2021年4月号 読んでみたい本


(2021/04/09)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『おにぎり!』(石津ちひろ・文、村上康成・絵、小峰書店)

 ライトブルーの画面の3分の2ほども占めそうな白い丸、その白と青を背景に、黒で「おにぎり!」の書き文字。それだけでなんだか楽しくなります。右下のピンクも効果的です。更に、帯にはピンクで「春がきた! 五・七・五でピクニック」とあり、すっかり春の気分になります。扉のページの「ひろいそら くもがぽっかり うかんでる」をスタートに、文はすべて俳句調。教室で読んであげたら、いつのまにかみんなで声を合わせて読みそうで、しばらく会話も五七五になりそうな、いかにも“乗せてくれる”絵本でした。(低学年から、1400円+税)


『おおきなキャンドル 馬車にのせ』(たむらしげる・作、偕成社)

 最初のページ、「こびとのニコさんと ロボットのダダくんが、森にやってきました」とあり、大きな木を見上げるニコさんとダダ。次のページ、木にくっついた蜂の巣を採ろうとしているあたりから、スケール感が見えてきます。蜜ろうで作った一本のキャンドルを二人がかりで荷馬車に積み込んで、途中でいちごを収穫している人たちに会いますが、その人たちの体よりいちごの方が大きいのです。ここはそういう世界なんだ……ということが伝わってくると共に、二人の行き先に何が待っているのか、期待が増していきます。この絵本のオリジナリティーに失礼な言い方かもしれませんが、「借りぐらしのアリエッティ」のドキドキ感と、「ぐりとぐら」のワクワク感を合わせたような魅力、と言ってみたい気がしました。(低・中学年から、1400円+税)

 


低・中学年向け

 

『一年生なんだもん めざましくんと大とっくん!』(村上しいこ・作、ひがしちから・絵、学研プラス)

 タイトルはいささかベタですが、そこは『れいぞうこのなつやすみ』などでおなじみの村上しいこワールド、一筋縄ではいきません。一年生になったから自分でセットして起きられるようにと、ママから目覚まし時計を渡されたくみちゃんでしたが、寝坊をしてしまいます。目覚まし時計が鳴らなかったのです。学校に行く途中現れたのは、四角いおじさん時計で、つくもがみ小学校の一年生担任の「一びょうまもる先生」と名乗ります。なんと、くみちゃんの目覚まし時計が寝坊をして、くみちゃんを起こせなかったというのです。一年生のくみちゃんと、一年生の目覚まし時計。二人? の朝の奮闘が始まります。一年生にはもちろん、一年生を卒業した二年生も、楽しめそうです。(低学年向き、1100円+税)


『ほんとのなまえ』(いとうゆうこ・詩、てらいんく)

 子どもが詩集を手に取って読むということはあまりなさそうで、この欄で詩集を取り上げるのはややためらわれるのですが、子どもたちへの紹介のしかたによっては詩のおもしろさ、楽しさに気づいてもらえるのではないでしょうか。この詩集は三章に分かれていて、特に第一章は中学年あたりから親しめそうです。冒頭に置かれ、詩集のタイトルにもなっている「ほんとのなまえ」は、【ゆり/ゆり/いくらよんでも/ゆりはこっちをむいてくれない∥かぜがささやいたら/うなずいていたのに∥かぜはきっと/ゆりのほんとのなまえを/しっているのね】。もう一つ、「ばくはつ」。【妹が不安げな顔をしてたずねる/「おにいちゃんばくはつするんじゃない∥兄は真剣な顔でこたえる/「まだわからない」】。詩は子どもの言葉への親しみと信頼を育むと思います。(中学年から、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『わたしのあのこ あのこのわたし』(岩瀬成子・作、PHP研究所)

 タイトルから連想されるように、二人の女の子をめぐるストーリーで、一人は曽良秋、もう一人は持沢香衣。二人が親しくなったのは5年生で同じクラスになってからで、登下校時に話をするようになり、ゴールデンウィーク後に、秋は「友だちになりたい」という手紙を香衣に渡したのでした。二人とも女の子たちのグループに積極的に加わるタイプではなく、秋はマイペース派、香衣は他の子たちの話をにこにこして聞いているような性格です。秋は結婚式場に勤めるお母さんと二人暮らしで、月に一回父親である「道夫くん」と会っています。その道夫くんからプレゼントされたビートルズのレコード。香衣の家にレコードプレーヤーがあるというので使わせてもらうのですが、香衣の弟のせいでレコードに傷がついてしまい、二人の境遇の違いへの意識も含めて、秋の心の中に(本の帯の言葉を借りれば)ひっかき傷のような思いが生まれます。
 でも、そういう(境遇の)子だから、というような話では全然ないのです。大人への階段を一歩踏み出そうとしている二人が、どんなふうに自分を引き受けようとしているのか、読めばきっと二人を好きになります。(高学年以上向き、1400円+税)


『岩波少年文庫のあゆみ』(若菜晃子・編著、岩波書店)

 岩波少年文庫が創刊されたのは1950年、そこから70年が経ちました。創刊の中心にいたのは石井桃子で、創刊時の作品には、井伏鱒二訳の「ドリトル先生」シリーズを始め、ケストナーの『ふたりのロッテ』『エミールと探偵たち』、そして内藤濯訳の『星の王子さま』など、これらの作品が日本のその後の児童文学に与えた影響ははかり知れません。僕が知る限りでも、中川李枝子さんとか、斎藤惇夫さんとか、岡田淳さんとか、これらの作品に親しんだことが児童文学作家への出発点になっています。しかし、その岩波少年文庫の70年の歩みは、必ずしも順風満帆な時ばかりではありませんでした。岩波少年文庫のファンはもちろん、翻訳の歴史や児童図書の歩みに関心のあるすべての方たちにお勧めしたい一冊です。(高学年・中学生から大人まで、1000円+税)

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