2017年新学期号 読んでみたい本


(2017/04/11)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 この稿を書いている3月、日本児童文学者協会賞の選考で、昨年出された作品を集中的に読んでいます。大人の文学ほどではないと思いますが、児童文学の世界でもいくつかの文学賞があります。大体、春と秋に集中していて、春の賞としては、作家団体が主催する児童文学者協会賞と児童文芸家協会賞の他、産経児童出版文化賞、そして岡山市が主催する坪田譲治文学賞(児童文学と青春小説的な作品も対象)などがあります。こうした春に発表される賞は、概ね前年の1月から12月までに出された作品を対象としています。

 これに対して秋に発表される賞は、概ね前年の秋からその年の夏頃までの作品という区切りになりますが、講談社系の野間児童文芸賞や小学館児童出版文化賞などがあります。野間児童文芸賞の場合は、野間文芸賞と新人賞も同時に発表され、贈呈式も一緒なので、一般の文学関係者と児童文学関係者が一堂に会することになります。何年か前の贈呈式後のパーティーで、浅田次郎さんがおられ、浅田さんは僕がかつて勤務していた私立小学校のご出身なので、そんな話をすることができました。なにより受賞者にとって晴れがましい場であることはもちろんですが、参加者にとってもいろいろな出会いがある貴重な場でもあるわけです。

  


  

 さて、いつもだと、まず絵本からなのですが、今回紹介する絵本は総じて対象年齢が高いので、4月でもあり、まずは新1年生向けの本を2冊。

  

『あしたから1ねんせい』(きむらゆういち・作、有田奈央・絵、新日本出版社)

 小学校入学を前にしたゆうくんは、学校の中が迷路になったり、上級生たちが怪獣になったりして出てくる夢を見るほど、1年生の日々が心配です。ところが、ねこの学校に入るという近所のねこも、カラスの学校に入学するというカラスも、入学を前にドキドキのようです。そんなゆうくんも、いよいよ学校に行く日がやってきます。1年生にとっては、ちょっと前までの自分に重ねて、主人公に声援できる1冊になりそうです。(1200円+税)


 『がっこうたんけん しょうがっこうだいずかん』
 (WILLこども知育研究所編・著、金の星社)

 多分1年生は、入学後間もなく「学校たんけん」のようなことをやるのでしょうが、幼稚園や保育園に比べてまるでひとつの社会のような、学校というシステムを飲み込むのは、難しいことでしょう。この本は、特別教室や図書室、保健室などの場所の説明に加えて、時間割、持ち物、1年間の行事、「学校で使うことば」などの項目があって、全体として学校という空間を子どもたちが把握できる仕掛けになっています。1年生の心強い味方になってくれそうです。(1500円+税)


  


  

 ここからが絵本です。

 

『朝の歌』(小泉周二・詩、市居みか・絵、岩崎書店)

 これは「詩の絵本~教科書に出てくる詩人たち」というシリーズの中の1冊。この詩人は現行教科書では「水平線」という詩が載っています。詩の説明は難しいのですが、第1連は「おはようまつ毛」から、2連は「おはようタオル」、3連は「おはようひかり」から始まって、このフレーズが4回繰り返され、いずれも「きょうまたぼくは生まれた」と締めくくられます。朝の情景が、自分自身の新たな誕生と重ねられるわけです。これが実に見事な絵本になっていて、とにかく実物を見てほしいと思いました。巻末に監修者の宮川健郎氏による、この詩や詩人についての解説も付されています。(低・中学年以上向き、1800円+税)


『だるまちゃんと楽しむ 日本の子どものあそび読本』(加古里子・著、福音館書店)

 これは『だるまちゃんとてんぐちゃん』の作者による、様々な遊びを紹介した絵図鑑、といった趣の1冊で、「草花や木の実のあそび」「紙をつかうあそび」「手やゆびのあそび」など七つのジャンルにわたって、100以上もの遊び方が紹介されています。一人で遊べる、二人で遊ぶ、みんなで遊ぶなどパターンは多様ですが、どれも簡単で、かつほとんど準備もいらない、「今すぐ遊べる」遊びが満載。そしてこの本自体も、一人でも楽しみたい、みんなでも読みたい、そんな不思議な魅力にあふれています。(低・中学年以上向き、1400円+税)


『人と出会う場所 世界の市場』(小松義夫写真・文、アリス館)

 世界中の「家」をテーマにしている写真家が、各地で出会った市場を撮った写真絵本。「湖の上の市場」「山の広場の動物市場」等々、場所も売られているものも実に様々です。但し、決して珍しい市場を選んで紹介しているということではなく、それぞれの国の人たちの暮しを支えている日常的な場としての市場の様子が、画面からストレートに迫ってきます。ともすればスーパーやコンビニでほとんど買い物が済んでしまいそうな私たちにとっては、そこから立ち上ってくる色や匂いや喧噪に圧倒されそうです。(中学年から、1600円+税、中学年以上向き)


