2017年新年号 読んでみたい本


(2017/01/19)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 小学校の国語教科書の編集委員という仕事を長く務めています。教科書の最後のページに「著作者」として名前が載っていますが、大学の国語教育の先生、国語が専門の小学校の先生が大半で、それに児童文学の作家や評論家が加わります。理科や社会科などでは、実際に教科書の中身を書くのが主な仕事でしょうが、国語の場合には、むしろ収録する作品を選ぶというのがメインになります。ところが、これがなかなか大変で、まず長さの制約がありますし、文学作品としては優れていても「教材」としては適さないというケースがとても多いのです。何百という候補作品から、ようやく数点残ればいいという感じでしょうか。

 教科書改訂は4年ごとにあり、平成32年度版に向けた編集作業が、昨年の暮から本格化しました(文科省の検定や教育委員会の採択という手順があるので、それだけの時間がかかるのです)。またあのコピー群と格闘するのか、といささか身構えるところもあるのですが、いったん教科書に掲載されれば、その作品は普通の出版物とは比べ物にならないほどたくさんの子どもたちに読まれるわけで、やりがいもあります。それにしても、もう少し教科書編集に自由度があれば、こんな作品も載せられるのにと、改訂の度に思わざるを得ません。

  


  

 さて、ここからはいつも通り、ジャンル、グレード別に本を紹介していきます。まずは絵本から。

  

『これはすいへいせん』(谷川俊太郎・文、tupera tupera・絵、金の星社)

 谷川さんの絵本(絵は和田誠さん)に『これはのみのぴこ』という、文が次々に積み上がってつなげられていくものがありますが、これも同様の仕掛けになっています。ただ、こちらは文のつなげ方がよりストーリー的で、意味的な流れも感じさせます。また、右ページの上の端っこがインデックス的に切り取られていって、めくると左ページの外側に小さな絵が並んでいくという、独特のアイデアも生かされています。ことばと絵のおもしろさ、楽しさを両方満喫できる絵本です。(低学年から、1500円+税)


『ゆきのしたのおともだち』(ばんたくま・作、くもん出版)

 冬、地面の下の家でたいくつしているウサギの目の前に、モグラが現れます。もっと友達を見つけようと、二人で地面を掘っていき、キツネの家に到達、一緒に楽器を楽しみます。今度はキツネも一緒に掘り進め、イノシシの家に到達。イノシシは絵の具で絵を描いていて、ウサギたちも描かせてもらいます。そして今度はクマの家に、という具合に、雪の下の地面で、動物たちの仲間が広がっていきます。それぞれの場面の絵がとても細やかで、繰り返しの展開の中で、何度でも戻って楽しめます。(低学年向き、1300円+税)


『まよなかのせんろ』(鎌田歩・作、アリス館)

 終電がお客さんを降ろして車庫に向かった後、マルチプルタイタンパーの出番がやってきます。この特別な車両は線路のずれを直すためのもので、毎日少しずつゆがんだ線路が、これによって計測され、正されていくのです。電車が好きでも、この存在を知っている子は少ないでしょう。夜中の作業は、時間との戦いでもあり、作業員の人たちの奮闘ぶりにも、しっかり目が向けられています。(低・中学年以上向き、1400円+税)


『マイ・ジャパン みてみよう日本のくらし』(フィリケえつこ・作、偕成社)

 これは日本人作者によってフランスで出版された絵本を、作者自身の手で日本語に、さらに英語訳も付けて、日本で暮らす外国人の子どもたちにも手にとってもらえるようにした、珍しいパターンの絵本です。中味はサブタイトルが示しているように、日本の子どもの日常的な生活や季節の行事などが紹介されています。例えば、お風呂の入り方など、日本人にとってはごく当たり前のことが分かりやすく説明されていて、わたしたちの生活の背後にある文化ということを気づかせてくれます。(中学年から、1500円+税)


 


 

 次は、低学年から中学年向きの読み物です。

 

『カレー男がやってきた!』(赤羽じゅんこ・作、岡本順・絵、講談社)

 クラスメイトの田口君の家に突然やってきたという、白いターバン姿のカレー男。首にはスパイスのびんをつなげたネックレスといういで立ちで、「うまいカレーを探す旅をしている。カレーを一杯いただけないか」とカレーを食べ、おいしいが求めている味とは違うといって、帰っていったといいます。次々に他の子たちの家を訪ねてきたカレー男ですが、まだ究極の味には出会ってない様子。風太は自分こそカレー男を満足させようと、初めてのカレー作りに挑戦します。刊行中の「たべもののおはなし」シリーズの一冊で、オムライスやおむすびの話もあります。(低・中学年向き、1200円+税)


『まほうのバス』(中島和子・作、江田ななえ・絵、金の星社)

