2022年12月号 読んでみたい本


(2022/12/12)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『ごろんずっしり さつまいも』(いわさゆうこ・作、童心社)
 いもほり遠足は多くの子どもたちが経験しているでしょうが、そのさつまいもがどんなふうに大きく育っていくのか、まるで地中のおいもが見えるように、画面がどんどん展開していきます。なんだかさつまいもがひとつのキャラクターのように、強く、楽しく迫ってきます。(低学年以上向き、1200円+税)


『いのちの水』(八百板洋子・再話、ベネリン・バルカノフ絵、福音館書店)
 日本の書き手が、ブルガリアで採取した話を書き起こし、ブルガリアを代表する絵本画家の絵を得て、絵本化されました。衰えを感じた王が、三人の息子に「命の水を持ち帰った者に、この国を譲る」という、昔話としては鉄板の展開なのですが、東西ヨーロッパの文化が交錯するというブルガリアにふさわしい、独特な味わいをもった絵本に仕上がっています。(低・中学年から、1300円+税)


『あくまとけしのみ』(洞野志保・作、偕成社)
 おじいちゃんから聞いた悪魔の話を確かめるために、釘を使っていない椅子と、袋に一杯のケシの実を持って、夜の教会に向かった〈ぼく〉。作者はスロバキア在住で、ご夫君が子どもの頃に聞いた話が元になっています。道具立ては向こうのものですが、悪魔の描かれ方や〈ぼく〉の心情は、日本の子どもたちにも馴染みがありそうで、東ヨーロッパと日本とのコラボ絵本といえるでしょうか。独特の色遣いがイメージを広げてくれます。(低・中学年から、1300円+税)

 


低・中学年向け

 

『だれもしらない小さな家』(エリーナ・クライマー作、小宮由・訳、佐竹美保・絵、岩波書店)
 大きなマンションにはさまれるように建っている小さな古い家。今はだれも住んでいませんが、この家を気にかけているのは、アリスとジェーン。二人は、両側のマンションにそれぞれ住んでいます。ある時、そっとドアにさわってみると、なんと開いたのです。早速掃除にとりかかった二人、そこにアリスの隣に住むオブライアンというおばあさんも加わって、忘れられていたこの家が、クッキー屋としてよみがえります。子どもの秘かな夢が実現していくプロセスに、拍手を送りたくなりました。(低学年以上向き、1300円+税)


『保護ねこ活動 ねこかつ!』(高橋うらら・著、岩崎書店)
 タイトルが示すように、捨てられたり、飼えなくなったりしたねこの保護活動を紹介したノンフィクションですが、〈主人公〉は、埼玉県でそうした「ねこかつ」を続けている梅田達也さん。梅田さんは小学生のころから捨てられたねこのことに心を痛めてきましたが、当時は一年間で数十万匹のねこが殺処分されていたといいます。その梅田さんが、どんなふうにねこの保護活動を始めたのかという「物語」と共に、行政の側の取り組みや梅田さんのような民間の活動との提携ぶりもていねいに紹介されています。「かわいそう」という気持ちをどう実際の活動につなげていくのか、様々に考えさせられる一冊でした。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『ひみつの犬』(岩瀬成子・作、岩崎書店)
 五階建てマンションの四階に住んでいる5年生の羽美(うみ)。下校途中に、建物の隙間にぴったり収まるように入っている男の子を見かけ、思わず声を掛けます。その子は4年生の細田君で、最近羽美のマンションに越してきたのでした。これをきっかけに話をするようになり、細田君の〈秘密〉を知ります。このマンションはペット禁止なのですが、細田君の家には犬がいるのです。引っ越す時に一軒家を探したらしいのですが、父親のいない細田君の家では、高い家賃を払うことができません。羽美は細田君の秘密を守ることと、誰か近所で犬を引き取ってくれる人はいないか、一緒に探すことになります。
 ストーリーとしてはそういう展開なのですが、ルールとは何か、いい人とはどんな人か、大人と子どもが考えていることがどんなふうにずれているのか等々、読者は羽美の言わば思考実験にとことんつきあわされるおもしろさを味わえるでしょう。ミステリー的な味わいもあり、不思議な魅力の物語でした。(高学年以上向き、1500円+税)


『考えたことなかった』(魚住直子・作、西村ツチカ・絵、偕成社)
 中2の颯太が、近くの祖父母の家におすそ分けの水羊羹を持っていく途中、「にょい!」という声がかかります。足下にねこがいて、「会えてよかったにょー」という声。なんと、ねこは未来の颯太で、今死にかけており、ねこの体を借りて、忠告しにやってきたというのです。というのは、酒の飲み過ぎで寝たきりになっており、若い頃に戻ってやり直せるようにという「忠告」なのでした。
 という、マンガのような(という言い方は適切ではないかもしれませんが)始まり方ですが、この後、成績が伸びない悩みや、仕事を再開した母親のことや、そして家事を全くせずおばあちゃんに任せきりのおじいちゃんの話などが、様々に絡んできます。帯に「気づきはじめる男の子の物語」とありますが、確かにこの年齢くらいで気づかないと、間に合わないかも(笑)しれません。(中学生向き、1400円+税)


『遊びは勉強 友だちは先生~「ズッコケ三人組」の作家・那須正幹大研究~』(ポプラ社)
 最後に、昨年亡くなられた那須正幹さんの業績を偲ぶ本を紹介させてください。タイトルは那須さんが好んで色紙などに書いたフレーズです。「ズッコケ三人組」シリーズは児童書の歴史を塗り替えたヒット作でしたが、三歳で広島で被爆した那須さんは、なにより平和を希求した作家でもありました。そんな那須さんの全体像を、この本で見ていただければと思います。(大人向き、2700円+税)

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