2015年夏季号 読んでみたい本


(2015/07/13)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 学期末も間近になりましたが、全国には、岩手県花巻市の宮沢賢治記念館、愛知県半田市の新美南吉記念館を始めとする記念文学館、また長野県の黒姫童話館、富山県射水市の大島絵本館など、特色ある文学館、絵本館がたくさんあります。夏休みはこうした所を訪ねてみるいいチャンスです。加えて近年は、児童文学の専門館ではない所でも、夏休みの時期に子どもの本に関わる特別展を開催するケースが増えています。今年の予定でいうと、横浜の港の見える丘公園にある神奈川近代文学館では『100万回生きたねこ』の佐野洋子展、鎌倉文学館では『ルドルフとイッパイアッテナ』などで知られる斉藤洋展、そして東京・世田谷文学館では『おとうさんはウルトラマン』などのシリーズで親しまれている絵本作家の宮西達也展など目白押しです。常設の国際子ども図書館(上野公園内)も含めて、首都圏の方はもとより、研修や旅行で東京に出かけられた際に、こうした文学館をのぞかれてみてはいかがでしょうか。

  


  

 さて、いつもは絵本の紹介から始めるのですが、今回取り上げる絵本は対象年齢の幅が大きいので、読み物と一緒にグレード別に分けます。まずは低学年向けの読み物と絵本です。

 1年生も、1学期を経て、自分の入学体験を様々に振り返られるようになっていると思います。まずは、そんな1年生たちにぴったりの2冊です。

  

『チョコちゃん』(椰月美智子・作、またよし・絵、そうえん社)
 チョコちゃんは本当は「ちよこ」で、ひいひいおばあちゃんからもらった名前です。クラスで一番背が低いので、朝礼の時も一番前。そんな時、大きくなった自分、巨人になった自分を想像します。学校ははるか目の下にあり、空に浮かぶ雲の綿菓子をみんなにプレゼント……というように、チョコちゃんの想像の世界がどんどんふくらんでいきます。これまで主に思春期の少女の世界を描いてきた作者の、初めての幼年童話。教室でみんなで読むのにぴったりの感じです。(低学年向き、1200円+税)


『セイルといっしょ 星空ぎゅいーん』(長崎夏海・作、小倉まさみ・絵、新日本出版社)
 こちらも1年生のお話ですが、正確にいえば入学式一週間前のちょっとした〈冒険〉の物語。昼までパジャマでだらだらしていて、姉さんに「そんなんじゃ学校に入れてもらえないよ」と言われたあさひ。着替えて、ランドセルを初めて袋から出して背負ってみます。そのランドセルにあさひが密かにつけた名前が「セイル」。セイルと一緒に外に出てみると、桜の花びらが降ってきます。入学を控えたドキドキ感をもう一度思い出せそうです。(低学年向き、1300円+税)


『おばあちゃんがおばあちゃんになった日』(長野ヒデ子・作、童心社)
 近頃は電車の中でも公園でも、お母さん以上にお母さんらしい(?)おばあちゃんの姿をよく見かけますが、そんなおばあちゃんたちの姿を描いた絵本。元気な父方のおばあちゃん、おしゃれな母方のおばあちゃん始め、いろんなおばあちゃんが登場します。既刊の『おかあさんがおかあさんになった日』『おとうさんがおとうさんになった日』にも増して、遊び心いっぱいの楽しい絵本です。(低学年以上向き、1300円+税)


『やぎのしずかのしんみりしたいちにち』(田島征三作、偕成社)
 第1作の『やぎのしずか』が出版されたのが1975年ですから、今年で40年、シリーズ9作目の絵本です。この独特な作品世界をストーリーで説明するのは難しいのですが、川に水を飲みにやってきたしずかに、ナマズが「しんみりするうたをうたってあげよう」といいますが、あぶくの音だけでよくわかりません。代わりに聞こえてきたセミの声ですが、そのセミも木から落ちて、アリたちに運ばれていきます。開きかけた花をパクリと食べたしずかは、咲くことのできなかった花を思います。哲学するしずかの世界が、じわじわと胸に沁みてきます。(低学年以上向き、1300円+税) 



  

 次は、中から高学年向き。

  

『あまーいおかしにご妖怪?』(廣田衣世・作、佐藤真紀子・絵、あかね書房)
 八太郎は、山陰地方で200年以上続く和菓子屋の8代目。4年生ながら、毎日のように和菓子作りの下準備や配達に駆り出されます。「いいものは手間ひまかけにゃ」が口癖な父ちゃんに、マイペースのじいちゃんは「あともう一つ」と謎めいたことをいいながら、どんなに忙しい時でも仕事場のお浄めを欠かしません。配達先で不思議なものに助けられた夜、工房から聞こえてくる音に起き出した八太郎は、200年前からここを守っているという小豆とぎに出会います。おなじみの妖怪たちが続々と登場して、老舗の家に生まれた八太郎の背中を押してくれます。(中・高学年向き、1100円+税)

  


