2015年新学期号 読んでみたい本


(2015/04/13)印刷する

 新聞やテレビのニュースでご覧になった方も多くいらっしゃると思いますが、2月28日に松谷みよ子さんが亡くなりました。『龍の子太郎』『ちいさいモモちゃん』、絵本『いないいないばあ』、『やまんばのにしき』などの民話、『ふたりのイーダ』を始めとする戦争と平和を考える連作など、幅広く読み継がれてきました。松谷さんが編集責任の「怪談レストラン」シリーズに親しんだ子どもたちも多いでしょう。いろいろな席でお話をする機会がありましたが、幼女から少女、大人の女性からおばあちゃんに至るまで様々な顔を持ち、それらが反射し合ってキラキラ光るような魅力的な方でした。その生い立ちから作家になるまでを描いた自伝が『じょうちゃん』(朝日新聞社、2007年)で、弁護士で無産政党の代議士でもあった父親のもとで育った幼少時代、父の死によって大きく生活が変わる中で戦時下となり、結核の病を得て療養を余儀なくされるなど、89年にわわたるその生涯もなかなかにドラマチックでした。




 さて、ここからはジャンル、グレード別に。最初は絵本です。
『ぼくがすきなこと』
(中川ひろたか・文、山村浩二・絵、ハッピーオウル社)

 たくさんの楽しい絵本で親しまれている中川さんですが、これはちょっと雰囲気が違っていました。見開きごとに「ぼくがすきなこと」が紹介されるのですが、最初は「むらさきいろにみえるしゅんかんのあさやけ」と、なかなか渋い。屋根から落ちる雨を空き缶で受ける音とか、線路と線路が交わっているところとか、言われると「うん、そうそう」とうなずきたくなります。自分にしかわからないかもしれないけれど、それを「好きだ」といえる快感または勇気。そこから子どもたちの共感が広がるのではないでしょうか(低学年以上向き、1300円+税)

『そらからみると』
(みねおみつ作・絵、PHP研究所)

 最初の場面は島の学校の校庭。ここにあるいちょうの木の葉っぱが風で高く舞い上がります。「空から見ると、なにがみえるのかな」と思っていた葉っぱは、海を越え、やがて大きな町の上空にやってきます。伊豆諸島から東京が舞台なのですが、帯に「ちみつな鳥瞰絵図にびっくり!」とあるように、次々に現れる下界の画面がとてもリアルで、まるで自分も空から眺めているような気分になれました。(低学年以上向き、1300円+税)

『ウルトラマンをつくったひとたち』
(いいづかさだお他・作、偕成社)

 半世紀近くにわたって、日本の子どもたちを(いや、大人たちも)楽しませてきたウルトラマン。ウルトラマンに関わった人たちの大人向けの本はこれまでもいくつかありましたが、子ども向けにその舞台裏を紹介した絵本というのは、これが初めてではないでしょうか。著者の飯塚定雄さんは、円谷監督のもとで作画技師としてスペシウム光線などを考案された方と聞けば、かつての子どもたちも手に取ってみたくなるのではないでしょうか。(子どもから大人まで、1600円+税)

『鳥よめ』
(あまんきみこ作、山内ふじ江・絵、ポプラ社)

 戦時中、岬の灯台を一人で守る若者。その若者に助けられたかもめが、人間の娘となってやってきます。求婚された娘は、「1日に1回誰も見ていないところで鳥に戻って、空を飛ぶ」という掟を告げ、二人は幸せに暮らし始めます。ところが、この灯台にも兵隊が常駐することになり、娘は鳥に戻ることができにくくなります。掟を守らなければ娘は生きていくことができないのです。 民話のモチーフを巧みに生かしながら、生命や愛とは相容れない戦争の悲劇を、「ちいちゃんのかげおくり」の作者がじっくりと描き出しました。(高学年以上向き、1300円+税)



 次は、低、中学年向きの読み物です。
『たまごさんがころんだ!』
(戸田和代・作、西巻かな・絵、佼成出版社)

 童話ではいろんなものが主人公になりますが、これは冷蔵庫の中のたまごたちのお話です。同じ冷蔵庫仲間のイチゴジャムさんやあじのひらきさんから、ここの家のお母さんは料理下手、目玉焼きしか作れず、それも真っ黒焦げと聞き、逃げ出そうと相談を始めます。動くための呪文は、キッチンに置かれただるまさんから聞いた「たまごさんがころんだ」でした。 一人で読むのも、教室でみんなで読むのも楽しそうです。(低学年向き、1200円+税)

『いつでもしろくま』
(斉藤洋・作、高畠純・絵、小峰書店)

 しろくまの兄弟が宅配の配達で活躍するこのシリーズ。旧作の『しろくまだって』『やっぱりしろくま』の新装版刊行と共に、久しぶりの新作『いつでもしろくま』が出されました。マルクとカールの兄弟が、山を出て人間の世界で働いているという設定。他の人たちはぬいぐるみを着ていると思いこんでいて、その秘密を知るのは宅配会社の支店長だけ。ボケ役の兄マルクと、しっかり者の弟カールのかけあいも絶妙で、今回はスキーで遭難した女の子を探しながら、誕生日プレゼントを届ける二人の活躍が描かれます。(中学年以上向き、1300円+税)

