2023年8月号 読んでみたい本


(2023/08/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『おふろおじゃまします』(たしろちさと・作、文溪堂)
 山の間を走る、小さな赤いトロッコ列車。一番前の車両には男の子とかばの子が乗っています。やってきたのは、うさぎの家。「おふろ おじゃまします」と、二人はもうはだか。「どうぞ どうぞ」とうさぎ。再び、列車の場面。よく見ると、二両目にうさぎが乗っていて、今度はぶたの家のおふろに。そんなふうに仲間が増えていって、最後は男の子とかばの子の家の大きなおふろに。とにかく、絵のタッチがストーリーにぴったりで、ページを広げたとたんに、絵本の世界にひきこまれます。一人で読んでも、みんなで読んでも楽しい絵本です。(低学年以上向き、1500円+税)


『ポストがぽつん』(北川チハル・文、小池アミイゴ・絵、アリス館)
 緑の草原に赤いポストがぽつんと立っています。ある日、嵐に遭って海の中へ。それでもポストは気づきません。長い間使われず、眠っていたのです。ところが、魚たちが風の島のつむじ風に手紙を出したいと貝がらに声を吹き込んだ〈手紙〉をポストに入れたので、ポストは目を覚まし、風の島に向かって泳ぎ始めます。魚たちと一緒に風に乗ったポストは、今度は森の中に飛ばされ、小鳥たちの〈手紙〉を受け取ります。
 手紙を預かったポストのうれしさや、ポストにメッセージを託す海の魚たちや森の鳥たちの心の弾みが、独特の色遣いの画面から直に伝わってくるようです。(低学年以上向き、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『すぐできる即席レシピ ふきさんのクイックおもちゃ大百科』(佐藤蕗・著、偕成社)
 この欄で、こうした「実用書」的な本を取り上げたことはほとんどありませんが、夏休みでもあり、紹介したいと思いました。自由研究のネタにしてもいいのですが、むしろもっと手軽に作れるおもちゃが並んでいるので、暑くて外にも出られず、家の中で時間を持て余している時などに、ぴったりです。
 紙やセロテープを用意しての工作的なものもありますが、例えばお菓子の袋から文字の部分を切り取って並べてみたり、ズボンのポケットの白い裏地にフェルトペンで顔を描いたりと、「こんなことでも遊べるんだ」というアイデアがいっぱいです。(低・中学年から、1800円+税)


『ぼくのじしんえにっき』(八起正道・作、いとうひろし・絵、岩崎書店)
 こちらは新作ではなく、1989年に出された本の新装版で、僕がもっとも復刊を待望していた本でもありました。タイトルが示すように、大地震が起こり、街は壊滅状態になった日々が、絵日記の形で綴られます。7月25日の地震という設定で、伝染病が蔓延し、〈ぼく〉も隔離されますが一命をとりとめます。これが書かれたのは上記のように80年代ですから、東日本大震災はもとより、阪神淡路大震災も「まだ」の時期でした。この本が出た時もすごい作品だと思いましたが、二度の大震災の度にこの本を思い出すことになりました。その後絵本作家として活躍することになるいとうひろしを起用したのも、今から思えばヒットでした。ぜひ一度開いてみてください。(中学年以上向き、1200円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『ぼくたちのいばしょ~亀島小 多国籍探偵クラブ~』(蒔田浩平・作、酒井以・絵、文研出版)
 6年生の春馬のクラスに転入してきたのはバッタライ・サラダという女の子。今まで中国やブラジルからの転校生はいましたが、ネパールからは初めてでした。最初のうちは話しかけていた女の子たちも、日本語がほとんど話せないサラダに対して、冷たい態度をとるようになっていきます。そんな折、先生が春馬と秀則の二人だった新聞委員に、サラダも加えるように言ってきます。お母さんが新聞記者という秀則は、戦力外と思われるサラダが加わることに難色を示しますが、サラダにはイラストが上手という特技がありました。二人はサラダがクラスに溶け込むことができるよう、日本語の“修行”を課し、自分たちもネパールの言葉を覚えようとします。
 頭が切れ、推理小説が好きな秀則が、クラスで起きる〈事件〉を解決していく展開と、外国からの転校生をめぐるできごとが無理なく絡んでストーリーが進行し、言わば本格推理と社会派ドラマの両方を楽しめる物語に仕上がっていることに感心しました。(高学年以上向、1400円+税)


『かげふみ』(朽木祥・作、網中いづる・絵、光村図書)
 夏休み、妹が水ぼうそうに罹ったので、一人で先に母親の実家の広島にやってきた5年生の拓海。そこで不思議な女の子と出会ったことから、原爆の実相にふれていくファンタジー、と言えば、松谷みよ子さんの『ふたりのイーダ』を思い出させます。他にも遊び唄が重要なモチーフになっているところなど共通点があるのですが、出会いの不思議さが強調されていた『ふたりのイーダ』に比べて、この物語では、拓海の出会いがとても自然なことに思えます。あまり種明かしはしたくないのですが、拓海が児童館で出会った少女は、原爆で失ってしまった自分の〈影〉を探し続けていました。物語の終わりに近く、二人が影踏みの代わりに石けりで遊ぶ場面は無類の美しさで、映像で見てみたい気がしました。
 他にも、拓海が児童館の図書室で女の子に最初に紹介する本として『トムは真夜中の庭で』(時間がテーマのファンタジーで、しかも主人公は弟の伝染病で預けられた所で不思議な出会いをする)が選ばれているなど、隠された仕掛けに満ちていて、原爆を描いた児童文学として金字塔となる作品といって過言ではないと思いました。なお、光村の国語教科書に掲載されている短編「たずねびと」も収録されています。(高学年以上向き、1600円+税)

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