2014年秋季号


(2014/10/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 この夏から秋にかけて新聞各紙に追悼記事が出ていましたが、6月に古田足日さんが亡くなりました。田畑精一さんとの共作絵本『おしいれのぼうけん』(童心社)が代表作で、今年で40年というロングセラーです。その他にも『宿題ひきうけ株式会社』『モグラ原っぱのなかまたち』『大きい1年生と小さな2年生』『ロボット・カミイ』などがあり、多くの作品で親しまれたきました。
 古田さんは、評論家としても活躍され、長きにわたり、日本の児童文学のオピニオンリーダー的な存在でした。実は筆者も、学生時代に『宿題ひきうけ株式会社』と評論集『児童文学の旗』を読み、大いに影響を受けて児童文学を志すようになりました。子どもたちの人権や平和の問題にも積極的に発言し続けてきた古田さん、なにか、一つの時代が終わったという感慨があります。
 さて、私事にわたって恐縮ですが、今秋、僕の出身地である秋田で、国民文化祭が開催されます。この中で、10月26日、秋田市の県児童文化会館で、「ホント一緒に~読書は人生の羅針盤~」をテーマに、「語りのコンサート」が開催され、午後のプログラムでは、「14ひきのねずみ」のシリーズでおなじみの絵本作家いわむらかずおさんの講演、そしていわむらさん、武蔵野大学教授の宮川健郎さんと僕と3人によるフォーラムを行います。秋田の方はもちろん、近県の方もご関心のある方はぜひお出かけください。

  


  

 さて、ここからはまたグレード別に、作品を紹介していきます。まずは、絵本が3冊。

  

『ぬいぐるみおとまりかい』(風木一人作、岡田千晶・絵、岩崎書店)
 常に「図書館の人気イベントが絵本になりました!」とありますが、教室の子どもたちの中にも経験者がいるのではないでしょうか。自分のお気に入りのぬいぐるみと一緒に図書館に行き、そこでお話会などを楽しんだ後、ぬいぐるみを寝かしつけて帰り、翌朝迎えに行くというものです。この絵本では、その「秘密」の夜の時間のことが描かれます。この絵本を通じて、子どもたちにとって図書館という存在が、ぐっと身近になるのではないでしょうか。(低学年向き、1300円+税)


『うそ』(中川ひろたか・作、ミロコマチコ・絵、金の星社)
 こちらの帯には、「ひとはなんでうそをつくんだろ?」「はじめてのテツガク絵本」とあります。わたしたちはなぜうそをついてしまうのか。本当にどんな時でもうそはいけないことなのか……、これはなかなか難問です。この絵本では、お母さんが年をごまかしていたという軽め?のうそから始まって、嫌いな食べ物が出てきた時おなかが痛いといってごまかしたことや、テレビドラマの演技はうそなのかということや、物語に出てくるうそなど、さまざまな場面、レベルの「うそ」について考察されます。読んだ後に考えたり、話し合ったりするのにぴったりだと思いました。(低学年以上向き、1300円+税)


『どうぶつえんのみんなの1日』(福田豊文・写真、なかのひろみ・文、アリス館)
 動物園にはさまざまな動物がいて、生態も食べ物もさまざまです。この絵本では、ジャイアントパンダなど12種類の動物たちの「1日」の様子が紹介されます。パンダは1日24時間の内食事に8時間、寝たり休んだりが14時間余り、動いていたのは1時間40分ほどということ。またパンダ以上にほとんど動かないことで知られる鳥ハシビロコウは、水中の魚を捕まえる時には目にも止まらぬ早業になります。動物たちの生態の多様性、そして飼育の大変さ、細やかさが実感できる絵本です。(低学年以上向き、1600円+税)

  


  

 ここからは、低、中学年向きの読み物です。

  

『おはなし きょうしつ』(さいとうしのぶ作・絵、PHP研究所)
 教室の中にあるさまざまなものたち。見開きごとに主人公が替って、全部で30。1番目はえんぴつの話で、えんぴつの世界では、一番背が高いのが赤ちゃんで、一番小さいのが長老です。3番目はものさしの話で、なんでも正確に測れるものさしも、測れないものがただ一つ。それは、自分自身でした-というふうに、文房具に始まり、時計や黒板、ぞうきん、体操服と給食服など、どの話も本当にそのものたちが語っているような楽しさがあります。(低学年向き、1200円+税)


『りんごの花がさいていた』(森山京・作、篠崎三朗・絵、講談社)
 1人で暮らしていたおばあさんが亡くなり、3人の息子たちに知らせが届きます。1番目の息子のイチロは家族を連れて、この家に引っ越してきます。2番目のジロは、残されたやぎとにわとりをもらって、帰っていきます。最後にやってきたサブロは遠い町の工場で働いていましたが、葬式に間に合わず、母親が愛用していた古い木のいすをもらって、かついで帰ります。説話風の展開で、末息子が最後に幸せを手にする結末はお約束ではありつつ、人間の生き方について考えさせます。この作者の作品は文章が端正で、読み聞かせにも適していると思います。(低学年以上向き、1100円+税)


