2023年2月号 読んでみたい本


(2023/02/17)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『ちいさなちいさなヤクのガーティ』(ルー・フレイザー文、ケイト・ヒンドリー絵、岩崎書店)
 雪が降り積もる高い山で暮らしているヤクたち。群れの中で一番小さいガーティは、早く大きくなりたいと、たくさん食べたり運動したり。だけども、なかなか大きくなりません。そんなある日、ヤクたちが大急ぎでガーティを呼びに来ました。山の上で動けなくなった子がいて、ガーティに助けてほしいというのです。他の大きなヤクでは、深い雪に沈んでしまって登れないといいます。いかにも子どもの絵本らしいテーマと言えますが、「芸術的」と「漫画的」のいいところを組み合わせたような独特の絵柄が、説得力を生んでいます。子どもの笑顔を引き出す絵本だと思いました。(低学年以上向き、1600円+税)


『そらのゆうびんやさん』(くまくら珠美・作、理論社)
 まずは題名と表紙に惹かれました。絵本では珍しく〈ぼく〉が語る一人称になっていて、その〈ぼく〉が働いているのは、「そらのきっさてん」。そこに、空のゆうびんやさんがやってきます。ねこのマリオさんで、早速カバンの中から、いろんなものを取り出します。マリオさんは、下界の人?たちから預かってきたものを、空の人?たちに届ける仕事をしているのです。自分宛の品物を受け取って下界にいたころを懐かしむ者、何も受け取れずがっかりしている者。文章量は結構多いのですが、なんというかこの絵本には「余白」がある感じで、読者のさまざまな想いを誘います。あなたには、空に届けたい人、届けたいものがあるでしょうか?(低・中学年から、1450円+税)

 


低・中学年向け

 

『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(あまんきみこ作、黒井健・絵、ポプラ社)
 このタイトルに見覚えのある方は、少なからずいらっしゃると思います。タクシー運転手の松井さんが出会う不思議なお客さんたちとの話。といえば、4年生の国語教科書で読んだ「白いぼうし」を思い出される方も多いでしょう。あの話が入っている短編集が『車のいろは空のいろ』で、その後も続編が書かれていましたが、今度22年ぶりに4冊目の新刊が出されました。併せて、これまでの3冊も、絵本『ごんぎつね』などで親しまれている黒井健さんの絵による新装版になりました。「ゆめでもいい ゆめでなくてもいい」を始め、書下ろし4作を含む7作が収録されています。松井さんがどうして何度も不思議なお客さんと出会うのか、この本で、その秘密がちょっとわかってきたような気もします。(中学年以上向き、1300円+税)


『星の声、星の子へ』(星野良一・詩、銀の鈴社)
 タイトルを3回繰り返して読んでください。分かりましたね? この詩集の半分くらいはそうした言葉遊び的な詩でしょうか。言葉遊びの詩は「ひねり」で笑わせてくれるパターンが多いのですが、この詩集はちょっと違った印象でした。なんというか、共感しつつ笑えるというか、詩がドヤ顔をしている感じがないのです。4~6年生あたりのクラスで、一日に一つずつこの詩を読んであげたら、子どもたちの心が潤うのでは、などと思いました。(中学年以上向き、1600円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『エツコさん』(昼田弥子・作、光用千春・絵、アリス館)
 6話からなる連作短編ですが、エツコさんはもちろんどの話にも登場します。但し、呼ばれ方は様々で、例えば第二話の「雨やどり」の明里にとっては「中村さん」。明里が学校から帰ると、その中村さんが妹の日菜と一緒に当たり前のように食卓に座っています。中村さんは前に交通安全のボランティアをしていたので顔見知りですが、日菜のことを「ヒロコちゃん」と呼ぶなど、様子が変です。日菜の宿題を教え始めた中村さんを見て、前に先生をしていたらしいことを思い出しますが、「認知症らしい」と耳に挟んだことも思い出します。時々頭に霞がかかったようになり、自分が誰なのかわからなくなるエツコさん。でもそんな時、たまたま出会った子どもたちの身に、ちょっと不思議なことが起こったりもするのです。エツコさんの話でありつつ、エツコさんと出会ったそれぞれの子どもたちの物語になっていく不思議な味わいの作品世界で、人と人との心が通い合うことが、わたしたちにとってどんなにかけがえのないことかが、じんわりと伝わってきます。(高学年以上向き、1400円+税)


『新月の子どもたち』(斉藤倫・作、花松あゆみ・画、ブロンズ新社)
 目を覚ますと、石の壁で囲まれた部屋に一人でいる自分。明り取りの窓にフクロウが止まっていて、「レイン、あさだ」と呼ばれます。ここが「独房にしては広い部屋」で、自分は死刑囚だとなぜかわかるレイン。これが第一章「トロイガルト」の始まりで、第二章「なぎ町小学校」で、それが5年生の平居令が授業中に寝てしまった時の夢であることが明かされます。普通、そうなると、「なんだ、夢だったのか」と思ってしまうのですが、むしろ「令の身に何が起こっているんだろう」と、ドキドキする感じになりました。その予感?に違わず、たくさんの独房があって、そこに一人ずつ子どもが入っているトロイガルトの世界の様子や、こちら側の令をめぐる状況も段々わかってはくるのですが、そのドキドキは一向にやまないのでした。ストーリーとしては、レイン/令がトロイガルトの世界から果たして脱出できるかというあたりをメインに展開していきます。二つの世界が交錯するファンタジーは珍しくありませんが、こんなふうに読む側に、「これを解くのは君だよ」というふうに問題?が提示されていると感じる物語は、これまであまり読んだことのない作品世界でした。(高学年以上向き、1700円+税)

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