2018年12月号 読んでみたい本


(2018/12/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 子どもの本にも季節があって、クリスマスや冬休みを前にしたこの時期は、新刊の発行がもっとも多くなります。それだけに、紹介したい本がたくさんあって困りました。

絵本

 

『やきいもやゴンラ』(ながいいくこ・作、くすはら順子・文、ポプラ社)

 大草原のど真ん中にある「ゴンラのやきいもや」。あまりの評判に、毎日やきいもを求める動物たちの行列ができるのですが、簡単には買えません。なにしろゴンラのやきいも作りは手がかかるのです。待っている間の動物たちの様子、ゴンラのおいしいやきいもへのこだわり……、一つひとつの場面が楽しめて、この絵本を見たら、絶対にやきいもが食べたくなるでしょう。(低学年から、1300円+税)


『キツネのはじめてのふゆ』(マリオン・デー・バウアー作、リチャード・ジョーンズ・絵、横山和江・訳、すずき出版)

 森に雪が舞い始め、初めての冬を迎えようとしている一ぴきのキツネ。さなぎになる毛虫、渡りをするガン、冬眠につくクマなど、森の動物たちに冬の過ごし方を聞いて回りますが、どれもぴったりきません。そして、キツネが見つけたのは……。絵本の王道のような展開で、新しい一歩を踏み出そうとするキツネの姿が心に刻まれます。(低・中学年向き、1500円+税)


『まめつぶこぞう パトゥフェ』(宇野和美・文、ささめやゆき・絵、BL出版)

 スペイン・カタルーニャの昔話の絵本。おひゃくしょうさんの子どものパトゥフェは、体が豆粒ほどしかありません。それでも自分より大きいお金を持ってお使いにいったり、とても元気です。今度はお弁当を届けに出かけましたが、キャベツと一緒に牛に飲み込まれてしまいます。スペイン版一寸法師というところですが、大きくなったり、鬼をやっつけたりはしません。ユーモアたっぷりの世界を、ささめやさんの絵が見事に表現しています。(低・中学年向き、1600円+税)

 


中学年向け

 

『こごろうくんと消えた時間』(林原玉枝・作、高垣真理・絵、冨山房インターナショナル)

 作者の林原さんは、光村国語教科書の3年生掲載の「きつつきの商売」の作者で、これも動物たちの物語ですが、少し持ち味が違います。イタチのこごろうくんはもちろん明智小五郎の動物バージョンで、「なんでもおなやみそうだんしょ」を開設しています。そこに届いた暗号の手紙。こごろうくんは難なく解読し、タヌキの王様からの手紙と知って、お城に出向きます。果たして、王様の相談とは? ユーモラスな展開の中から、ちょっと今の子どもたちにも似た王様の悩みが浮かび上がります。(中学年向き、1600円+税)


『ユンボのいる朝』(麦野圭・作、大野八生・絵、文溪堂)

 ユンボというのは、ショベルカーのこと。マンションの7階に住む幹が、近くのビルの屋上にあるのを見つけます。そのことをお父さんに言うと、ビルを壊すためと教えてくれます。お父さんは、仕事の大変さに「心がつかれてしまって」会社も休みがちです。幹も同じクラスの子から、万引きを迫られる悩みを抱えています。そんな折、あのユンボを運転する博巳さんと知り合い、口をきくようになります。次第に低くなっていくビル、ベランダで育っていくミニトマトのことなど、それぞれの光景が重なりつつ幹の心の成長の物語に収束されていき、心に迫ってくる、なかなかに文学的な味わいの作品でした。(中・高学年向き、1300円+税)

 


高学年・中学生以上向き

 

『右手にミミズク』(蓼内明子・作、nakaban・絵、フレーベル館)

 6年生のタケルには、秘密がありました。未だに右と左の区別がつかないのです。あるできごとのために友だちには告白しますが、それを聞いていたらしい実里に、「覚えられないんなら、書くしかないと思う」と、手のひらに「右」「左」と書かれてしまいます。実里は6年生になって転校してきた子で、他の女の子たちとはあまりなじんでいません。これをきっかけに実里と話をするようになったタケルは、実里が漫画を描いていること、家族の問題を抱えているらしいことを知っていきます。そして、「右」の代わりにミミズクの絵を描いてもらうようになったタケルは、段々左右の区別がつくようになっていき、運動会の旗作りなどを通じて、実里もクラスに溶け込んでいきます。実里の家族の問題も含め、結構重い題材でもあるのですが、登場人物たちのキャラクターの故か、さわやかな読後感でした。(高学年以上向き、1400円+税)


『マレスケの虹』(森川成美・作、小峰書店)

 舞台は、太平洋戦争開戦前のハワイ。主人公のマレスケは14歳で、日系一世で小さな雑貨店を営むじいちゃんと、姉、兄との4人家族です。父親は5年前に亡くなり、母親は日本に帰ってしまっています。マレスケの名は、日露戦争の将軍乃木希典にちなんだもので、じいちゃんが名付けました。現地の公立学校に通う傍ら、マレスケは日本語学校にも通わされ、剣道部に所属しています。日系人の間では、日本がアメリカとは戦争はしないだろうという見方が支配的ですが、新しくやってきた日本語学校の校長は大和魂を強調します。そして、ついに開戦。真珠湾攻撃はハワイの日系人に対してこそ、不意打ちでした。日系人の中に動揺が広がる中、兄のヒロキは日系人部隊へ志願していきます。

 児童文学で戦争を描く場合、70余年の時間をどう乗り越えるかということが、大人の文学以上に難問なわけですが、ハワイ・日本・アメリカという関係性の中で自らのアイデンティティーを模索するマレスケの姿は、意外に今の子どもたちにとって他人事ではないように思え、これは児童文学でこそ書かれるべき作品だと納得しました。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)

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