2019年12月号 読んでみたい本


(2019/12/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

絵本

 

『おそろしいよる』(きむらゆういち・作、殿内真帆・絵、すずき出版)

 真夜中の部屋の中で、一人で本を読んでいたこぶた。突然電気が消えて、部屋の中に誰かがはいってくる。こぶた、危うし!と思ったところで……。という展開が繰り返され、意外などんでん返しが待ち受けます。『あらしのよるに』の作者の、これもスリルとユーモアに満ちた絵本です。(低学年以上向き、1400円+税)


『もし地球に植物がなかったら?』(きねふちなつみ・作、あすなろ書房)

 46億年前に生まれた地球に、初めての生命が誕生したのは、40億年前のことでした。海の中で長い時間をかけて成長した生命が、ようやく4億4千万年ぐらいまえに、コケの形で地上に現れます。さらに様々な植物として進化し、動物の進化を促したのです。この悠久の歩みが、屏風絵を思わせるような広がりを感じさせる絵で表現されています。カバーの折り返しに「壮大な生命のリレーが、この1冊に!」とありますが、この絵本自体が年齢を越えて読み継がれてほしい一冊でした。(中学年から、1500円+税)

 


低・中学年向け

 

『まじょのむすめ ワンナ・ビー』(竹下文子・作、種村有希子・絵、偕成社)

 魔法使いの父さんと魔女の母さんとの間に生まれたワンナ・ビー。幼い時から母さんのほうきに乗ったり、草花の知識を教わったりします。ところが、魔女の学校に入ったワンナ・ビーは、なぜか魔法の勉強が苦手だったのです。とうとう先生に見放され、普通の人間の学校に転校することに。ここでも一人でいることの多いワンナ・ビーでしたが、キャンプの夜に活躍の機会が訪れます。誰もが持っているかもしれない魔法の力。ワンナ・ビーに共感する子どもたちは多いに違いありません。(低・中学年向き、1300円+税)


『やまねこのこんにちは』(はせがわさとみ・作、あかね書房)

 森の奥の小さな家に引っ越してきたやまねこ。ご近所さんにあいさつに行こうと、はりきって出かけます。そこで森にすむ動物たちが、「あの家に越してきたのは、どんな子だろうね」とうわさしているのを耳にします。「おしゃれな子ならいいな」という言葉を聞いて、あわてて家に帰っていい服に着替えるやまねこ。そんなパターンが繰り返され、あいさつの支度はどんどんハードルが上がっていきます。ユーモラスな展開の中に、友だちを求めるやまねこの心情が、無理なく伝わってきます。(低・中学年向き、1200円+税)


『ハンカチともだち』(なかがわちひろ・作、アリス館)

  はるちゃんが朝学校に行く時に、あわてて引き出しから持ち出したハンカチ。見覚えのないそのハンカチには、ベッドで寝ている小人が描かれ、その小人が寝返りをうったように見えたのです。学校に行ってからも、ハンカチのことが気になってたまりません。時々ポケットから出して見てみると、小人は確かに動いています。ところが給食の時に牛乳が飛び散っても、ハンカチを使いたくないはるちゃんに、みんなの視線が注がれます。さて、そのはるちゃんと、誰がどんなふうに「ハンカチともだち」になったのか。ストーリーとしては、ちょっと外れてる子の発見物語ということになるのでしょうが、文と絵の独特のコラボの作品世界が、そうしたテーマ性をふんわりと包んで、読者に届けられています。(低・中学年向き、1400円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『きつねの橋』(久保田香里・作、佐竹美保・絵、偕成社)

 舞台は、武士が勃興しつつある平安時代の京都。主人公の平貞道は元服をすませたばかりの若武者ですが、家の期待を担って京に上り、源頼光の郎党となります。雑用ばかりの日々でしたが、都の入口辺りの橋に、きれいな女に化けたきつねが現れ、わるさをするという噂を聞き、力を見せる機会だとその橋に出かけます。一度は失敗した貞道でしたが、二度目に見事生け捕りにします。しかし、このきつねを逃がしてやったことで、貞道の運は開けていきます。頼光を始め、大盗賊の袴垂、少年時代の藤原道長など豪華な顔ぶれも楽しめますが、時代小説と歴史ファンタジー双方のテイストを味わえる作品に仕上がっています。(高学年以上向き、1400円+税)


『今、空に翼広げて』(山本悦子・作、講談社)

 双葉町3班の通学班。6年の里奈とブラジル人パウロが班長・副班長。あとは5年生の真紀、4年の圭太、2年のティアラ(純日本人)、1年の翼という顔ぶれです。10章から成り、語り手は交替しますが、真紀が語る章が、最初と最後を含め5章。つまり、真紀視点の物語の中に、他の子たちの「証言」が挟み込まれる構成になっています。真紀の目の前を歩く翼は落ち着きがなく、翼の世話を焼くのが、いつのまにか真紀の役割になっています。翼の母親は姉かと思えるほど若く、大おばあちゃんとの三人暮らしです。台風で集団下校になった日、翼の家が留守で真紀が自分の家に連れてきたことをきっかけに、翼の家の事情や、そのことを真紀の母親がどんなふうに見ていたかが、次第にあぶりだされていきます。これと並行して、真紀と同じマンションに住む圭太の家の事情、両親が再婚同士で、父親の連れ子である高校生のお兄ちゃんが一人暮らしを始めた背景なども徐々に明かされていきます。それぞれに懸命に生きながらも、どこかで思いがすれ違ったり、誤解が生まれたりする、6人のメンバー、あるいはそれぞれの家族、そして家族同士、さらには6人がいるクラスの中での人間関係。語り手の交替で視点が重なっていくだけでなく、作品世界の枠組みが立体的というか、縦横に重ねられて、不思議な感動が呼び覚まされます。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)

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