2022年2月号 読んでみたい本


(2022/02/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『わたしのマントはぼうしつき』(東直子・作、町田尚子・絵、岩崎書店)
 「ふちのところがふさふさのわたしのマントはぼうしつき」(原文は分かち書き)という文の右下に、赤い暖かそうなマントをまとったクマの女の子。ここでは帽子を被っておらず、次の見開きから、「あめがふったらぼうしをかぶる」「かなしかったらぼうしをかぶる」というふうに展開していきます。子どもには(大人にも?)お気に入りの服があって、友だちのような存在だったりもしますね。バックのブルーに赤いマントが映えて、そんな心情が無理なく伝わってきます。かわいいという言葉は使いたくありませんが、いかにも絵本らしい魅力にあふれた絵本でした。(低学年以上向き、1500円+税)


『伝え守る アイヌ三世代の物語』(宇井眞紀子写真・文、少年写真新聞社)
 大阪に住むダイキとワカナのお母さん・ひろ子さんは、北海道生まれのアイヌ民族。アイヌ語の歌を歌ったり、アイヌ文様の刺繍作品を作ったりして、アイヌ文化を伝える活動を続けてきました。ダイキたちのじいじ・ひろ子さんの父親は、北海道にいてアイヌ伝統の木彫り作品を作っています。夏休みや冬休みをじいじの家で過ごしてきたダイキたちでしたが、北海道に引っ越すことになりました。それからも、ひろ子さんと共に、大阪でもアイヌの歌や踊りを発表したりしています。
 アイヌの昔話を題材にした絵本はいくつかありますが、この写真絵本では、文様や木彫りの美しさと共に、アイヌの人たちの〈今〉が写し出されます。日本の中のもう一つの文化に気づくきっかけになりそうです。(中学年から、1800円+税)

 


低・中学年向け

 

『ねこのおひめさま』(竹下文子・文、林なつこ・絵、あかね書房)
 グリム童話といえば、「白雪姫」や「ヘンゼルとグレーテル」など、世界中に親しまれたお話がたくさんありますが、これは「あまり有名ではないけれど、とても面白いお話を選んで」というコンセプトで始まった「グリムの本だな」シリーズの一冊め。粉ひきの親方が引退するにあたって、仕事を手伝ってきた三人の若者に、「一番いい馬を連れて帰ってきた者に、水車小屋を譲ろう」と告げます。一番年下のハンスが、旅で出会った三毛ねこの助けで馬を手にしますが、もちろんすんなりとはいきません。確かに「あまり有名ではないけれど」とてもおもしろいお話でした。昔話の味わいを残した竹下さんの文は、読んであげるにもぴったしの感じです。(低学年以上向き、1100円+税)


『「はやぶさ2」リュウグウからの玉手箱』(山下美樹・文、津田雄一・監修、文溪堂)
 小惑星リュウグウから見事に「星のかけら」を地球に届けたはやぶさ2の偉業は、テレビなどで度々報じられましたし、初代はやぶさは映画にもなりましたが、結構基本的なことでわからないことが少なくありません。そもそも小惑星とはどういう存在か、わずかなかけらを持ち帰ることにどんな意味があるのか、またこうした探査機はどの程度の“知能”を持っているのか等々。本書は旅立ちから帰還までのプロセスを追いながら、こうした疑問に適切に答えてくれます。そして、そうした中から浮かび上がるのは、探査機を打ち上げた人たちの熱い想いとチームワークの力です。最後に寄せられたプロジェクトマネージャーの津田さんのメッセージも、そうした関係者の思いを余すところなく伝えてくれます。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『落窪物語』(花形みつる編訳・絵、偕成社)
 「落窪物語」は平安時代に書かれた物語で、主人公が継母から徹底的にいじめられる境遇や、後半では「王子様」の登場によってそれがひっくりかえる展開から、「日本のシンデレラ」とも呼ばれ、田辺聖子の現代語訳やマンガとしても親しまれてきました。こうした原作のある作品を語り直すのを「再話」と言ったりします。上記の竹下版グリムも再話です。
 さて、こちらの花形版落窪は、「かわいそうな姫君と勇敢な侍女の友情と冒険」のサブタイトルが示すように、ヒロインの「落窪の君」(継母が与えた部屋が、床が窪むほどひどい部屋というところからのネーミング)に仕えるあこぎという女房が、副主人公というか、ダブル主人公といってもよい存在感で、彼女の語りで進行することで、現代の読者につなげる役目も果たしています。当時の恋愛・結婚事情も、今の読者には“新鮮”に映るのではないでしょうか。(高学年以上向き、1500円+税)


『ガラスの魚』(山下明生・作、理論社)
作者の山下明生さんは、『海のしろうま』『島ひきおに』などで知られる、「海の童話作家」の第一人者ですが、そうした幼年向け作品と並んで、自伝的な少年小説『海のコウモリ』『カモメの家』があり、前者はアニメ化もされています。本書で三部作完結ということになりましたが、前作から実に三十年ぶりです。帯に「瀬戸内の島に暮らす少年たちの(略)「スタンド・バイ・ミー」」とありましたが、舞台は昭和二十年代後半の能美島。「スタンド・バイ・ミー」は映画でご覧になった方も多いと思いますが、原作はモダンホラーの巨匠スティーブン・キングの自伝的小説です。少年たちの「死体探し」をめぐる顛末が描かれていましたが、こちらは中学一年の主人公が川で死体を発見するところから物語が始まります。とにかく、おもしろい。読む前は、正直これを今の同年代の子どもたちに紹介するのはどうかな、という思いもありましたが、なんのなんの。日本にもこんな〈少年時代〉があったんだ、という発見と共に、思春期を迎えた少年の心模様が、今の子どもたちにもぐいぐいと突きささるに違いありません。(高学年以上向き、1500円+税)

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