2022年10月号 読んでみたい本


(2022/10/11)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『たしますよ』(内田麟太郎・作、たごもりのりこ・絵、金の星社)
 海の上でたいが跳ねている絵に、「たしますよ/たしますよ/たいにひともじ/たしますよ」の文。次のページではたこが「たいこ」を叩いています。次は「いか」が「すいか」という具合に、一文字足すと全然別のものに早変わりします。とはいえ、内田麟太郎さんの絵本だけに、簡単に予想はつきません。教室で声をそろえて読んでも、楽しそうです。(低学年以上向き、1400円+税)


『うまにんげん』(板尾創路・作、大串ゆうじ・絵、岩崎書店)
 学校帰りのケンタ。いじめっこに追いかけられて走っていたところを、向こうからやってきた子馬と衝突。気がついたら、下半身が馬になっていました。ここまではまあ思いつきそうですが、一方子馬のウルスは、下半身が人間に。そんな〈二人〉が街角でまた出会います。この後もまあ予想がつきますが、いやいやそんなすんなりとは終わりません。作者の名前に見覚えがあるでしょうが、そう、あの板尾さんです。シリーズ「お笑いえほん」の一冊。大真面目と遊び心が同居する絵が、作品世界を余すところなく表現しています。(低・中学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『やまの動物病院』(中川ちひろ・作/絵、徳間書店)
 小さな町の外れ、一番山に近いところにある動物病院。ケガや病気の動物はたまにしか来ませんが、診察の様子をじっと見ているのは、先生の飼い猫のとらまる。夜になると、裏口に次々に山の動物たちがやってきます。それを診てあげるのはとらまる。なかなかの名医です。ある日、頭にガラスびんをかぶったカモが。中のドジョウをくわえたら、抜けなくなったというのです。さすがのとらまるも苦戦、順番を待っていた動物たちが加勢しますが……。自分で読むのも、読んであげるにも楽しそうな一冊です。(低学年以上向き、1700円+税)


『お月さまになりたい』(三木卓・作、及川賢治・絵、偕成社)
 学校の帰りに出会ったのは、白と茶のぶちの犬。「まっ白い犬なら、かってやるんだけど」と言うと、その犬は本当にまっ白に。色を変えるどころか、好きなものに形を変えられるというのです。なんと、気球になって〈ぼく〉を乗せてくれます。その犬が本当はお月さまになりたいのだと言って、空の向こうに飛んでいってしまいます。 1972年に刊行された本のリメイク版。犬の“あこがれ”とそれを見守る〈ぼく〉の心模様が響いてきます。(低・中学年以上向き、1300円+税)


『ハッピー・クローバー!』高田由紀子・作、ゆうこ・絵、あかね書房)
 4年生を前にした春休み、近所に同じ学年の風花が越してきます。風花の母親とあおばの母親が幼馴染みだったということもあり、二人は一緒に学校に通うことになりますが、風花の6年生の姉実里は車で学校に。ダウン症の障害がある実里は、体も風花より小さく、あおばもどう接していいかとまどいます。実里がいる「にじ組」の担任のなな子先生があおばの叔母ということもあり、実里とも親しくなりながら、障害をもつ姉のいる風花の気持ちも次第に理解していくあおば。サッカーが好きでショートカットにあこがれるあおばの、もうワンステップの成長に共感を覚えました。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『僕らが学校に行く理由』(渋谷敦志・写真/文、ポプラ社)
 まっすぐなタイトルに惹かれましたが、日本の子どもたちはあまり考えないことにしている設問かも知れません。高校生の時に戦場写真家の本に出会い、写真家を志したという著者は、大学生のころから世界中を旅してきました。そして、学校に行きたくても行けない、あるいはとても劣悪な環境の中で学校に通う、多くの子どもたちと出会いました。この本の中には、南スーダン、バングラデシュ、カンボジア、ミャンマーなどの子どもたちの姿が紹介されていますが、そうした中から、「自分は、なんのために写真を撮るのか」という設問と格闘し続けてきた著者の思いが、ビンビンと伝わってきます。(高学年以上向き、2200円+税)


『星の町騒動記~オオカミさま あらわる~』(樫崎茜作、理論社)
 「星の町がちょっとした騒ぎになろうとしていたその日、その時間、星の町中学校二年二組の磯辺ワタルは、町の外れにある「星のかけら博物館」のモニタールームでお菓子を食べていた」と始まるこの物語、「騒ぎ」とは、「下の宮」に伝説の聖獣オオカミさまが現れた、という事態でした。ワタルが博物館の職員の車で下の宮に連れていかれたのは、中学校の文化伝承部の部員だったこともさることながら、彼が町のもう一つの神社「上の宮」の跡取り息子だという事情もありました。下の宮の宮司は「なんちゅう神々しさ」と力説しますが、ワタルには薄汚れた大型犬としか見えません。しかし、伝説の聖獣現るのニュースはテレビでも取り上げられ、町の観光課や商店街はヒートアップ、「オオカミさま」騒動が繰り広げられます。  民俗風コメディーとも言うべき、児童文学としては珍しいテイストが縦糸とすれば、ワタル自身も当事者となる学校でのいじめの問題が横糸となるのですが、多分この説明ではどんな物語なのか想像がつきにくいかもしれません。大人と子どもの境目ともいえる中学校2年生という年代。大人たちの〈裏〉も見えて嫌悪しつつも、自分自身もそれにつながるものを身にまとっていることもわかりかけてくる――そんな年頃の読者たちに、従来の児童文学にない形でアピールしようとする、おもしろい試みだと思いました。(中学生向き、1400円+税)

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