『四年変組』
(季巳明代・作、こみねゆら絵、フレーベル館)

 変わり者が多い二組の子どもたち。異色なのはまず担任の寺山先生で、有名ピアニストの座を投げ打って教師になったという変わり種。  全6話のうち、男の子の話はお笑い芸人を父に持つ幸太が主人公の第4話だけで、他は女の子たちの話。第1話の勇気は、明るい太めの女の子で「関取」と呼ばれています。実はお医者さんである父親の再婚相手が有名タレントで、それをみんなに隠している―というように、「少女小説」風な展開の中で、思春期というにはまだ早い、一方で友だちや大人たちの思惑を意識して心を揺らす、まさに「四年生」の少女たちの世界が描かれます。(中学年以上向き、1200円+税)    



 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。
『かぐや姫のおとうと』
(広瀬寿子・作、丹地陽子・絵、国土社)

 タイトルからは「時代物」という印象を受けますが、小学校を卒業した春休み中の「ぼく=想」を語り手とした現代の物語。父親が去年亡くなり、想は母親と二人の姉と暮しています。竹の工房を営むおじさんを訪ねた折、想はおじさんの弟子だという不思議な少年と出会います。「いささ丸」と名乗る彼が聞かせてくれる身の上話は、かぐや姫の物語そのものなのです。幼い時に竹取の翁に引き取られた彼は、光る竹から女の子を見つけ、妹のようにかわいがるのですが、成長の早いその子は、やがて姉のような存在になったというのです。何度かにわたって話を聞いていくうち、想にはそれが作り話とは思えなくなっていきます。そして、いささ丸の物語に想の姉たちもからんできて、時空を越えた運命の糸をたぐるような展開になっていきます。いろいろな受けとめ方のできる、不思議に魅力的なストーリーでした。(高学年以上向き、1300円+税)

『1時間の物語』
(日本児童文学者協会・編、黒須高嶺・絵、偕成社)

 時間は毎日を律してくれますが、わたしたちを縛るものでもあります。本書はそうした時間を題材にした「タイムストーリー」シリーズ(全5巻)の一冊で、この他「5分間」「1日」「3日間」「1週間」の物語というラインナップ。第2巻の本書は、中学校のマラソン大会で1時間以内に走ることを余儀なくされた悠馬の奮闘を描いた「その先にあるもの」(まはら三桃)など、5人の作者の競作です。最後に置かれた「ぼくは脱出できたのか?」(山本弘)は、テレビで時折見る脱出ゲームが題材。七人の勇者が、モンスターの追及を逃れ、1時間以内にスタート地点に戻らなければなりません。最後に残った主人公、あと一歩のところで絶体絶命のピンチを迎えますが……。テレビ番組の裏側を見るような臨場感とスリルが楽しめます。(高学年・中学生向き、1200円+税)

『あまねく神竜住まう国』
(荻原規子・作、徳間書店)

 荻原規子のファン待望の歴史ファンタジーです。第1作の『空色勾玉』以降、徐々に時代を下っていますが、本作の背景は平安末期で、主人公は源頼朝。つまり、伊豆に流された頼朝の不遇時代が描かれ、北条政子はまだ幼い少女としてチラッと登場します。代わって重要な役柄を担うのは、前作『風神秘抄』で活躍した草十郎と糸世。しかし、これまでの作品を読んでいなくてもまったく不都合はなく、むしろファンタジーは苦手だが歴史は好きという読者なら、これまで以上に作品世界に入りやすいのではないでしょうか。ともすれば冷静沈着で面白みのないキャラクターとして造形されることの多い頼朝の、悩み多き若き日、呪われた運命という自己意識から放たれていくそのプロセスは、なかなかに新鮮でもありました。(中学生以上向き、1600円+税)

『東京大空襲をくぐりぬけて 中村高等女学校執務日誌』
(中村学園・編著、銀の鈴社)

 最後に紹介するのは、この3月10日にNHKニュースでも紹介されましたが、戦時中の女学校の執務日誌を収録した本書。大学ノート2冊に記された執務日誌の始まりは、昭和20年3月9日。この日の深夜から10日の未明、東京大空襲の惨劇が訪れます。深川の地にあった中村高女は、校舎は全焼、焼死した生徒の正確な数は把握できずという状況でした。この日から敗戦後の昭和22年9月までの約600日、日直教員による淡々とした記述の向こうに、先生や生徒たちの嘆き、そしてなんとか学校を再建しようという思いの強さが浮かび上がります。併せて、当時の生徒による座談会、現在の先生たちによる解説なども懇切で、中高生にも、そして先生方にとっても、受け取るものの多い一冊だと思います。(中学生以上向き、1800円+税)


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