2020年10月号 読んでみたい本


(2020/10/12)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『雨の日の地下トンネル』(鎌田歩・作、アリス館)

 帯に「まちをまもるひみつのトンネル」とありますが、私たちは家の周りの排水溝までは見ているものの、その先は降った雨がどこにどう行くのか、ほとんど知らないのではないでしょうか。大ざっぱに言えば近くの川から大きい川を経て海へというコースをたどるわけですが、それをコントロールする排水機場という施設や地下放水路の仕組みなどはまったく知りませんでした。ダイナミックなそうした仕掛けが、わたしたちの住む町の地下に隠されていることを、この絵本は余すところなく伝えてくれます。大人も子どもも一緒に楽しめます。(低学年から、1400円+税)


『オオカミ王ロボ』(あべ弘士・文・絵、E・T・シートン原作、学研プラス)

 これは絵本というか、絵物語というか、シートン動物記の中でもポピュラーなこの話を、動物を描かせたらこの人というあべ弘士が、文も含めて一冊に仕上げています。5年間でざっと2千頭もの牛を仕留めたオオカミの群れ。そのリーダーがロボで、どんなワナや毒エサも歯が立ちません。牧場主から相談を受けた〈私〉とロボとの死力を尽くした対決が始まります。これがシリーズ第1巻で、「あべ弘士版シートン動物記」の始まりです。(中学年から、1400円+税)

 


低・中学年向け

 

『めいたんていサムくん』(那須正幹・作、はたこうしろう・絵、童心社)

 2年生のオサムは、小さい頃から推理が得意でみんなから「めいたんていサムくん」と呼ばれています。頭をすっきりさせたい時は、赤ちゃんの時から離さない空色のタオルハンカチの匂いをかぐ、というところがご愛敬。ここでは「きえたおにんぎょう」「のらいぬのひみつ」の二つの事件を解決するサムくんが描かれます。「ズッコケ三人組」の那須正幹さんが、これまでほとんど例のなかった低学年向けの探偵物に挑戦、次作も予告されています。(低学年以上向き、1100円+税)


『トリコロールをさがして』(戸森しるこ・作、結布・絵、ポプラ社)

 この作品、中学年に入れるか高学年に入れるか、迷いました。主人公は4年生の真青(まお)。副主人公ともいうべき真姫(まき)は6年生で、真青にとって真姫は近所の仲の良いお姉さんです。ところが、この頃の真姫は真青と一緒の時も楽しそうではありません。そんな真姫の関心事は、子ども向けのファッションブランド「トリコロール」で、真青もこっそりその専門店に行ってみます。殊に女の子の場合、4年生と6年生の違いは大きいですね。こういう、多分誰にも覚えのある感覚が細やかに描かれていて、ちょっと切ない、そしてさわやかな物語に仕上がっています。4年生にも6年生にも読んでほしいと思いました。(中学年以上向き、1300円+税)


『俳句ステップ!』(おおぎやなぎちか・作、イシヤマアズサ・絵、佼成出版社)

 「ホームランうったぞやった夏の空」これは3年生の裕太が作った俳句。「さる山のさるにとられた春ぼうし」は七実の作った俳句。七実は公園でたまたま出会った裕太のばあちゃんの薫子さんから、俳句を習っています。ところが、この七実の作った俳句が、他の子の名前で市の子ども部門の大賞に選ばれたのです。近年、俳句を題材にした児童書を時折見ますが、3年生は珍しい。そして、3年生ならではの思いが込められた五七五に感心しました。(中学年以上向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『おじいちゃんとの最後の旅』(ウルフ・スタルク作、キティ・クローザー絵、菱木晃子・訳、徳間書店)

 ウルフのおじいちゃんは、島で暮らしていましたが、おばあちゃんが亡くなり、一人暮らしに。ところが骨折のため、本土の病院に入院することになりました。ベッドでも傍若無人なおじいちゃんを、息子であるお父さんは見舞いに行きたがりませんが、ぼくはこっそりビールを届けたりしています。そんなおじいちゃんとウルフが立てた計画は、週末に家に来てもらうという口実で、実際には二人で島の家に向かうことでした。実は、余命の長くないおじいちゃんは、亡き妻の思い出の品で、どうしても手元に置きたかったものがあったのです。この計画には、「年上のいとこ」役が必要で、ウルフは近所のパン屋で働くアダムにそれを頼みます。
 作者はスウェーデンを代表する児童文学者で、これが遺作となりましたが、おじいちゃん、折り合いの悪い息子であるウルフの父、そして若者のアダムといった大人の登場人物のリアリティが作品の奥行きを支え、味わい深い物語となっています。(高学年以上向き、1700円+税)


『団地のコトリ』(八束澄子・作、ポプラ社)

 部活のバレーボールに熱中する美月。3年生になって顧問が変わり、ぐっとやる気が増しています。美月の父親は亡くなり、保育士である母親と団地の3階で暮らしていますが、下の階には柴田のじいちゃんが住んでいます。以前は団地の世話役として活躍していたじいちゃんでしたが、奥さんを亡くしてからは人が変わったように閉じこもっています。かわいがっているインコが窓から出て、下のじいちゃんの家の網戸に挟まってしまい、助けてもらったのですが、一人暮らしのはずのじいちゃんの家の中に、誰かいるような感じを受けます。実はじいちゃんは、複雑な事情がある若い母親と女の子を匿っていたのでした。
 物語は、部活や受験に忙しい美月をめぐって進行していくと共に、じいちゃんの家に隠れている女の子・陽菜をめぐる物語が重なっていきます。そして、美月が陽菜母子ととんでもない形で向き合わなければならない展開が待っていたのです。ずっしりと重い、しかし人間への信頼を感じずにはいられない、感動的な作品でした。(中学生以上向き、1400円+税)

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