宮城教育大学「311ゼミナール」が活動報告会


(2020/04/03)印刷する

 東日本大震災を教訓として教職員の防災力向上に取り組んでいる国立大学法人宮城教育大学は、「311いのちを守る教育研修機構」を2019年4月に発足させ、ベルマーク財団も同機構への支援を実施しました。このとき、学生たちも自主ゼミ「311ゼミナール」を立ち上げ、自分たちで設定した3つのテーマについてグループに分かれて調査・研究を始めました。1年間活動してきたその成果を発表する報告会が2020年2月10日に仙台市の同大学内で開かれ、財団からも取材に伺いました。

身振り手振りを交えながら発表をした

学校避難は教員一人一人の意識が大切

 「学校避難の検証」を担当したグループは、メンバーが当時経験した学校避難を追体験することにし、南三陸町の名足(なたり)小学校と、石巻市の旧門脇(かどのわき)小学校跡を訪問。実際に避難経路を歩き、当時の教職員にも話を聞きました。

 名足小は想定外の津波に対し、その場の判断で避難場所を変えていったそうです。14時46分の地震発生後、15時には第一避難場所に決めていた職員駐車場に避難。ここは海抜14mでした。でも海の様子を注視していた教員の意見を取り入れて、10分後にはその場を離れて裏山へ。そこでも波しぶきが感じ取れたため、さらに奥の雑木林に移り、最終的には地域の人の助言もあって、周辺で一番の高台まで移動しました。避難が完了したのは15時40分。この事例から、ゼミ生は「マニュアルにない臨機応変な対応や、その心構えの必要性」が大切だと説きました。

 一方、門脇小は地震発生後すぐに裏山に避難しました。避難訓練の際には常に津波を想定していたそうで、その備えが実を結んだと言います。当時在籍していたメンバーは「雪が降っている中、引き渡しまで、ブルーシートの下で寒い思いをしながら過ごした」、「高いところで保護者への引き渡しをしたのは、子どもに津波を見せてはいけないという先生の配慮から」と過去の記憶を振り返りました。

 こうした事例を、全校児童の7割が犠牲となった石巻市立大川小学校のケースと比較しました。大川小はすぐ近くに山があり、避難するための「時間・情報・手段」はそろっていましたが、学校の危機管理マニュアルには避難先は明示されておらず、教員間の共通理解もなかったことなどが原因となったそうです。ゼミ生は「教師は子どもの命を預かる存在。そのために、学校全体として、何をしなければならないか、一人一人意識することが求められる」と結論付けました。

 この発表グループ11人のうち、7人が宮城県や岩手県で震災時に避難経験を持っていました。最後に述べた感想では「自分の体験を学びに生かすことができると分かった」「この経験を次世代に伝えていくことが大事」などとともに、「当時、沿岸にいなかった人も一緒になって、それぞれの立場から考えることが学びになった」という意見も出ていました。

発表後はひとりひとりが感想を述べた
全員が「このゼミに参加してよかった」と感じたそう

放射線教育は「現場」福島県でも課題が

 「放射線教育の課題」を担当したメンバーは、原発事故の「現場」を抱える福島県の県庁と福島大学に聞き取り調査をしました。

 福島大学で科学教育を研究している岡田努教授によれば「放射線教育の歴史をたどると、有効活用や普及が目的」でしたが、いま本当に必要なのは「危険性も教える、防災教育の内容も含んだもの」だそうです。とはいえ、県内でも活発に活動している学校は少ないうえ、県による指導資料集も辞書的で分厚く、現場の実用に向かないなど課題も多いようです。県教育庁義務教育課の藤井宏さんがくれた放射線教育のヒントは「子どもの疑問から学習に発展させていく」こと。震災から9年が経った現在、ほとんどの小学生には震災の記憶がありません。放射線測定器や、汚染土などを見て、「あれは何だろう?」と抱いた疑問が学習につながる、と考えているそうです。

 未だ廃炉に向けた作業が続く福島第一原子力発電所。学生にとってはテーマが大きすぎて、最初は「どこから取り組めばいいのかわからなかった」そうですが、1年間やってきて「ようやくスタートラインに立てたと考える」と力強く発表を結びました。来年以降も放射線教育の授業参観や資料館見学をして、子どもたちの将来に生かす方法を考えていきたい、としています。

和気あいあいとした雰囲気の中で行われたグループワーク
グループワークでは、限られた時間で自分の意見をまとめ発表した
ゲストとして招かれた東北大学の学生。右は教授の邑本俊亮先生

「災間を生きる」を共通認識に

 「防災教育の現状と課題」を担当した班は、学校で実際に行われている防災教育を見学し、各個人ごとに「特別支援学校」「震災を知らない子どもたち」「自然の恩恵」「被災地以外」など様々なマイテーマを設定し、それぞれ資料等にあたって考察を深めていました。

 また報告会では、昨年12月に語り部の雁部那由多さんを招いて実施した勉強会についての発表もありました。雁部さんは東松島市立大曲小学校で被災し、5年前から語り部の活動を始めた20歳の大学生です。ゼミ生たちは彼の「災間を生きる」という言葉が印象に残ったそう。これから起きる災害を考える必要性を表す言葉で、これを共通認識として持つことで「意識の差をなくしたい」とまとめられていました。

 会の最後には、ゲストの東北大学基礎ゼミ生が高校生向け模擬授業を披露。さらに自主ゼミのメンバーらと、原発事故の風評被害について意見交換しました。

遅くまで残ったゼミ生たち。後列左は宮城教育大学特任教授の武田真一先生


 「311ゼミナール」は自主ゼミなので単位にはなりませんが、1年生から院生までの35人が登録し、毎週1回、計30回ほど熱心に活動を続けてきました。この学生たちの意欲が後押しとなり、宮城教育大学には2020年4月から防災に関する科目が新たに2つ設置されることになりました。

 同大学は2013年度から必修科目「環境・防災教育」を設け、高い防災意識を持つ教員養成に力を入れています。この日の報告会には新聞社や放送局からも取材が入っていました。発表資料は「311いのちを守る教育研修機構」のホームページから見ることができます。

「311ゼミナール活動報告会開催/震災に向き合った学生の記録」

http://drr.miyakyo-u.ac.jp/311semi20200210/

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