2017年夏季号 読んでみたい本


(2017/07/12)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 子どもの本の世界では、本来、大人向けの物語やかなり長大な物語を、子ども向けに書き改めるケースがよくありました。あくまでも「完訳」(この場合の「訳」は、日本語訳だけでなく、古典を現代語にするケースも含みます)で読ませるべきだという考え方もありますが、良くできたダイジェストは、脚本化などと同じ、二次創作ともいえるように思います。また、元のオリジナル作品を意識しつつ、もう一つの作品世界を創り上げるパターンとして、パロディーとかオマージュという方法もあります。そうした二次創作的な、二つのシリーズが出されました。

 まずは「古典から生まれた新しい物語・全5巻」(日本児童文学者協会編、偕成社)。第1巻の「迷宮の王子」はサブタイトルが「恋の話」で、シンデレラなどをモチーフにした「すみれ」他4作が並びます。古事記の黄泉比良坂伝説、ギリシアのオルフェウス神話を下敷きにした「影」のように、内外の古典を合わせてモチーフにした作品もあり、物語世界のはるかな奥行きを感じさせます。

 もう一つは「名作転生」シリーズ(学研プラス)で、1巻目のタイトルは「悪役リメンバー」。こちらは「ハーメルンの笛吹き男」をモチーフにした「子供たち」、「走れメロス」を下敷きにした「ディオニス王の孤独」など、近代の小説も含めた7編に新たな光が当てられます。帯にある「奇想天外二次創作型短編小説集」の言葉に納得でした。

  


  

 さて、ここからはいつも通り、ジャンル、グレード別に本を紹介していきます。まずは絵本から。

  

『ちっちゃな木のおはなし』(ローレン・ロング作、やまねもとよ・訳、評論社)

 原っぱに植えられた一本の木。葉陰でリスや鳥たちが遊びます。秋になって葉を落とす木々の中で、その木だけは雪が降っても葉を離すまいとがんばります。春になり、すくすくと育つまわりの木々たちの中で、ちっちゃなままの1本の木。季節が巡り、高い木に囲まれてしまったちっちゃな木は、ようやく葉っぱを離す決心をします。シンプルなストーリーですが、子どもたちはいろんなふうに、この木と対話できそうです。(低学年から、1400円+税)


『きんぎょとしょうぶ!』(うどんあこ・文、たごもりのりこ・絵、文研出版)

 縁日で見つけた金魚すくいの店。ところが、金魚はたった1ぴきだけで、店のおじさんは「この金魚と勝負するんだよ」といいます。そういわれて、初めてなのに思わずポイを受け取ったぼく。それから、金魚との〈勝負〉が始まります。今の子たちにとっても、縁日はやはり非日常空間でしょう。楽しさと不思議さが微妙にマッチした雰囲気の絵が、〝ぼく〟のドキドキ感を高めています。(低・中学年向き、1300円+税)


『いろいろはっぱ』(小寺卓矢・写真・文、アリス館)

 昔、小学校の教員をしていた時に、ご近所に立派なお屋敷があり、庭はちょっとした森でした。そこに何度か入らせてもらったことがあり、子どもたちは葉っぱを集めるのが本当に楽しそうでした。そんないろいろな葉っぱを並べた写真絵本なのですが、形で、大きさで、色合いでと、並べ方が絶妙です。そして何より葉っぱそのもののおもしろさに目を奪われます。本を見ているだけでも充分楽しいし、葉っぱ集めのガイドブックとしても活用できそうです。(低・中学年向き、1400円+税)


『世界でさいしょのプログラマー エイダ・ラブレスのものがたり』(フィオナ・ロビンソン作、せなあいこ・訳、評論社)

 ここで紹介されているエイダ・ラブレスは、詩人のバイロンを父に、数学者を母として、19世紀にイギリスに生まれた女性。もちろん存命中にコンピュータはありませんでしたが、産業革命による機械化でパンチカードが発明され、エイダはその書き込みに挑むと共に、こうしたプログラムの限りない可能性に気づきます。科学史としての興味深さとともに、切り抜いた紙を立体的に組み立てるという手法で描かれた画面が、作品世界のユニークさを支えています。(中学年から、1500円+税)


  


  

 次は、低学年から中学年向きの読み物です。

 

『きらきらシャワー』(西村友里・作、岡田千晶・絵、PHP研究所)

 泳ぎが苦手で、プールの時間が嫌という子は、いつの時代にもいると思います。広矢もプールが嫌いですが、プールに行くためのシャワーが嫌いというか、怖いのです。水のカーテンに閉じ込められたらと思うと、体が動かなくなります。その心理がとてもリアルに描かれているので、怖いものが違う子でも、広矢の気持ちに寄り添うことができるのではないでしょうか。そして広矢がその怖さを克服していくドラマにも、不思議なリアリティがあります。「良かったね」という感想が素直に出てくる一冊です。(低学年向き、1100円+税)


