2020年12月号 読んでみたい本


(2020/12/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『おとうふ 2ちょう』(くろだかおる・作、たけがみたえ・絵、ポプラ社)

 僕もかつて『山本先生ゆうびんです』という本の中でネタにしたことがありますが、とうふのお使いというのは、昔も今も経験者の子どもが多いのではないでしょうか。
 ケンちゃんがスーパーでとうふを買った帰り、お母さんからケータイに電話が入り、「もう1丁お願い」と言われます。友だちとの約束の時間が迫っていたケンちゃんに断られ、家にいた双子の妹たちに頼むお母さん。張り切って遠くのおとうふ屋さんまで出かけた二人ですが、「たしか2丁って言ってたわよね」とそれぞれ2丁ずつ買ってしまいます。という具合で、「もう1丁」のはずのとうふがどんどん増えていく展開。愉快で、どこか懐かしい感じがする絵本でした。(低・中学年向き、1400円+税)


『ふぶきのみちはふしぎのみち』(種村有希子・作、アリス館)

 吹雪の朝、みちるとお姉ちゃんが学校へ向かいます。風に向かって頭を下げて、「いち、に!」の後に動物の名前を入れて掛け声をかけながら歩く二人。「いち、に、しろくま」と言ったみちるの隣に、本当にしろくまが現れます。あたりの空気が白くなる一瞬、秋田出身の僕にはとてもよくわかる世界でしたが、そうした経験のない読者にも、この不思議はあこがれをもって共有されるに違いありません。(低・中学年向き、1400円+税)


『日本語オノマトペのえほん』(髙野紀子・作、あすなろ書房)

 日本語はオノマトペが豊富というのはよく言われることですが、普段わたしたちが当たり前のように使っている擬音語や擬態語が、場面ごとに整理されます。例えば「いっぱい食べる」のページでは、くんくん、ぱくぱく、もりもり、ごくごく、ぺろり……というふうに、この見開きだけで24もの擬音・擬態語が並んでいます。わたしたちの体に染みついた言葉を再発見できる一冊でした。(低学年から、1400円+税)

 


低・中学年向け

 

『ココロ屋 つむぎのなやみ』(梨屋アリエ・作、菅野由貴子・絵、文研出版)

 3年生の教室での「いまから五人か六人のグループを作ってください」という、先生の台詞から物語が始まります。自分の班は4人なので、仲良しのりんちゃんに加わってもらおうと思ったつむぎでしたが、ちかこがりんちゃんを誘ってしまい、結局つむぎは女の子は自分だけという班になってしまいます。その後もいくつかのことがあり、心穏やかでないつむぎに、ひろきくんが自分が出会ったココロ屋のことを教えてくれます。そこではココロを入れ替えてくれるというのです。そして、みんなから誤解され、廊下に飛び出したつむぎの前に現れたタイヤのついた扉。ひろきくんが言ったココロ屋でした。そこでつむぎは「意地悪なココロ」に取り替えてもらいます。願いの通り、次々にちかこをやりこめることのできたつむぎでしたが……。2012年に感想文コンクールの課題図書になった『ココロ屋』の続編で、これを読んだ子どもたちの話し合いが期待できそうです。(中学年以上向き、1300円+税)


『おとうとのたからもの』(小手鞠るい・作、すずきみほ・絵、岩崎書店)

 2年生のあおいは、毎日学校が終わると、保育園に弟の冬馬を迎えに行きます。体育や音楽は得意なあおいですが、国語は苦手、本を読むのは大嫌いです。なのに冬馬は絵本が大好きで、自分の名前も漢字で書けるのです。冬馬が熱を出して休んだ日、学校から帰ったあおいが様子を見ると、冬馬は一冊の絵本を布団の中に入れています。試しにその絵本を読み出したあおい、いつのまにか絵本の世界に引き込まれていました。あおいの両親は再婚同士という設定で、家族のドラマが絡んでの、本との出会いの物語でした。(低・中学年向き、1100円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『世界とキレル』(佐藤まどか・作、あすなろ書房)

 中学2年の舞は、いとこの鏡花の誘いで、夏休みに「森の家」で3週間を過ごすことになります。いとことはいえ、容姿も家庭環境も対照的な二人。舞には思惑があり、それは3週間の生活をSNSで発信することでした。難関中学に合格したものの、勉強についていけない舞が、唯一一生懸命になれるのが、架空の人格になっての発信で、フォロワーは千人を越えています。ところが、到着した途端、スマホを取り上げられてしまいます。この人里離れた施設に、それぞれに訳ありの7人の中学生が集まって3週間を過ごすという、何やら密室ミステリーのような設定ですが、舞にとって、スマホで外と繋がれないことは、まさに「世界とキレル」ことでした。ついに“脱走”を試みる舞。失敗して戻ったあたりから、他の参加者との本音の語り合いが始まっていきます。
 4人の男の子を含む7人の人物設定が絶妙で、7人それぞれを応援したくなるような、うれしい読後感でした。(中学生以上向き、1400円+税)


『コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし』(リー・ペック作、ヴァージニア・リー・バートン絵、安藤紀子・訳、徳間書店)

 私たちにはややなじみのないコヨーテですが、アメリカ開拓で絶滅した動物も少なくない中で、むしろ生育域を広げていて、先住民の民話の中でも、もっともかしこい動物として扱われています。そんなコヨーテをめぐる民話集で、動物同士のいさかいで知恵を発揮したりするだけでなく、人間に火をもたらしたのもコヨーテだとされています。イソップ的な寓話風の味わいの話から、神話的なスケールの物語と幅広く、ユーモアの味つけもあります。原書は1942年刊で、挿し絵は絵本『ちいさいおうち』のバートンです。(中・高学年以上向き、1800円+税)

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