『漢字だいぼうけん』(宮下すずか・作、にしむらあつこ・絵、偕成社)
 この作者はデビュー作の『ひらがなだいぼうけん』に始まって、文字たちが登場人物というユニークな世界を描いていますが、今度は漢字をめぐる物語。3年生のすうくんが主人公で、3話からなっています。第1話では、おじいちゃんおばあちゃんが日光土産に買ってきた、木彫りの3びきのサルのことが話題となります。「見ざる聞かざる言わざる」の名の由来を聞くうちに、すうくんは、「見」という漢字の中に目が、「聞」の中に「耳」が、そして「言」の字の中に「口」が隠れていることに気がつきます。無理のない展開の中で、漢字についての楽しい発見が散りばめられていることに感心してしまいます。(中学年以上向き、1000円+税)

  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

  

『あたしたちのサバイバル教室』(高橋桐矢・作、283・絵、ポプラ社ポケット文庫)
 5年生の途中から学校に行けなくなった未来は、携帯のサイトで見つけた「小学生夏期特別アシストクラス」に通い始めます。10人の6年生が集まったクラスに現れた真名子(まなこ・男性)先生は、「学校という戦場でしぶとく生きぬくための、究極のサバイバル術を教えてやる」と宣言、いじめっ子にまぬけなあだ名をつける「あだ名作戦」など、珍妙な作戦を次々に伝授します。自身を守るために被らざるをえなかった心の殻と向き合っていく未来。子どもたちへの型破りな応援歌ともいうべき一冊です。(高学年向き、650円+税)


『風船教室』(吉野万里子・作、げみ・画、金の星社)
 6年生になったばかりの時生は、突然父親から転校を告げられます。研究者の父親と二人暮らしの時生でしたが、なぜか幼いときに亡くなった母の実家に引っ越すというのです。新しい学校は全校で17人という小規模校。しかしそれ以上に時生を戸惑わせたのは、一人一人に色の違う風船が渡されて、教室の中に17の風船が浮かんでいることでした。自分のピンクの風船が、いつのまにか家の近くまで来ていたりすることを怪しんだ時生は、他の2人の6年生と一緒に、風船の謎を探り始めます。ミステリーやファンタジーの要素を盛り込みながら、友だちや家族への思いに迫る、とても不思議な味わいの作品でした。(高学年以上向き、1200円+税)


『「赤毛のアン」と花子 翻訳家・村岡花子の物語』(村岡恵理・著、学研教育出版)
 この9月までNHKの朝ドラで放映されていた「赤毛のアン」の原作の子ども版です。テレビでは生家の貧窮ぶりがやや強調させられ過ぎの感もありましたが、裕福なお嬢様たちにまじって学費免除で東洋英和に学んだ村岡花子のがんばりは、孤児という境遇から教師への道に進むアン・シャーリーと、不思議に重なります。そして、元の本も日本での翻訳も、なかなか出版されずに原稿が眠っていたということも共通しています。村岡花子の生涯を通じて、日本の近代の女性たちのありようや、仕事にかける思いの強さを感じとってもらえれば、と思います。(高学年以上向き、1300円+税)


『北加伊道 松浦武四郎のエゾ地探検』(関屋敏隆・文と型染版画、ポプラ社)
 タイトルは「ほっかいどう」と読みます。これを名付けたのは、幕末の探検家・松浦武四郎で、「カイ」はアイヌ語で「この国に生まれたもの」の意味。それに敬称の「ナー」をつけた「カイナー」がなまって「アイノー」(アイヌ)になりました。
 北海道や樺太などを6回にわたって探検、道内のほとんどの地域を踏査した武四郎は、アイヌの人々の生き方に触れ、それを今日に伝える貴重な記録をたくさん残しました。自身、学生時代に北海道を一周して「旅日記絵巻」を作ったという作者が、独特の版画で、武四郎の探検とアイヌの人たちの暮し、そして当時の時代状況を再現しています。絵本というより、まさに絵巻と呼びたい重量感を備えています。(中学生以上向き、1600円+税)


『戦争するってどんなこと?』(C・ダグラス・ラミス著、平凡社)
 著者は、アメリカ海兵隊に3年間従事し、最後の任地が沖縄だったことが契機となり、除隊後日本に残り、大学教員などを経て、現在は沖縄に移住という経歴の持ち主。本書は問答形式になっていて、第1章の「日本は戦争できないの?」から第6章「軍事力で国は守れないの?」まで、まさに核心を衝いた質問が並びます。
 戦争はいやだけれども、やはり軍事力の行使はある程度やむをえないのではないか、といったわたしたち日本人が抱えている“もやもや”に対して、実に明快な回答がなされていて、そうした“もやもや”の歴史的背景が整理されます。平和を願う日本人を励ます見事な一冊だと思いました。(中学生以上向き、1400円+税)

ベルマーク商品

スーパーX2 クリア P10mL

ベルマーク検収

今週の作業日:4/30~5/2
2/20までの受付分を作業中