水俣・福島交流会、手ごたえ ~「支え、支えられ」4回目~
(2016/08/05)印刷する
熊本、福島両県PTA連合会・水俣市PTA連絡協議会が3年前に始めた「水俣・福島教育交流」が7月末、4日間の日程で福島市でありました。中学生72人が参加、小・中学校の仮設校舎や研修施設、果樹農園を見学し、体験談を聞き、差別や偏見、風評被害をなくすにはどうすればいいか、真正面から取り組みました。
東日本大震災による原発事故によって農産物や観光が大打撃を受けた福島県。その窮状を知り、水俣病による苦難の歴史をもつ熊本県水俣市が申し出て、中学生の相互派遣研修が始まりました。今回が4回目になります。
「地震の後、真っ先に励ましをくれたのは、この事業で交流してきた福島県の皆さんでした…」
開校式あいさつで、中村慶治・熊本県PTA連合会長は感極まり、しばらく言葉が出ませんでした。4月の熊本地震で、水俣市は大きな被害こそありませんでしたが、福島県のPTA関係者や中学生から心配や激励の電話、手紙が寄せられました。
「支え、支えられる関係」が思いもよらない形で明確になり、結びつきがさらに強固になりました。
福地憲司・福島県中学校長会長は「苦難を乗り越えた郷土の歴史を伝える時代の証言者に、君たちはならなくてはいけません」と事業の意義を強調し、中学生を励ましました。
事前学習で互いの歴史を学んできている中学生たち。8班に分かれると、すぐさま打ち解けました。
2日目の29日には、三春町にある工場の建物で学校を存続させる富岡町の小、中学校と、21日にオープンしたばかりの福島県環境創造センターを見学しました。最新機器をそろえ、「放射線のすべてが分かる」施設で、調査研究、研修、情報発信、交流拠点として期待されています。東京電力福島第一原子力発電所の1、3、4号機が爆発した時の様子や放射線の拡散状況、事故後の福島の歩みを、映像や模型、展示、資料で学びました。
「見えない、臭わない、聞こえない」放射線を、ドライアイスを使って、シャーレーのような霧箱で見る実験では、「見えた」という驚きの声が実験室のあちこちから聞こえました。
食品にからむ危険(リスク)とハザード(危害要因)については、消費者庁の専門家の講義があり、リスクに対する正しい評価と管理が重要であることを学びました。
農産物に含まれる放射線量を計測するモニタリングセンターを見学し、福島市の果樹農園では、県を代表する果物の桃が、原発事故後は出荷できずに収入が途絶えたことや、風評被害に苦しんだ体験を聞きました。
もちろん、水俣病についても学びました。西田弘志市長のビデオレターが披露され、「水俣病を学ぶ意義」が強調されました。
天然資源に恵まれ、「魚(いお)わく海」と呼ばれた不知火海が工場廃液によって環境が一変、水俣市は水俣病に苦しみ、差別や偏見と闘ってきました。
市立水俣第一小学校の溝部竜太郎先生がパソコンを使い、市の環境対策や環境マイスター制度をはじめとする市独自の取り組み、環境教育を解説しました。水俣病の公式確認から60年がたち、水俣市は、「日本の環境首都」の称号を獲得して、世界に情報を発信しています。
見学や講義が終わるたびに、中学生は代わる代わる代表が率直な感想とお礼を述べました。夜は、班別討議「熟議」です。その日の見学や講義で感じたこと、考えたことを話し合いました。
「差別、偏見、風評被害を防ぐには」「地元のよい所を知ってもらうために」「正しい情報を発信するには」。班ごとに決めたテーマに沿って、発表の形にまとめあげていきました。
人災による環境破壊、差別と偏見による人権侵害、風評被害――。
福島県と水俣市が経験した苦難について、「なぜ、起きたのか。どうしたら防げるのか」を考え、意見を交わしました。
最終日の31日。8班がそれぞれ模造紙に考えをまとめ、7分間の持ち時間をフルに使い、発表しました。
「地元のことをよく知る」「正しい情報を知ることで、自信と誇りをもって伝えることができる」
力強い発表が続きました。PTA役員の一人は「4日間(の引率)は大変だけど、やってよかった、と思える瞬間です」と手ごたえを感じました。
今後、一人ひとりが何をするか、アクションプランをまとめることにしています。
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ベルマーク教育助成財団はこの事業の趣旨に賛同し、3回目の前回から50万円の寄付をしています。