2022年6月号 読んでみたい本


(2022/06/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『あげる』(はらぺこめがね・作、佼成出版社)
 表紙は揚げたてのエビフライ。ページをめくると、次々にコロッケやかき揚げなどが出てきて、次の見開きで揚げる前の肉や野菜が姿を現す、という仕掛け。ジュージューいう音が聞こえそうで、おいしそうで、文句なく楽しい絵本です。作者は、二人から成るイラストユニットで、「かける」に続くシリーズ第二作。(低学年以上向き、1300円+税)


『学校はうたう』(杉本深由起・詩、松田奈那子・絵、あかね書房)
 まだ学校はマスクや黙食の世界でしょうか。この絵本では、通学路、校門、靴箱、廊下と、学校のいろんなもの(場所)が、順番に思いを語っていきます。廊下の後は、出席簿、机……と続いて、最後はランドセル。例えば、〈そりゃあ わたしだってイヤよ〉(休み時間の終わりを告げるのは)という「チャイムのひとりごと」など、なるほどなあと思わせる詩が並んでいて、これを読むと、確かに学校は歌っているように思えてきます。(低・中学年以上向き、1300円+税)


『戦争をやめた人たち―1914年のクリスマス休戦―』(鈴木まもる 文・絵、あすなろ書房)
絵本に同封の作者からのメッセージによれば、後書きの絵を描いていた時に、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが飛びこんできた、とのこと。第一次世界大戦中の12月24日、イギリス軍とドイツ軍が対峙していた前線で、ドイツ軍からのクリスマスの歌声がきっかけで、戦闘が中止され、サッカーの試合まで行われたという実話が元になっています。この絵本を〈希望〉として読めるのかはある意味微妙かもしれませんが、戦場にいるのは紛れもなく、それぞれの顔を持った人間であることを、痛切に感じさせてくれます。(中・高学年以上向き、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『草のふえをならしたら』(林原玉枝・作、竹上妙・絵、福音館書店)
「草笛」とは懐かしい響きですが、今の子どもたちにはどうかなと思いつつ、第一話の「ねぎのふえで よんでね」で、いきなり本の世界に引きこまれてしまいました。まこちゃんがとうふとねぎの味噌汁を作っています。そのねぎをちぎって口にくわえ、息を吹きこむと、ブイッと音が鳴りだします。つられてやってきたのはぶたで、お料理のお手伝いをしてもらうのですが、さてそのお手伝いとは? 8編がすべていろんな草笛の話で、光村の3年生の教科書に載っている「きつつきの商売」と同作者。文章のリズムが心地よく、読んであげるのにもぴったりです。(低・中学年向き、1600円+税)


『だいじょうぶくん』(魚住直子・作、朝倉世界一・絵、ポプラ社)
 クラス替えで、新しいクラスになじめないでいるそうた。下校時、クラスの子に話しかけようか迷っている時、「だいじょうぶだよ」という声。その声に誘われて入ったのはリサイクルショップ、声の主は古いぬいぐるみで、そうたには確かにその声が聞こえるのです。売り物にはならないので、リサイクルショップのおじさんからぬいぐるみをもらったそうたでしたが、そのぬいぐるみから、元の持ち主を探してほしいと頼まれます。そして自分だけでなく、いろんなものが二つの目をつけてあげれば話せるようになると言うのです。どんなものに目がつけられて、何を話してくれたのか。そして、持ち主は見つかるのか、ミステリーやメルヘン、いろんな味が楽しめる物語です。(中学年以上向き、1480円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『リメイク!』(あさだりん・作、いつか・絵、フレーベル館)
 小学校のクラブ活動、4年生以上の参加ですが、由希はずっと手芸クラブで、友だちの莉奈も3年間一緒です。蓋をあけてみると6年生はその二人だけ、由希がクラブ長に決まります。去年までと違うのは、5年生に男の子のひかるが入ってきたこと、ひかるは自ら書記に立候補もします。家に帰ってその話をすると、ママもPTAの部長に、それもバザーを担当する厚生部の部長になったとのこと。バザーは、手芸部にとってメインイベントといえる行事です。
 物語は、由希と由紀ママそれぞれの「部長奮戦記」とでもいう展開になっていきますが、こういう立場になったことのある人にとっては、身につまされるようなことばかり。また、最初は迷惑がっていたパパが協力的にはなっていくのですが、そのちぐはぐぶりもリアリティたっぷりで、タイトルには様々な意味が込められているようです。(高学年以上向き、1400円+税)


『火星のライオン』(ジェニファー・L・ホルム作、もりうちすみこ・訳、ほるぷ出版)
時代は2091年、人類は火星への入植を果たしていますが、順調には進んでおらず、特にアメリカからの入植者たちは2年に一度の無人の補給船が頼りの、孤立した生活を強いられています。かつては外国の入植地とも交流があったのですが、地球での対立のために交流を禁じられているのです。主人公は11歳のベルで、ベルの後は誰も地球から来ていません。補給船が届いてまもなく、大人たちが次々に病気になっていきます。荷物に紛れ込んでいたネズミが運んできたウィルスが原因と分かりますが、薬が届くのはどんなに急いでも8ヵ月後。17歳のアルビーをリーダーとする5人の子どもたちは、決死の覚悟で隣のフィンランドの入植地に助けを求めます。
 タイトルは、ベルが読んだ地球の動物のことを書いた本の中に出てくる「群れから離れたライオンは、長く生きのびることができません」に由来します。ウクライナ侵攻はもとより、コロナ感染症の前に書かれ始めたという、この物語。わたしたちの〈今〉を考えさせてくれる示唆に満ちたSF小説です。(高学年・中学生以上向き、1600円+税)

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