2021年2月号 読んでみたい本


(2021/02/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『みたら みられた』(たけがみたえ・作、アリス館)

 いつものことながら、絵本らしい絵本であるほど、紹介が難しい。こちらが視線を送ったら、倍の(?)視線が返ってきた―そんなふうに感じたことはありませんか? この絵本は、そんな瞬間を「みたら」「みられた」の繰り返しの中で切り取っていきます。ユーモラスでもあり、ドキッとさせられるようでもあり、そしてその繰り返しがどんなふうにラストまで展開していくのか、という所も含め、また木版の質感を生かした絵も実にぴったりで、見事な絵本でした。(低学年から、1500円+税)


『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』(キース・ネグレー作、石井睦美・訳、光村教育図書)

 最初にズボンをはいた女性の一人として知られるメアリー・エドワーズ・ウォーカーは、女性医師が世の中に認められない時代、医学部を卒業し、軍医として南北戦争に従軍、その後も女性の選挙権などを訴え続けました。このメアリーの少女時代、初めてズボンをはいた時のことが、コミカルとも思えるタッチの絵で描かれています。「きみは、男の子のふくをきているじゃないか」と問い詰められたメアリーが、「わたしはわたしのふくをきているのよ」と答える場面が印象的です。実際、大人になってズボンをはいていることを理由に何度も逮捕されたメアリーの言葉であることが、後書きで紹介されています。(低・中学年以上向き、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『泣き神さまサワメ』(横山充男・作、よこやまようへい・絵、文研出版)

 そうたは自他ともに認める泣きむしで、宿題を忘れた時、給食をこぼした時、犬にほえられた時と、泣くタネにはことかきません。さすがに三年生にもなって直さなければと、近くの小さな神社でお参りすると、巫女のかっこうをした女の子が出てきて、どうすればそんなに泣けるのだ、と逆に聞かれます。サワメと名乗った女の子は、実は神様で、いや神様になるために修行中でこの神社にやってきたばかりで、期限内に人のために泣けるようにならないと、消えてしまうというのです。泣きむしの子が主人公の物語はいくつもありますが、泣くことがどういう行為なのかということを、サワメの「泣くための修行」を通じて考えさせてくれるところがユニークでした。(低・中学年向き、1300円+税)


『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文、内田かずひろ・絵、あかね書房)

 「赤いのと迷いながらも買ってきたオレンジ色のボールの話」から「雨上がり虹のふもとを見るためにみんないっしょに走った話」まで、15の掌編が並んでいます。それぞれの主人公は3年生のクラスメートで、最初の「赤いのと……」は、中田宏和君の話。先生から「明日はボールをわすれずにね」と言われ、前からほしかったオレンジ色のボールを買います。ところが次の日、先生が言ったのは容れ物の「ボウル」だったことに気づかされます。隣の席の多緒さんが、自分のボウルを一緒に使わせてくれました。そして、次の話はその多緒さんが主人公、というふうに、リレー式で話がつながっていきます。「小学生あるある話」という感じでもありますが、「赤いのと……」の終わりが、放課後友だちとそのボールで遊ぶ場面で終わるように、どれも後味の良さが光ります。(中学年以上向き、1200円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『チェリーシュリンプ―わたしは、わたし―』(ファン・ヨンミ作、吉原育子・訳、金の星社)

 主人公は中学2年生のキム・ダヒョン。新年度がスタートし、仲のいい子と同じクラスになれるかどうか……というところから物語が始まります。小学校5年生の時仲間外れになってつらい思いを経験しているダヒョンでしたが、その後仲良し「5人組」の一人として楽しく過ごしてきました。しかし、本当は読書やクラシック音楽が好きなダヒョンも、そうした自分を出すことは「マジメ虫」と言われそうで抑えてきました。新しいクラスでは5人組のうち二人とは同じクラスになれましたが、隣の席になったノ・ウンユは、5人組の「憎まれっ子リスト」の2番目にいる女の子でした。ところが、クラスの課題で4人ずつの班で新聞を作ることになり、5人組の他の子たちの視線を気にしつつも、ダヒョンはウンユのことをいろいろ知っていきます。そして、周りの子たちの思惑ばかりに捉われている自分に息苦しさを覚えていきます。「チェリーシュリンプ」は観賞用の淡水エビのことで、その脱皮する姿に惹かれ、ダヒョンは自分の匿名ブログのタイトルにし、そこだけが自分の思いを率直に語れる場でした。
 韓国の現代の作品が紹介される機会はまだまだ少ないですが、ダヒョンたちの日常は日本の中学生たちのありようを映し出す鏡のようでもあり、深い共感をもって迎えられるに違いありません。(高学年・中学生以上向き、1400円+税)


『アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士』(おおぎやなぎちか・作、江頭大樹・絵、くもん出版)

 奈良から平安時代初期にかけて、北への侵攻を続ける朝廷軍に対して戦ったエミシたち。中でも、アテルイの名は、彼を都に伴った坂上田村麻呂の名と共に、記憶されています。「敗者」であるアテルイやエミシたちの思いは歴史の表には浮上してきませんが、著者はアテルイの生い立ちや生涯について、大胆な推測もまじえながら、一人の人間として苦悩する姿を描きます。また田村麻呂についても、エミシの「敵」でありつつアテルイの理解者として複雑な立場にある存在として造形しており、歴史の渦に懸命に抗った二人の姿が心に響いてきます。また、アテルイの母や姉サラ、妻となるヤヌルといった女性たちの生きざまも印象的でした。(高学年以上向き、1500円+税)

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