・ジェームス作、千葉茂樹・訳、あすなろ書房)

 母さんが泊りがけで出かけた日、スタンリーは「地球を離れることに」し、庭で宇宙船に乗り込むと火星に向かいます。やがて同じ宇宙船が庭に戻り、中から出てきたのは小さな火星人(というふうに物語は進行しますが、実際はヘルメットを被ったスタンリー)でした。それを見た兄さんも父さんもちゃんと火星人として遇し、夕食で火星人の口に合わない食べ物を残しても怒りません。さて次の日、お母さんが帰ってきた時火星人のとった行動は? 子どもの心への添い方が、いい意味で「欧米か」と思わせてくれる魅力的な絵本です。(低学年から、1400円+税)

 


低・中学年向け

 

『小学生まじょとまほうのくつ』(中島和子・作、秋里信子・絵、金の星社)

 1年生のリリコが遠足の前の夜、玄関のげた箱の中からガタゴトと音がします。中で古い木箱が動いていたのです。開けてみると、出てきたのは先のとんがった黒い靴。おばあちゃんがリリコのためにしまっておいた靴のようです。おばあちゃんは魔女なのですが、お母さんはリリコが魔女になることに反対しています。次の日、お母さんには内緒でこの靴をはいて出かけたリリコ……。こういう母親と祖母の関係性、実は今の子にとっては結構リアルなのではないでしょうか。シリーズ第5作ですが、初めてでも充分楽しめます。(低学年向き、1200円+税)


『秘密基地のつくりかた教えます』(那須正幹・作、黒須高嶺・絵、ポプラ社)

 4年生の保は、学校の帰りに隣のクラスの省吾から声をかけられます。乱暴だという評判の省吾ですが、意外にも子ネコを隠れて飼っていて、保に育て方を聞きたいというのです。二人で協力して資材置き場のコンクリートパイプの中で育てることにし、一度ネコと一緒に泊まりたいという省吾のために、お互いの家に泊まるという口実で、パイプの中で一晩を過ごします。これに味をしめた二人は、彼らの秘密に気づいた保の兄ちゃんの手助けも得て、今度は裏山に秘密基地を作ろうと、小屋作りに取りかかります。「ズッコケ三人組」シリーズの作者からの「秘密基地の勧め」、今の子どもたちはどう受けとめるでしょうか。(中・高学年向き、1300円+税)

 


高学年・中学生向き

 

『冒険は月曜の朝』(荒木せいお・作、タムラフキコ・絵、新日本出版社)

 ある月曜日の朝、都内から河口湖方面に向かう電車に乗っている二人の6年生。土曜日の音楽会の振替休日なのですが、平日に小学生が男女で一緒だと怪しまれるので、「兄妹ということにしよう」と提案する風花。実際この二人はカップルなどではなく、若いおばさんがいる河口湖近くのおばあちゃんの家を訪ねようとしている風花が、電車に詳しい賛晴(さんせい)に道案内を頼んだのでした。但し、二人とも訳あって家族には無断で出てきたのでした。ということで、この作品は小学生二人が織りなす言わばロードムービーなのですが、旅の途中で出会うさまざまな人たちとのやりとり、そして二人がそれぞれの「訳」を次第に明かし合う展開が絶妙で、思わず引き込まれていきます。二人の6年生の造型がとても等身大な感じで、読んでいて二人を応援したくなる物語でした。(高学年以上向き、1500円+税)


『ぼくがスカートをはく日』(エイミ・ポロンスキー・作、西田佳子・訳、学研プラス)

 タイトルで見当がつくように、LGBTの「少年」を主人公にした物語。こうした題材はすでにいくつか書かれていますが、ここまで正面から取り上げたかという、やはり驚きがありました。主人公は、12歳となりいよいよ心と体のアンバランスに悩むグレイソン。転機は、文化祭で演じられる劇のオーディションへの参加でした。ギリシャ神話を元にした劇で、グレイソンは女神ペルセポネ役に挑むのです。幼いころ両親が交通事故で亡くなり、グレイソンはおじさんに引き取られたのですが(この設定も、物語のラストに大きく関わってきます)、特におばさんは、グレイソンが女性役を演じることで予想される周囲との軋轢を考え、翻意を促します。果たして、事態はPTAを巻き込み、劇を指導する先生の進退にも関わっていきます。ある意味、日本以上に「男女」意識の強いアメリカという国で、「自分は誰なのか」という問いに真摯に向き合うグレイソンの姿が胸を打ちます。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)

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