『フラフラデイズ』(森川成美・作、つじむらあゆこ・絵、文研出版)
 フラダンスに凝っている雅のおばあちゃん。それが高じてグループでハワイのフェスティバルに参加することに決まります。ちょうど春休みだったので、仕事で忙しい両親から、雅も同行したらと勧められます。渋る雅でしたが、結局ハワイに向かうことに。ところがリハーサル会場から宿舎に戻ろうとした時、手違いで別の迎えの車に乗ってしまいます。その車が迎えに来たのも、同じ「マサ・タカータ」だったのです。もう一人のマサは、日系5世の子で、雅はそこから日本とハワイの歴史的なつながりに目を開かされることになります。冒険物語のテイストも感じさせつつ、日本の近代史の一側面を学ばせてくれる物語です。(中・高学年向き、1300円+税)

  


『かき氷 天然氷をつくる』(細島雅代・写真、伊地知英信・文、岩崎書店)
 これからかき氷の季節ですが、天然氷を作る氷屋さんは、今では全国でも数軒。そのうちの一軒が埼玉県の長瀞(ながとろ)にあります。11月、広い氷池に水を引きこみ、そこから自然との格闘が始まります。気温が0度以下になれば氷は毎日5ミリずつ成長し、0度を超えると5ミリずつ融けてしまいます。また氷の上に雪が降ると氷は白く、柔らかくなります。そのタイミングを計りながら、切り出しの日を決めるのです。  20年に及ぶ取材から選ばれた写真が、天然氷の魅力とその仕事の大変さを、余すところなく伝えてくれます。(中学年以上向き、1600円+税)



  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

  

『風のヒルクライム ぼくらの自転車ロードレース』 (加部鈴子・作、小林系・装画、岩崎書店)
 中学1年生の涼太は、誕生日に父親からロードバイクを贈られます。医師である父は仕事で病院の寮に泊まることが多く、涼太とはほとんど会話もありません。その父の唯一の趣味がロードバイクなのですが、涼太はそんな父の一方的なやり方に反発を覚えます。しかし、成り行きで父と一緒に山登りのロードレースに出場することになります。ということで、第1章は山内涼太の物語。そして第2章は、やはり父親とロードレースに出ている中学生・近藤あゆの物語になります。あゆは、かつて涼太の父の患者だったのです。というふうに、物語はオムニバス風に展開し、最後に再び涼太の物語となります。父と子という関係性を軸にしながら、ロードレースから浮かび上がるそれぞれの人間像に心を打たれます。(高学年・中学生向き、1300円+税)


『野馬追の少年、震災をこえて』 (井上こみち・著、PHP研究所)
 南相馬市の6年生だった西駿斗君の家は、古くから伝わる「相馬野馬追」の中心的な役柄を務め、駿斗君も祖父や父と共に、幼いころから武者姿で行列に参加してきました。しかし、毎年7月に開かれてきたこの行事も、原発事故で中止となりました。これは西家にとってはもちろん、この地方の人たちにとって本当につらいことでした。こうした事態の中で、それまで必ずしも野馬追に積極的ではなかった駿斗君の意識が変わっていきます。駿斗君のその後や、放棄された飼育動物を助ける被災地の取り組みを通して、かけがえのない日常を奪われた人たちの歩みがずっしりと伝わってきます。(高学年・中学生以上向き、1400円+税)


『絵本で学ぶイスラームの暮らし』 (松原直美・文、佐竹美保・絵、徳間書店)
 国内でも時折頭にスカーフを巻いたイスラム圏の女性の姿をみかけるようになりましたが、まだまだわたしたちには未知の国々でしょう。一方でニュースでは、テロや紛争など、暗い話題と結びついて紹介されることの多いイスラムの国々。この絵本では、アラビア半島のドバイに住む10歳の少年アフマドの日々を追いながら、イスラムの人々の生活を紹介していきます。どんな時に民族衣装を着けるのか、父親と一緒のモスクでの祈り、姉さんのアーイシャの勉強ぶり、そしてアフマドが初めて本格的に挑戦する断食のことなど、独特ではあるけれど、そこに流れる家族への思いなどは、わたしたちと変らないことを感じさせてくれます。イスラム理解への入口として、貴重な1冊だと思いました。(高学年・中学生以上向き、1200円+税)


『ひかりあつめて―ことばの力でいじめを超える!』 (杉本深由起・詩、小学館)
 詩集というか、詩で組み立てられた物語というか、全体が4章、39編の詩から構成されています。主人公というか詩の語り手ともいうべき中学生の「わたし」が、親の離婚による引っ越しで、新しい学校に転校してきたところから始まります。詩なので紹介が難しいのですが、後書きの「詩は、視点を変えなければつくれません。視点をちょっと横にずらしたり、ガラリと反転させたりして、いつもなんとか生きのびてきたように思います」という言葉が、この詩集のありようをよく示しているように思います。一人ではもちろん、何人かで読み合いたい詩集でした。(中学生以上向き、1400円+税)


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