2017年秋季号 読んでみたい本


(2017/10/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 近年「ビブリオバトル」という言葉を耳にする機会が増えてきました。「語る書評」とでもいうか、何人かが自分が勧める本のセールストークをし、話を聞いた人たちがどの本を読みたくなったかを投票して1冊を決めるという、ゲームのような雰囲気も備えたイベントです。最近は小学校でも、子どもたちの読書への関心を高めるための取り組みとして始められているようです。そのビブリオバトルを題材にした作品を2冊読みました。

 まずは『ビブリオバトルへ、ようこそ!』(濱野京子・作、森川泉・絵、あかね書房)。あこがれの6年生の幸哉が図書委員になるらしいと聞いて、自分も手をあげた5年生の柚希。委員会で先生がビブリオバトルを提案します。柚希も参加することになりますが、どんな本を選んだらいいのか、決められた時間内でどんなことを話せばいいのか、その準備の中で、ビブリオバトルの方法やおもしろさが読者にも伝わってきます。物語の中で柚希は4回のバトルを経験するのですが、他のバトラーも含めて取り上げる本がなかなかに多彩で、選んだ本を通して登場人物たちの個性が浮き上がってくるおもしろさもありました。(1300円+税)

 次の『なみきビブリオバトル・ストーリー 本と4人の深呼吸』(赤羽じゅんこ・松本聰美・おおぎやなぎちか・森川成美・作、黒須高嶺・絵、さ・え・ら書房)は、4人の作家による共作で、バトラー一人ひとりの物語を、一人ずつの作家が受け持つという、珍しい構成です。こちらは並木図書館という町の図書館が舞台で、若い司書の発案で小学生のビブリオバトルをやることになるのですが、それぞれの思いを抱えた4人のバトラーが参集します。こちらは1回だけのバトルですが、選んだ本への思いを通じて、バトラーの心模様や、家族の物語などが映し出されます。(1400円+税)

 この種の本は下手をすると企画倒れになったりするのですが、2冊とも 「物語を通じて物語を描く」という試みが、作品の魅力になっていました。

  


  

 さて、ここからはいつも通り、ジャンル、グレード別に本を紹介していきます。まずは絵本から。

 

『おさんぽだいきょうそう』(三池悠・作、偕成社)

 ある晴れた日、〈ぼく〉とばあばが散歩に出かけ、それがいつのまにか競走に。家の前の森で〈ぼく〉が犬に乗って走り出すと、森の向こうはサバンナになっていて、だちょうに乗ったばあばが〈ぼく〉を追い越していく……というように、舞台も乗り物もどんどんヒートアップ。最後は宇宙での競走になります。動物や乗り物のスピードを正確に比べる「科学」と、舞台が次々に切り替わる「空想」とが、不思議にマッチした絵本です。(低学年から、1200円+税)


『あいたくなっちまったよ』(きむらゆういち・作、竹内通雅・絵、ポプラ社)

 家への帰り道、岩にはりついた子ネズミを見つけたやまねこ。取って食おうとすると、「ぼくの父ちゃんがおまえを許さないぞ」と、子ネズミが反撃してきます。ところが、いざ出てきた父親ネズミ、必ず守ってやるといういつもの言葉とは裏腹に、おっかなびっくりです。それでも必死に向かってくる父親ネズミを前に、やまねこは……。「あらしのよるに」の作者による、笑いと涙の(?)ストーリー絵本で、やまねこやネズミの表情が抜群。お父さんの読み聞かせにもお勧めです。(低・中学年向き、1300円+税)


『マンモスのみずあび』(市川里美・作、BL出版)

 舞台はインド。アプーズ少年の住む村のお寺では守り神の象を一頭飼っていて、アプーズの父親は、象の世話が仕事です。アプーズはいつも手伝っているのですが、父親が木の枝を切りに行くので、初めて一人で川での水浴びを任されます。楽しく水浴びをしているうち、急な雨で水かさが増えた川から出ようとした時、次々に流されそうな動物たちを見つけます。生命の息吹が伝わってくるような温かいタッチの絵が、作品世界を支えています。(低・中学年向き、1400円+税)


『うし』(内田麟太郎・詩、高畠純・絵、アリス館)

 「ともだちや」シリーズの絵本などでおなじみの内田麟太郎さんは詩人でもあり、これはその詩を絵本にした一冊。ストーリーというよりはナンセンス、はっきりいえばダジャレの世界。しかし、おもしろい。そして深い(かも知れない)。こういう作品を紹介するのはとても難しいのですが、帯には「おもしろすぎてもウシわけない!」とありました。(子どもから大人まで、1300円+税)


  


  

 次は、低学年から中学年向きの読み物です。

 

『ヘッチャラくんがやってきた!』(さえぐさひろこ・作、わたなべみちお・絵、新日本出版社)

