喜田川昌之さんから新しい絵本とベルマークが届きました


(2021/10/25)印刷する

 子ども時代の懐かしい日常を温かく描く「わらべ絵」の画家、喜田川昌之さんから、サイン本とともにベルマークが寄贈されました。喜田川さんはベルマーク手帳の表紙を手がけたり、ベルマーク新聞に長年まんがを連載したりと、財団とも縁が深い画家です。静岡県伊東市の伊豆高原にある自宅1階はミュージアム「喜田川昌之わらべ絵館」として人気の観光スポットでもあります。緊急事態宣言が解除された10月、長らく閉館していたわらべ絵館も再開したと聞き、近況を伺いに訪ねてみました。

わらべ絵館までの通り道にある案内板
わらべ絵館の外観。駅から徒歩約10分で着きます
現在は絵本の原画展を開催中です

「絵本で知ろう二十四節気 夏」

 伊豆急行の伊豆高原駅から徒歩約10分で、わらべ絵館に着きます。再開後はこの夏に出版したばかりの「絵本で知ろう二十四節気 夏」の原画を展示しています。財団に送っていただいた本です。ほとんどは新たに書き下ろした絵ですが、中には本の内容に合わせて、以前の作品を描き直したケースもあるそうです。

 絵本制作のきっかけは、喜田川さんの絵を見た出版社の社員が「ぜひ絵本を企画したい」と提案してくれたことでした。二十四節気は、春夏秋冬をさらに6つずつに分けて季節を表した言葉です。喜田川さんの絵を楽しみながら、季節の言葉を学ぶことが出来ます。

 読み聞かせを想定した絵本ですが、機械的に文字を読むだけではない作品を目指した喜田川さん。「おじいさんやおばあさんが、自身が子どもだった時代を思い出し、自分の体験として子どもに伝えられる本になるように」と、思いを込めたそうです。


 喜田川さんは、三重県一志郡にある高岡地区の出身。現在は津市一志町になっています。どのような地域なのかを尋ねると、「田んぼがあったなぁ。『田園地帯』というと、ちょっときれいすぎるな」と笑いました。「昔は車社会じゃなかったから、本当に音がなかった。夜、高いところを飛ぶヨタカの鳴き声は怖かったな」と幼少時代を振り返ってくれました。印象に残っているのは、お祭りの時の笛太鼓の音や、のぼりのはためく音が風に乗って伝わってくる音。「そのような『音』を、今の人に絵で伝えること」は喜田川さんが目指すところの一つです。

 例えば、俳句に絵をつける俳画。喜田川さんは祖父の俳画の影響を受けながら育ちました。松尾芭蕉が詠んだ「古池や蛙飛び込む水の音」を例にとり、「俳句の言葉をそのまま絵にする方法もあるけど、僕なら波紋、水の音を絵にする」と話します。小さい頃、無意識に身に付けたものが年齢を重ねるごとに色濃く出てくる、という感覚があるそうです。

三原色(赤緑青)と黒白が全て混ざった壁の色は、どの絵にもマッチする。コルクの床やアーチ状の入り口も特徴的

 三重の実家は、今で言うところのカルチャーセンターの役割を担っていましたが、のちに幼児園になったそうです。そこで、子どもたちに面白いことを学ばせたいという思いから週に一度、お絵描き教室を開くようになりました。当時の子どもたちの様子を、「建物が古かったから床がぶかぶかだったけど、子どもは飛び跳ねて喜ぶんだよね」と鮮明に覚えています。

 大学進学のため上京し、漫画研究会に所属していた学生時代。複数の新聞社が、都会とへき地の教育格差を取り上げ始めた頃と重なります。週に一度、漫画研究会のために一室を開放してくれた新聞社があり、その縁でへき地の小学校を訪問。そこで出会った先生が教育熱心で、感銘を受けたと言います。同時に「真摯に教育に携わっている様子を見て、自分には先生はできない」と思ったそうです。

新しい絵本を手に持った喜田川昌之さん

 卒業後はいったん地元に帰りましたが、その後再度上京し、四畳半のアパートで暮らしていた喜田川さん。ある日、近所の子どもたちがコンクリートの地面にチョークで絵を描いて、遊んでいたのだそうです。「うまいね」と声を掛けた喜田川さんに、子どもは「お兄ちゃん描ける?」と返してきました。

 描いてあげた数日後、喜田川さんの部屋にお客さんがやってきました。「入っていい?」とドアの向こうに見えたのは子どもたち。イラストや挿し絵の仕事をしていた部屋には紙がいっぱいあり、子どもたちと絵を通した交流が始まりました。そのうち、保護者から月謝制での教室開講をお願いされ、毎週月曜午後の「四畳半のお絵かき教室」は、伊豆に仕事の拠点を移すまでの20年ほど続きました。「週に一回、大人と子どもの間を行き来した」ことは、のちに「わらべ絵」を生み出すことに大きく影響しました。

喜田川さんが担当していたベルマーク手帳の表紙絵

 喜田川さんは1985年からベルマーク新聞に4コマまんが「ベルちゃん」の連載を始め、2018年1月号まで計366回も続けていただきました。連載を終えた後には財団から感謝状をお送りしています。また2002年からは、ベルマーク財団がへき地校支援事業として実施していたお絵描き教室「心の目で描こう体験塾」の講師を12年間務め、計44校を訪れました。袋の中に切ったれんこんを入れて、触覚で得たヒントのみで描く「さぐり絵」の授業もしました。触った手を嗅いだ子から「土のにおいがする」と瞬時に言われ、五感が研ぎ澄まされていることに驚かされたこともあったそうです。

 「以前、『新人類』という言葉があったけど、そう思い込んでしまうのは怖いね。子どもの本質って変わっていなくて、変化したのは環境や音なんだよね」

 今ほどモノがない時代から、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しました。しかし、「感性」という本質は変わらないまま、人は大人になっていくのでしょう。「わらべ絵」に大人が懐かしさを感じる理由はそこにあるのかもしれません。

 ミュージアムの門の横には「ベルマークポスト」があり、地域の方が通りすがりにベルマークを入れてくれます。どのような方が入れてくださっているのかは喜田川さんも分からないそうですが、ある程度貯まったタイミングで喜田川さんが財団に送ります。今回いただいたベルマークも、そうして集まったものでした。東日本大震災の被災校や特別支援学校などの支援のために活用いたします。わらべ絵館のポストにベルマークを入れてくださった方、ありがとうございました。

誰もが投函できるよう、外に設置されているベルマークポスト


「絵本で知ろう二十四節気 夏」

文・筆文字:ふじもとみさと

絵:喜田川昌之

文研出版刊、1500円+税。


「喜田川昌之わらべ絵館」

住所 〒413-0232 静岡県伊東市八幡野1208-59

開館時間 午前10時~午後4時30分

休館日 火・水曜日(祝日、夏休み、正月は開館)

冬季12月1日~31日は休館

入館料 大人(高校生以上)700円

    小人(小・中学生)400円

    シニア(70才から)500円

その他 ペット可

    館内バリアフリー

最寄り駅は伊豆急行の伊豆高原駅
特急踊り子号に乗ると、移動時間を短縮できます
喜田川さんのおすすめはおいしい魚と、漁師鍋の「いけんだ煮味噌」だそう

ベルマーク商品

センサー付きLEDランタン

ベルマーク検収

今週の作業日:4/22~4/26
2/19までの受付分を作業中