『りりちゃんのふしぎな虫めがね』(最上一平・作、青山友美・絵、新日本出版社)

 こちらの主人公りりにも怖いものがあります、というより、怖いものだらけ。朝、家を出ると、曲がり角が怖い。知ってる人に会うのが怖い。そして学校に着くと、校門が怖い。そんな時、りりはポケットから出した虫めがねで校門の中をのぞきます。すると中が海のように見えて、怖さが少し減るのです。海の中なので、教室でもほとんどしゃべらなかったりりが、どんなふうに海の底から出られたのか。変な表現ですが、とても上手にだまされたような、不思議な味わいの一冊です。(低学年向き、1300円+税)


『ぼく、ちきゅうかんさつたい』(松本聰美・作、ひがしちから・絵、出版ワークス)

 トモヤは学校から帰るとすぐ、ベッドのおじいちゃんの所に行って、その日見つけたことを報告します。外に出られなくなったおじいちゃんが、ともやを「ちきゅうかんさつたい」の隊員に任命したので、隊長のおじいさんに聞いてもらうのです。入院の前に、「宇宙本部に行って、隊員を見守る仕事をするんだ」といっていたおじいちゃんは、遠足の日に亡くなります。それでも、のこしてくれたノートで報告を続けるトモヤ。トモヤのまわりは、宇宙にいる隊長に知らせたいことで、いっぱいなのです(低・中学年向き、1400円+税)


  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

 

『香菜とななつの秘密』(福田隆浩・作、講談社)

 5年生の香菜は人前で話すことが苦手ですが、その分みんなの会話に耳を傾けたり、みんなの様子に気を配ったりしています。そんな香菜が「探偵」役の連作ミステリーなのですが、香菜のキャラクターが探偵とすぐに結びつかないので、第1章「朝の秘密」から2章の「学年文庫の秘密」に移るあたりで、そうした作品の構造に気づける、というあたりもおもしろい。物語は、「先生の秘密」「読み聞かせの秘密」というふうに進んでいきますが、推理のための推理ではなく、そうしたエピソードが全体として香菜をとりまく教室の物語として積み上がっていくプロセスが見事です。(高学年向き、1300円+税)


『河童のユウタの冒険(上・下)』(斎藤惇夫・作、金井田英津子・絵、福音館書店)

 さて、これはどう紹介したらいいだろうかと思える、長大にして、悠大なファンタジーです。作者の斎藤惇夫さんは「ガンバの冒険」シリーズ三部作の作者として、動物たちが繰り広げる冒険ファンタジーの世界を見せてくれました。その後、作家としては長い沈黙の期間があり、2010年に28年ぶりとなる新作『哲夫の春休み』が出されました。動物ファンタジーとしては『ガンバとカワウソの冒険』以来ですから、実に35年ぶりということになります。

 物語は、北国の湖に一人で棲む河童のユウタが、不思議なキツネから、そのキツネの娘と共に、旅に出なければならないと告げられるところから始まります。行き先は近くを流れる龍川の水源で、もう一人道連れがいるというのです。旅の途中で会うもう一人は、天狗のハヤテでした。訳もわからぬままに旅が始まり、次第にユウタの心が旅を受け容れていくプロセスは、ちょうど水源のわずかの水から、だんだんと大きな流れへと変化していく川そのもののようでもあります。この作品の舞台はあくまで現代の日本なので、物語の後半では、旅の協力者となる少数の人間や、障害になる多くの人間たちも登場します。ストーリーはとてもシンプルなのですが、これまで書かれてきた多くの優れたファンタジーへのオマージュとして、そして、わたしたちは生きているのか生かされているのか、どこかに向かっているのか還っているのかといった、根源的あるいは宗教的ともいえるテーマを感じさせる、ある種「神話」的なファンタジーとして読みました。(高学年・中学生以上向き、各2500円+税)


『人間はだまされる フェイクニュースを見分けるには』(三浦準司著、理論社)

 トランプ大統領の登場以来、「フェイクニュース」という言葉を耳にする機会が多くなりましたが、これはニュースを発信する側の問題でもあり、受け取る側の問題でもあります。本書の著者は共同通信社の主に外信部や海外の特派員として、取材やニュースの発信に当たってきました。そうした体験を踏まえながら、ニュースの大切さと危険性を、豊富な実例を紹介しながら説いています。また、ネット時代のニュースのありようについても、功罪両面から考察しています。この本を読んでいると、わたしたちが市民としての、主権者としての自覚を相当しっかり持たないと、危ない方向に誘導される可能性が大きいことが実感されます。新シリーズ「世界をカエル 10代からの羅針盤」の一冊目です。(中学生以上向き、1300円+税)


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