2021年6月号 読んでみたい本


(2021/06/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『へんてこたいそう』(新井洋行・作、小峰書店)

 今回はユニークな絵本が多くて、選ぶのが大変でした。まずは、この「へんてこたいそう」。表紙の絵は女子男子トイレのマークですね。このマークが体操を始めます。足を開いて、踏ん張って! 今度は、緑の非常口のマーク。駆け足で出口から外に出ようとしています。このマークがおしりをプリプリッと振るとどうなるか。というふうに、次々にいろんなマークがへんてこな体操を見せてくれます。この絵本を見た後に人型のマークを見たら、きっとそのマークは動き出すでしょう。(低学年から、1200円+税)


『クマとオオカミ』(ダニエル・サルミエリ作、やまぐちふみお訳、評論社)

 冬を迎えた森の中、クマが歩いていくと、向こうからやってきたのはオオカミ。オオカミが歩いていくと、向こうからやってきたのはクマ。クマとオオカミは、連れ立って雪の森の中を探検に出かけます。なにか事件が起こるわけではないのですが、若いクマとオオカミの息遣いが聞こえてくるような、静かでいて、あたたかさを感じさせる画面です。文もシンプルですが、例えば教室で、これを何人かで朗読したら、この絵本の味わいが更に浮かび上がってくるのではないでしょうか。(低・中学年から、税込1815円)

 


低・中学年向け

 

『しんぱいせんせい』(北川チハル・作、大野八生・絵、佼成出版社)

 ここでは教室が舞台の作品を二冊紹介しますが、実はかつてに比べて、先生と子どもたちをめぐる物語というのは少なくなっています。まずは「しんぱいせんせい」ですが、本当の名前は「しんぺいせんせい」で、子どもたちと同じ先生一年目の先生は、なにかというと「だいじょうぶかなあ」と心配します。この台詞を先生に言われると落ち着かないのがたつや。自分も学校の中でいろいろ心配なことがあるからです。この作品を読んで、僕は自分が教員一年生の時のことを思い出しました。僕も一年の担任でした。〈心配〉をキーワードに、自分や相手を受け容れていく先生と子どもたちが描かれます。(低学年向き、1200円+税)


『サイコーの通知表』(工藤純子・著、講談社)

 通知表がテーマの作品といえば、宮川ひろさんの『先生のつうしんぼ』を思い出します。こちらは1970年代の作品ですから、それから通知表は様変わりした部分もありますが、子どもたちを、そしてつける側の先生を悩ますものであることに変わりはありません。4年生の朝陽は、1年生のときからどの教科も「できる」ばかりで「よくできる」も「もうすこし」もありません。友だちの大河は「もうすこし」が結構あり、吐希ちゃんは「よくできる」がずらり。この3人が通知表についてあれこれ話しているうちに、担任の若いハシケン先生の通知表を作ろう、という話になるのですが、そのプロセスはかなりていねいに描かれます。そして、『先生のつうしんぼ』と違うところは、3人がクラス全体をまきこんで本当に先生の通知表を作り、先生に渡すところ。こうしたテーマに真っ向から切り込んだ作品を、久しぶりに読んだ気がしました。(中学年以上向き、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『迷子の星たちのメリーゴーラウンド』(日向理恵子・作、六七質・絵、小学館)

 とても不思議な作品で、うまく紹介する自信がありませんが、ジャンルとしては近未来SFということになるでしょうか。十数年前から閉園になっている遊園地をめぐるオムニバス風な構成になっていて、この半ば廃墟になった遊園地の地下には一人の女の子が住んでいます。彼女は15歳なのですが、3歳で体の成長は止まったままで、遊園地から外には出られない体質になっています。面倒を見ているのはかつての遊園地のスタッフですが、いよいよここが取り壊されることになります。一方で、この町では停電が相次ぐなど奇妙な現象が続発し、学校も休校になっています。そして、遊園地では特別な子たちを対象にしたある取り組みが始まっていて、やってきたのは小1から中3までの5人。彼らの抱えている「問題」が、遊園地側から渡された日記に綴られていきます。彼らの抱えている問題と、遊園地に住む少女の状況が果たして関連があるのかどうか。物語は謎を残したまま閉じられますが、僕にはコロナ禍という不条理の中で生きる子どもたちへのオマージュであるようにも読めました。(高学年以上向き、1400円+税)


『はなの街オペラ』(森川成美・作、坂本ヒメミ・絵、くもん出版)

 時代は大正半ば。宇都宮の小学校を卒業した神谷はなは、東京のお屋敷に奉公に出されます。奉公先の井野家の主人は作曲家で、浅草六区で和風のオペラを演じる一座を率いていました。この家には、音楽学校生の笛木響之介が書生として住んでいて、響之介の父親は今は帰国したドイツ人の音楽家でした。はなは雑用全般で忙しい日々を送りますが、この家のお嬢さんの歌のレッスンについていくことがあり、一発でその歌を覚えてしまいます。はなの音感の良さを見抜いた響之介は、歌のレッスンに毎回ついていけるよう、計らいます。そんなはなの運命を大きく変えたのも響之介で、彼が出演していた浅草の舞台をたまたま見に行ったはなを、急きょプリマドンナの代役に仕立てます。大河ドラマの前半部分にはなるような波乱万丈の展開で、最後は関東大震災に遭ったはなたちのその後を予感させて、閉じられます。
 この時代の浅草オペラをめぐる音楽家たちの考え方の違いや、庶民の受容の様子などが実にきちんと描かれていて、児童文学の時代小説として紛れもない一級品が生まれた、と感じさせられました。(高学年・中学生から大人まで、税込1650円)

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