2021年8月号 読んでみたい本


(2021/08/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 今回は本の紹介に入る前に書かせていただきたいことがあります。まずは、このベルマーク新聞でご紹介いただいた日本児童文学者協会創立75周年記念の本のプレゼントのこと。「ベルマーク新聞を見て」という応募校も何校もありました。抽選結果は各校にお知らせし、協会のホームページにも掲載しています。その児童文学者協会の僕の三代前の理事長の那須正幹さん、「ズッコケ三人組」の作者ですが、7月22日に亡くなられました。新聞でご覧になった方も多いと思いますが、僕にとっても大事な先輩でした。その那須さんの作品をあえて一つあげろと言われれば、6年生二人がパラレルワールドに迷い込む『屋根裏の遠い旅』というSF作品。偕成社文庫版は僕が解説を書いていますので、図書館で見つけたら、読んでみてください。

絵本

 

『火星は…』(スザンヌ・スレード文、千葉茂樹・訳、三河内岳・監修、あすなろ書房)
 ということで、今回は絵本は一冊のみですが、これを写真絵本といったらいいのか。写真絵本には必ず撮った人の名が記されているわけですが、この写真を撮ったのは探査機のカメラなのです。2005年に打ち上げられ、今も画像データを送り続けているアメリカの探査機MRO。その鮮明さには息を飲みます。水が作った地形や火山の噴火が作った地形などに加えて、今も刻々と姿を変える火星の姿は、まさに生きている大地そのものです。平均しておよそ15分かけて画像が地球に届けられるという説明も、印象的でした。(中学年から、1800円+税)

 


低・中学年向け

 

『かえるのエルのともだちになりたい!』(乗松葉子・作、おおでゆかこ・絵、ポプラ社)
 動物が登場する幼年童話はたくさんありますが、すぐ思い出せるのは神沢利子さんの「くまの子ウーフ」、森山京さんの「きいろいばけつ」のシリーズなど、決して多くはありません。この本は「かぜぎみになりたい!」「くもは ともだちを つくらない?」の二話から成っていて、主人公はもちろんかえるのエル、そして相方がカエルの女の子のアールちゃんです。第一話の始まりで、エルがいつものようにアールちゃんの家に遊びに行くと、アールちゃんは遊べない、というのです。なぜならアールちゃんはかぜぎみだから。「かぜ」ではなく「かぜぎみ」というのがミソで、ここから物語が展開していきます。小さな?が次の!につながっていくようなストーリーは、幼年童話の王道ともいえ、家や教室で読んであげるのにもぴったりです。(低学年向き、1250円+税)


『どっちでもいい子』(かさいまり・作、おとないちあき・絵、岩崎書店)
 タイトルを見て、はっとする子がいるのではないでしょうか。4年生になったはるは、新しいクラスで友達ができるかどうか心配でしたが、他の子が「いてもいなくても、どっちでもいい子」と自分のことを話しているのを聞いてしまいます。はるには中学一年のお姉ちゃんがいて、去年小学校対抗の弁論大会に優勝したという、正反対のタイプ。こういう物語は、主人公がそうした自分を克服していくんだろうと、まあ予想はつくわけですが、そこに全然わざとらしさがありません。特に遠慮でもなく、周囲にむやみに合わせているわけでもないのに、どうしても決断がワンテンポ遅れてしまう様子に、「そうそう」とうなづく読者は少なくないでしょう。そして、人物配置が巧みで、はるのありようが一つの個性であることが、無理なく伝わってきます。物語の主人公が読者の心に寄り添ってくれる、そんな一冊だと感じました。(中学年以上向き、1200円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『海を見た日』(M・G・ヘネシー作、杉田七重・訳、すずき出版)
 舞台はロサンゼルス近郊。年配の婦人ミセス・Kの家には中学2年のナヴェイアを筆頭に4人の里子がいます。他の3人はそれぞれ問題を抱えていて、父親がエルサルバドルに強制送還されたヴィクは、自分が政府の秘密組織の一員という妄想の中に住んでおり、クエンティンはアスペルガー症候群、女の子のマーラはめったに口をききません。ほとんど家事をしないミセス・Kに代わって3人の面倒を見るナヴェイアですが、7軒の家を転々としてきた彼女からすれば、ミセス・Kはましな里親であり、奨学金を得てUCLAに入学する願いを実現するには、この家にい続けなければなりません。物語はクエンティンが母親に会いたいと家を抜け出したことで(実際にはガンで亡くなっている)、ナヴェイアたちが巻き込まれていく展開になります。
 アメリカには、キャサリン・パターソンの『ガラスの家族』など血縁でない家族を描いた作品の伝統がありますが、ぎりぎりの中で人とのつながりを求める思いが痛切に伝わってきます。(高学年以上向き、1600円+税)


『池上彰の君と考える戦争のない未来』(池上彰・著、理論社)
 一口で言えば、日本を中心とした現代史について語った本で、そうすると自ずから戦争というテーマが浮かび上がってくるわけで、さすがにわかりやすい。その一番の理由は、〈つながり〉が見えてくること。日清や日露の戦いはそれ自体として大きなできごとでしたが、同時に太平洋戦争への伏線でもあったわけで、そこが見えてきます。また、現在の中東情勢の背景にある欧米諸国のかつての関わりも、なるほどと思わされます。個々の戦争、紛争のありようが、戦争はなぜ起こるのかという全体的な命題に無理なく結びついていき、わたしたちの今とこれからの選択が、この後の歴史に結びついていくのだということが伝わってきます。今の子どもたちは、ある意味戦争、紛争に関する情報には飽き飽きしている面があると思いますが、帯の「戦争は……やめることもできるはず」という呼びかけが、空証文ではないと感じさせてくれました。(高学年・中学生から大人まで、1400円+税)

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