2020年8月号 読んでみたい本


(2020/08/11)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『あめかっぱ』(むらかみさおり・作、偕成社)

 思わず「あまがっぱ」と読んでしまいましたが、「あめ」で、「かっぱ」に濁点はついていません。このタイトルを見ただけで「おもしろそう」と思えました。お出かけのお母さんと入れ違いに、なおちゃんの家にやってきた緑のかっぱ。「今日はピクニック日和」とおにぎりを作り始めます。最初は「雨なのに」としぶっていたなおちゃんもなんだか楽しくなり、雨の中を出かけます。やってきたのは林の中で、たくさんの子どもたちがそれぞれのかっぱと一緒に集まってくるのでした。シュールともいえる細密な絵と、絵の中の子どもたちの衒いのないワクワク感が見事に融合して、確かに「あめかっぱ」でした。(低学年以上向き、1300円+税)


『カメレオンのかきごおりや』(谷口智則・作、アリス館)

 今度はタイトルで中味が見当つきますが、最初の「ぼくは たびする かきごおりや」という一人称の文で、ちょっと意表をつかれました。カメレオンが世界中で集めた色とりどりのシロップ。元気のないサルには黄色の太陽かき氷、夏バテのシロクマには青い海風かき氷、というふうに、お客さんによってシロップの色を変え、喜ばせます。でも、「ぼくって いったい なにいろなんだい?」と自問するカメレオン。この、自ら行動し、考えるカメレオンが、「あなたは何色?」と、こちらに問いを投げかけてくるようでした。(低学年以上向き、1500円+税)


『せんそうがやってきた日』(ニコラ・デイビス作、レベッカ・コッブ絵、長友恵子・訳、すずき出版)

 8月ということで戦争に関わる絵本が何冊も出されましたが、これを選びました。でも、説明がとても難しい。いつものように両親に見送られて登校した〈わたし〉。学校のランチタイムのすぐ後に「戦争がやってきて」、町をがれきに変えてしまいます。野原や山を越え、「小屋がひしめきあっているところ」までたどり着いた〈わたし〉。しかし、通りを歩いても家々のドアは締められ、学校に〈わたし〉の椅子はないのです。これは、難民の子どもをモチーフにした絵本ですが、戦争が何よりも子どもの当たり前の日常を奪うものであることを、静かに告発しています。(低・中学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『区立あたまのてっぺん小学校』(間部香代・作、田中六大・絵、金の星社)

 二学期の始業式の日、寝坊してあわてて学校に行ったリョウ。頭の上がもぞもぞするので鏡を見て、びっくり。頭の上に小さな小さな教室(黒板や机)があり、先生や生徒たちがいるのです。他の子たちに見てもらうと、「区立あたまのてっぺん小学校」の看板があるといいます。区役所に行くと、他に適当な頭が見つかるまでそのままにして、と頼まれます。頭の上の先生や生徒たちとは話もでき、お昼になると給食を分けてもらいに降りてきます。ところが他のクラスの子から気持ち悪いと言われ、ちゃんと言い返せなかったことを悔やむリョウ。突飛な設定ながら、段々「そんなこともありそう」と思えてくるのが不思議です。(低学年以上向き、1200円+税)


『うちにカブトガニがやってきた!?』(石井里津子・文、松本麻希・絵、学研プラス)

 カブトガニは2億年前から形が変わらず、「生きた化石」と言われていますが、瀬戸内海から九州にかけて干潟で見ることができます。毎年夏休みに開かれる山口県の観察会に参加した著者の一家。下の子のハツがその魅力にはまり、3年生の夏にたまごを50個ほどもらい受けて、飼育を始めます。孵化の後、脱皮して成長していくカブトガニ。秋から冬にかけては泥の中で休眠します。ふた夏かけて、30匹ほどの幼生を育てたハツ。こんな体験をした小学生は珍しいでしょうが、カブトガニを「かぶこ」と呼ぶなど、大変さというより、楽しさが伝わってきます。子どもの視点と(著者である)大人の思いとがうまく重なり合ったハートフルなノンフィクションでした。(中学年以上向き、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『生きつづけるキキ―ひとつの『魔女の宅急便』論―』(斉藤洋・著、講談社)

 タイトルが示すように『魔女の宅急便』(角野栄子・著)の作品論なのですが、これを書いたのが『ルドルフとイッパイアッテナ』などの作者の斉藤洋さんということで、作家として『魔女の宅急便』のおもしろさのツボを解き明かす、といった内容です。創作の裏側というよりも、作品の中に埋め込まれた宝探しをするような楽しさがあります。角野ファン、斉藤ファンには欠かせない一冊ですが、アニメだけでまだ原作を読んでないという人も、本書と合わせて、ぜひ『魔女の宅急便』の本のほうも手に取ってみてください。 共に東京・下町生まれという、角野・斉藤対談も収録されています。(高学年から、1500円+税)


『完司さんの戦争』(越智典子・文、コルシカ絵・漫画、偕成社)

 聞き書きのノンフィクションで、著者が講師を務める英会話教室で出会った女性のお連れ合いが「完司さん」でした。ひょんなことから、その完司さんの若い頃の話を聞くことになり、それはまさに戦争の時代でした。十代の時に家を飛び出して満州にわたり、その後農作物の検査技師として働いた時代は、完司さんにとって実は「一番よかった時代」でした。そして召集を受け、完司さんが所属する部隊はグアムに送られます。しかし、満足な補給もないまま部隊は「玉砕」、実家には戦死の報せが届きます。しかし、完司さんは片足を失いながらも生きていました。そしてそれから一年ほども、ジャングルの中で生き延びたのです。終戦とともに捕虜となってアメリカに移された完司さんでしたが、そこでの待遇は思いの外いいものでした。従来の「戦争体験を語る」的な本とは一線を画す、証言者の肉声が聞こえてくるような一冊でした。(高学年以上向き、1600円+税)

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