 今日で「定年」を迎えたオレンジ色の古い路線バス。最後に自分が行きたいように走ってみようと、夜の道に走り出します。町外れのバス停にいたのは、1匹の子ギツネ。食べ物を探しに行った母親を待つ間バスに乗せてあげようと山道を走っていると、次々に他の動物たちも乗り込んできます。ところが、その途中で燃料が切れてしまって……。乗り物を擬人化した作品は子どもたちにはなじみ深いものですが、バスの切なさや喜びがストーリー全体から伝わってきます。(低・中学年向き、1200円+税)


『四年ザシキワラシ組』(こうだゆうこ・作、田中六大・絵、学研プラス)

 亡くなったばあちゃんの田舎の家を片づけに行った風太の家族。父ちゃんが使っていた古い本棚を、風太のクラスの学級文庫に使ってもらおうと持ち帰ります。ところが、これにくっついてきたのが、ばあちゃんの家にいたザシキワラシ。給食の時、なぜか、みかんやゼリーが一つ足りなくなるのです。風太の前に姿を現したザシキワラシは、体は子どもだけど顔はじいさん、青い着物を着ています。やがて、風太だけに見えていたザシキワラシが、他の子たちにも見えるようになる事件が。こんなザシキワラシならうちのクラスにもほしくなりそうな、楽しさあふれる一冊です。(中・高学年向き、1300円+税)


 


 

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

 

『神隠しの教室』(山本悦子・作、丸山ゆき・絵、童心社)
 五年二組の教室。腹痛の加奈は、保健係でブラジル人の子のバネッサに連れられて、一階の保健室に下りてきます。だが保健室は留守で、職員室にも誰もいません。クラスに戻ろうとすると四年生の男の子が階段を下りてきて、どこの教室も空(から)だといいます。図工室から戻ったら、誰もいなくなっていたというのです。そこに一年生のみはると六年生の聖哉もやってきます。みはるはトイレに行っていて、聖哉は遅刻して教室に行ったら、やはり空だったというのです。学校の外に出ようとすると、周りは真っ白で何も見えません。ここはどこなのか、なぜ自分たち5人なのか。一方、養護教諭の小島早苗は、机の中に入れてあったパンがなくなっていたことから、いなくなった5人が、どこかこことつながった場所にいるのではないかと思い始めます。

 いじめやネグレクトといった重い題材を盛り込みながら、学校という場の時間的・空間的な特異性を存分に駆使したファンタジーで、子どもたちはもちろん、この作品は先生たちにぜひ読んでほしいと思いました。(高学年以上向き、1600円+税)


『スピニー通りの秘密の絵』(L・M・フィッツジェラルド作、千葉茂樹・訳、あすなろ書房)

 絵描きの祖父ジャックと引きこもって数式を解くことに没頭する母と3人で暮らしていた13歳の少女セオ。ジャックが交通事故死したため、生活の一切がセオの肩にのしかかります。ジャックが死の間際に残した言葉がお金等のありかを指しているのではと、探していたセオの前に現れたのは小さな1枚の絵で、偶然表面の絵の下に、ラファエロを思わせる聖母子の絵が隠れていたことを発見します。ジャックは生活のためメトロポリタン美術館の警備員を長く務め、セオは美術館の作品を繰り返し見て育ちました。この絵はいったい誰の作品なのか、ジャックはなぜその上に絵を重ねていたのか。近所に越してきた有名俳優の娘ボーディと共に、絵の秘密を探り始めたセオが知ったのは、第二次大戦の終戦時に、ナチスに奪われた美術品を取り戻す特別部隊に、ジャックが所属していたという事実でした。

 同じくメトロポリタン美術館が舞台の『クローディアの秘密』のオマージュといえる作品ですが、現代史を大胆にからめたスケールの大きさと、そこに13歳の少女たちが切り込んでいく痛快さに、しびれました。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)


『ぼくらは壁を飛びこえて~サーカスでつながる人種・民族・宗教~』(シンシア・レヴィンソン著、金原瑞人・訳、文渓堂)

 この本で取り上げられているのは、ユース・ソーシャル・サーカスという取り組みで、サーカス競技を教えることを通じて青少年の心身の成長を図る社会活動です。特にアメリカのセントルイス・アーチズとイスラエルのガリラヤ・サーカスが中心に描かれます。セントルイスは犯罪率も高く、貧富の差、人種対立が激しい地域です。ここでサーカスを教える団体を立ち上げたのはジェシカ・ヘントフという女性で、1988年のことでした。一方ガリラヤ・サーカスは、アメリカ出身のラビであるマーク・ローゼンスタインによって作られ、ユダヤ人とアラブ人の子どもたちを触れ合わせようという狙いでした。それぞれ人種や民族の壁を前に、次々難問がふりかかりますが、やがて二つのサーカス団は交流して技を磨き合うことになります。サーカスに集った何人かの若者たちと指導者へのインタビューをはさんだ多角的な構成で、この取り組みの奥の深さが迫ってきます。(高学年・中学生以上向き、1600円+税)


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