2023年4月号 読んでみたい本


(2023/04/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『ひらがなちょうとカタカナマチ』(たかはしゆい・作、たかはしのぞみ・絵、文研出版)
 ひらがなであふれているひらがなちょう、カタカナでいっぱいのカタカナマチ。両方の町長さんが、どっちがすばらしいかと、相手側の町に偵察にやってきます。ここから場面は「ひらがなしょうてんがい」と「カタカナアーケード」の様子に。看板や品物だけでなく、人の顔の中にも文字があります。そして、最後は納得の結論?に。新学期で改めてひらがなとカタカナの使い方を勉強する低学年の子どもたちにぴったりの、楽しい絵本です。(低学年以上向き、1300円+税)


『ものがたりがうまれるとき』(デボラ・ホプキンソン・文、ハドリー・フーパー・絵、せなあいこ・訳、評論社)
 物語を書きたい男の子が、机の上に紙と鉛筆を用意しますが、何も思いつきません。そして、落書きの紙ばかりがたまっていく……。さて、男の子はどうする? そして、物語は本当に書き出されるのか?
 何か物語を書いてみたいと思う子は結構いるでしょうが、実際に書こうとする子は少ないのでは。シンプルな展開がかえって、これから生み出される物語の可能性を感じさせてくれます。(低・中学年から、1650円+税)


『絵で旅する国境』(クドル・文、ヘラン・絵、なかやまよしゆき・訳、文研出版)
 まわりを海に囲まれているせいか、わたしたちは国境ということをあまり意識していないように思いますが、世界には実にさまざまな「国境」があります。自然条件もいろいろですが、固く閉ざされた国境もあれば、なんの仕切りもないような国境もあります。国境を境に言葉も宗教も違う場合もあれば、今までなかったところに国境線が引かれることもあります。
 そんな多様な国境の様子を見せてくれるこの絵本が韓国発だということも印象的でした。子どもから大人まで、見て感じて考えてほしい一冊です。(中・高学年から、2500円+税)

 


低・中学年向け

 

『かえでちゃんとひみつのノート』(大久保雨咲・作、植田真・絵、小峰書店)
 転校して新しい学校に行くことが不安なかえでちゃん。引っ越していくかえでちゃんに、大好きな絵が描けるように新しいノートをプレゼントしてくれたのは、みっちゃんでした。真っ白なノートの最初にかえでちゃんが描いたのは、小さなクマみたいなふっさふさの子。かえでちゃんはもじゃりんと名づけ、学校であったことをもじゃりんに毎日報告します。
 もじゃりんの語りを通してかえでちゃんが段々新しい学校になじんでいく様子が伝わってくるのですが、もじゃりん自体がキャラクターとして魅力的なので、かえでちゃんともじゃりんの両方を応援したくなります。(低学年以上向き、1200円+税)


『えんぴつはだまってて』(あんずゆき・作、たごもりのりこ・絵、文溪堂)
 学校の備品室の前で古そうな鉛筆を拾ったのは、エリカ。その夜、大分短くなっているし、と捨てようとすると、鉛筆から声がして、変な妖怪?が出てきます。物がとても古くなると現れる「つくも神」だというのです。この鉛筆を使えば、テストは必ず100点と聞いて、エリカは次の日から学校にこの鉛筆を持っていきます。ところが、備品室にはまだまだ古いものがたくさんありました。
 学校という場は実にいろんなものであふれていて、大事にされていない物も少なくありません。コミカルな展開の中から、そんな物たちの声が聞こえてくるようでした。(中学年以上向き、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『朝鮮通信使がやってくる~戦争から友好へ~』(小西聖一・著、中山けーしょー・絵、理論社)
 鎖国政策をとっていた江戸時代の例外が長崎を窓口にしたオランダだったことはよく知られていますが、隣国朝鮮もまた、日本にとっては貴重な「窓」でした。それを象徴するのが、将軍の代替わりなどに際して訪れる朝鮮通信使で、当時の人々にとっては一大イベントでした。しかし、秀吉の侵略行為の後ということもあり、朝鮮との国交を再開するには様々な困難がありました。本書は、「江戸幕府と7つの事件簿」シリーズの一冊ですが、通信使一行の対馬から江戸までの旅程の大変さ華やかさと共に、その歴史的背景や江戸幕府の外交政策などが要領よくまとめられており、ともすれば戦国時代や幕末に偏りがちな日本史への、新たな入口になるのではと思えました。(高学年以上向き、1800円+税)


『あした、弁当を作る。』(ひこ・田中・作、講談社)
 書評としてはやや禁じ手ですが、まずは帯の紹介文をそのまま記すと、「中学生男子の複雑な自立心をひこ・田中が描く!」とあります。実にその通りです。いつもの朝のように「行ってらっしゃい」の声とともに、母親に背中に手を触れられた中一の龍樹は、ゾクっと寒気がし、そんな自分に戸惑ってしまいます。この始まり方がうまい。目次には「一日目(月曜日)」から「十三日目(土曜日)」まで、数字と曜日のみが並びます。
 二日目、専業主婦の母親が作った弁当と、隣の席の女の子が自分で作った弁当を改めて比べ、冷凍食品についていろいろと聞きます。その日の帰り、スーパーの食品売り場に行き、三日目にはいろいろ買い込んでくるのです。そして四日目、初めて自分で弁当を作ります。もちろん、龍樹の行動は、母親を戸惑わせ、父親を怒らせます。このようにまとめてしまうと、この作品の微妙さが逃げてしまうのですが、龍樹をそうした行動に駆り立てる衝動のような思い、これまでの家族間の「均衡」のありようへの気づき。龍樹は中一男子としてはちょっと異色かもしれませんが、きわめて典型でもあると思いました。中学生にはもちろん、親、先生にもぜひ読んでほしい一冊です。(中学生以上向き、1400円+税)

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