 あゆむのクラスにやってきたのは、2週間だけという転校生。それも、幼稚園児くらい幼い感じのロボット、ヘッチャラくんでした。先生のおじさんがロボットを研究していて、お年寄りの家に一緒に住む子どものロボットを完成させるために「体験入学」させようというのです。計算はできるけど、なわとびはできないヘッチャラくん、どんな時も元気です。教室で読んであげたら、「ヘッチャラヘッチャラ」という言葉が流行りそうです。(低学年向き、1300円+税)


『まほうのほうせきばこ』(吉富多美・作、小泉晃子・絵、金の星社)

 新幹線に乗っておじいちゃんに会いに行くはずだったユウナでしたが、おじいちゃんの急死で悲しい再会になってしまいます。2年生になり、クラスの男の子から「おまえ、さっさとシネ」と言われたユウナ。その時怒ったのは、普段は乱暴な言葉遣いの奈良くんでした。お母さんの手術を経験し、そうした言葉に敏感になっていたのです。次の日の朝、なぜか体が重く起きられないユウナ。そうした朝が何日も続きます。そんなユウナのもとに、おばあちゃんからの宅配便が届きます。心のもやもやと向き合うユウナ、それを見守るお母さんの姿が胸に迫ります。(低・中学年向き、1200円+税)


『春くんのいる家』(岩瀬成子・作、坪谷令子・絵、文渓堂)

 両親の離婚で、母方の祖父母の家で暮らすことになった4年生の日向。そこに今度は、いとこの中学生の春も一緒に暮らすことになります。日向の母の兄が春の父親でしたが、何年か前に亡くなり、春の母親が再婚するので、祖父母の家にひきとられることになったのです。一人っ子の日向にとっては元々、兄のような存在の春でしたが、祖父母の家にやってきた春は、なんだかお客さんのような感じです。そして、日向にはその気持ちがよくわかるような気がするのです。こうした設定の物語は、今は児童文学でも珍しくありませんが、それぞれの思いを抱えた家族たちが少しずつ寄り添っていく姿は、そうした設定を越えて確かなリアリティを感じさせます。(中学年以上向き、1300円+税)


  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。冒頭で紹介した2冊も高学年向きなので、それとは違った傾向、ジャンルの作品を。

 

『オオカミのお札(一)(二)(三)』(おおぎやなぎちか・作、中川学・絵、くもん出版)

 東京・奥多摩にある小さな祠を守る一家をめぐり、幕末、戦時下、そして現代の物語が描かれる3部作。祠(ほこら)に祭られているのはオオカミで、この一家では大神さまと呼びます。1冊目の「カヨが聞いた声」では、姉のカヨが、疱瘡(ほうそう)にかかった妹の回復と共に「顔にあばたが残りますように」と祈ります。いつも器量良しの妹と比べられてきたカヨの密かな思いでした。そして、明治を迎える時代の姉妹のそれからが描かれます。2冊目の「正次が見た影」の正次は、級長を務める双子の兄の昌一に複雑な思いを抱いています。出征することになったおじさんが「無事に帰ってほしい」という昌一を、非国民となじる正次。やがて手に障害がある2人の父親にも召集令状が届きます。3冊目の「美咲が感じた光」では、正次の孫の美咲が、両親の離婚で母親と共にこの家に住むことになります。岩手に残ったのは父親と姉。やがて姉は地元で社会人となり、結婚も決まった矢先、東日本大震災が襲います。

 お札で封印された祠に、それぞれの主人公たちが託した願い、祈りに、人間の変わらぬ生きる喜び、哀しみが重なります。(高学年以上向き、各1000円+税)


『空で出会ったふしぎな人たち』(斉藤洋・作、高畠純・絵、偕成社)

 奇想天外という言葉は、この作者のためにあるようです。〈わたし〉は、「カオス」を見つけて修繕する管理エージェンシー。この設定を説明するとそれだけで長くなるので省略しますが、要するに〈わたし〉は空飛ぶ玄関マットに乗って、自由に飛び回れるのです。そんな空中散歩で出会った様々な者たちとのおかしな出会いを描いた連作短編集。例えば第1話では、空中に柵が現れ、牛たちを連れたギリシャ人が登場します。その顛末(てんまつ)もおもしろいのですが、そうした「異常事態」をなんとか自らに納得させようとする〈わたし〉の思考回路や、ギリシャ人とのやりとりが絶妙で、落語のようなおもしろさがふんだんに味わえます。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)


『珍獣ドクターのドタバタ診察日記』(田向健一著、ポプラ社)

 都内に動物病院を開院している著者は、「珍獣ドクター」の異名を持つ獣医さん。他の動物病院で断られた動物たちの診療を引き受けたりしているうちに、カエルやカメ、トカゲにウーパールーパー、カンガルー、コウモリ、ペンギン等々、開業14年にして百種類以上の動物を診ることになりました。その診療の様子、工夫にも感心させられますが、子ども時代の著者が様々な生き物と出会い、飼うことになったプロセスが興味深く、そうした子ども時代からの夢を追い続ける姿が感動的です。(高学年以上向き、1200円+税)

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