『宮沢賢治の鳥』(国松俊英・文、舘野鴻・画、岩崎書店)

 「やまなし」に登場するカワセミや「よだかの星」など、賢治の詩や童話には多くの鳥が描かれ、著者によると70種以上にもなるといいます。この絵本では、そうした詩や童話の、鳥が登場する部分が引用されると共に、なぜそこで鳥を登場させたのか、なぜその鳥でなければならなかったのかが、語られます。作家であり、鳥の研究家でもあり、長年賢治作品の鳥について考察を深めてきた著者ならではの贅沢な1冊ですが、ページをめくる度に構図や色遣いに工夫を凝らされた絵のすばらしさが、さらに絵本としての説得力を高めています。(高学年以上向き、1700円+税)


 


 

 ここからは、中・高学年向き以上の読み物になります。

 

『ぼくらは鉄道に乗って』(三輪裕子・作、佐藤真紀子・絵、小峰書店)

 3学期が始まろうというとき、悠太の住むアパートに母と娘の家族が越して来ます。理子と名乗ったその子が列車の時刻表を手にしていたのを、鉄道ファンである悠太は見逃しませんでしたが、話をする機会はありません。悠太には、町の図書館で知り合った鉄道ファン仲間の隼人がおり、1年上の隼人と二人で鉄道博物館に行ったりします。5年生になった悠太と理子は同じクラスになりますが、図書館で会った理子が見ていたのは、やはり時刻表でした。「鉄子なの?」という隼人の質問に首を振る理子。理子が時刻表を見ていたのは、分かれた弟に会いに、一人で千葉県の大原まで行くためだったのです。理子の願いを叶えるために、隼人と悠太の〈プロジェクト〉が発進します。等身大の冒険という表現は変かも知れませんが、子ども読者からとても身近で切実に感じられそうな作品世界が、スピーディーに展開されます。(中・高学年向き、1400円+税)


『ふたりユースケ』(三田村信行・作、大沢幸子・絵、理論社)

 5年生の小川勇介は、銀行員の父親の転勤で、小さな田舎町に越して来ます。電車を何度か乗り越え、さらにバスで1時間という不便さでしたが、バス停に降り立った勇介は、町の人たちに取り囲まれます。みな口々に「ユースケが帰ってきた」と叫ぶのです。次第にわかってきたのは、町の有力者の子どもで、神童と呼ばれていた少年がおり、その名前は大川雄介。東京の難関中学校に入学し、この斜陽の町の期待を一身に背負っていた彼は、2年前の夏休みに川で死んだというのです。同じ名前で顔も瓜二つ、おまけに勇介がやってきたのがお盆の8月13日とあって、町は騒然となります。やがて雄介を失った大川家も含めて、町中が勇介を期待の星と遇し始めます。

 特異な設定に惹きつけられながら、自分と向き合うことの大切さが心にしみてきます。(中・高学年以上向き、1400円+税)


『こそあどの森の物語 水の森の秘密』(岡田淳作・絵、理論社)

 「こそあどの森の物語」シリーズは、第1巻『ふしぎな木の実の料理法』の刊行から25年、今回の第12巻でついに完結です。トゲトゲの大きなウニを載せたような形の、ウニマルと呼ばれる船に住んでいるスキッパー少年、湯わかしの注ぎ口を上にして半分土に埋めたような家に住むポットさんとトマトさんの夫婦、その時の気分で名前を変える女の子のふたごなど、独特のキャラクターと舞台設定で、このシリーズは日本版ムーミンと呼ばれたりもしました。

 今回の完結編は、今まで誰も見向きもしなかったプニョプニョタケというキノコの料理法がわかり、その思いがけないおいしさに、みな夢中になって採り始めたところから、物語が始まります。一方、ポットさんや大工のギーコさんは、森の微妙な環境変化にも気づいていました。やがて森が湿地のようになり、あっという間に水位が上がっていきます。まさかこそあどの森の消滅でシリーズが終わるのか! と、ちょっと心配になりましたが、その後には見事なタネ明かしが待っていました。それぞれの巻はまったく独立した話なので、この巻から読んでも問題ありません。(高学年以上向き、1700円+税)


『円周率の謎を追う 江戸の天才数学者・関孝和の挑戦』(鳴海風・著、伊野孝行・絵、くもん出版)

 関孝和という名はよく知られていますが、その業績の中味となると、例えば伊能忠敬のようなわかりやすさはありません。本書では、円周率というなじみ深い入口を設定したことで、時代を越えた発想のすごさ、すばらしさが確かに伝わってきます。孝和が数学を学び始めたころは316(3.16)が一般的だったらしいのですが、彼はより正確にというだけでなく、どのように考えれば正しい値に近づけるのかという理論を必死で模索し、その結果は師匠を驚かせるものでした。

 孝和の生い立ちなどは不明な点が多いらしく、本書は小説とノンフィクションを織り交ぜた構成となっていますが、孝和自身はもちろん、彼の才能を認め、支えた周囲の人々の人間模様に引きこまれます。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)


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