2024年2月号 読んでみたい本


(2024/02/13)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

「読んでみたい本」は2024年度から、7月と2月の年2回更新になります。

絵本

 

『ちゃうちゃうちゃうねん』(もりなつこ・作、はしもとえつよ・絵、文研出版)
 月曜の朝、教室で幼なじみのあっくんから「ぼく ゆいちゃんのこと すきかも」と言われ、「なんで」と聞くと、「らいしゅう おしえるわ」という返事。次の月曜日から、ゆいは理由らしいものを考えて毎日あっくんに確かめてみますが、その度に「ちゃうちゃう、ちゃうねん」の返事。さて、本当の理由は? 幼年童話を絵本にしたという印象ですが、顔のアップを多用した画面構成が効果的で、思わずひきこまれます。(低学年向き、1500円+税)


『てぶくろ』(ジャン・ブレット再話・絵、おかだよしえ・訳、岩崎書店)
 『てぶくろ』といえば、動物たちが次々に手袋の中に入ってくる、内田莉莎子さん訳の福音館書店の絵本がすぐ浮かびます。これはウクライナの民話が元ですから、他の再話があってもおかしくないわけで、この絵本もその一つ、1999年に出されたものの復刊です。福音館書店版では手袋の片方を落としたのはおじいさんですが、こちらは男の子で、おばあさんが編んでくれた毛糸の手袋という設定。お話自体も絵も、そうした枠組みがはっきりしているのが特徴でしょうか。ぜひ、二つの『てぶくろ』を読み比べてみてください。(低学年以上向き、1500円+税)


『ふゆのあとには はるがきます』(石井睦美・文、あべ弘士・絵、アリス館)
 男の子が見上げた空に雪虫が飛んでいる場面から始まり、山にも町にも雪が降り積もります。男の子も山の動物たちも春を待ちかねた頃、森の木の根元の雪が解け、春の到来を告げます。全体に叙事詩のような趣の絵本で、雪国に暮らす子にとっては自分たちの暮らしの再発見の、雪のない地域の子にとってはあこがれの絵本になるのではないでしょうか。(低・中学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『ひみつだけど、話します』(堀川理万子 作・絵、あかね書房)
 3年生の4人の子たちの物語が、リレー式につながっていき、最後の第5話でその4人が勢ぞろいします。第1話「足立典生さんと電車」は、電車が大好きでよく踏切で電車を眺めている典生が、“大発見”をする話。とても日常的な題材だからこそのドキドキ感。5つの話のつながり方にも無理がなく、一人で読むのも、教室でみんなで読むのもお勧めです。(中学年以上向き、1200円+税)


『ねこもおでかけ』(朽木祥・作、高橋和枝・絵、講談社)
 信が犬のダンの散歩で公園に行った時、突然目の前に飛び出してきた子ねこ。滑り台の下に段ボール箱があり、どうやら捨てねこらしいそのねこを家に連れて行き、「トラノスケ」と名付けます。段々大きくなって、外に出かけるようになったトラノスケ。信が後をつけると、実はトラノスケには、いろいろ秘密の行動がありました。子ねこをめぐって、様々な出会いや発見を経験する信。このお話は、光村図書の3年生の国語教科書に掲載された「もうすぐ雨に」の番外編というか、元のお話というか、並べて読むと楽しいでしょう。(中学年以上向き、1500円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『ぼくらの㊙課外授業』(佐和みずえ・作、仁保和行・絵、小峰書店)
 良祐が通う放課後の学童クラブ。他に6年生は大和、花純、真菜の3人だけ。大和は有名中学を目指していて、塾に行くまでの間を学童で過ごすのです。この頃学童で不審なことが続き、4人は土曜日の夜待ち合せて、「ユーレイ探し」にやってきます。そこにいたのは、ユーレイではなく、男の人でした。行く所がなくて、ここで夜を過ごすようになったというのです。よく見ればまだ若いその人が出ていこうとするのを引き留めた良祐たち。その日から、その人・一樹さんを匿う㊙作戦が始まります。高校を中退し、住所不定で仕事にも就けないという一樹さんに、中学の先生をしている母親から聞いた高卒認定試験への挑戦を勧める良祐。勉強の手助けができるのは大和と帰国子女で英語のできる花純でした。結局ばれてしまいますが、良祐たちを逆にほめてくれたのは、良祐のおじいちゃんでした。そして、一樹さんは新聞配達をしながら、試験を目指すことになります。
 4人の6年生が、一樹との出会いを通じ、家族のありようや、社会のことに目を開かせていくプロセスに、そして4人をとりまく大人たちの姿に、とてもリアリティがあり、これを読む子どもたちにとっても「課外授業」になるのではないでしょうか。(高学年以上向き、1500円+税)


『キオクがない!』(いとうみく・作、文研出版)
 目が覚めると、そこは病院のベッド。十日前に事故にあったらしいのですが、そのことも、自分のことも、何一つ思い出せません。下り坂で自転車のスピードを出しすぎ、車にぶつかったのだといいますが、奇跡的に打撲程度で済んだのです。退院して自宅に戻った孝太郎がまず驚かされたのは、自分の部屋の汚さでした。そして、小学校2年生の弟は、兄に対して妙にびくついています。登校を再開すると、不自然なほどに気を遣うクラスメイトたち。自分はいったいどんな奴だったのか。孝太郎は、家族の中で、教室で、部活の中で、次第に浮き彫りになっていく自分の像に戸惑いを深めていきます。
 記憶喪失という題材は、大人の小説やテレビドラマなどではおなじみですが、こうして読むと、「自分」という存在と向き合うことを余儀なくされる思春期のドラマとして、多くの読者の共感を呼びそうです。物語を読むことがあまり得意でない、特に男子中学生たちにも、手に取ってほしい一冊だと思いました。(中学生以上向き、1600円+税)

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