2014年夏季号


(2014/07/14)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 前回は、子どもの本のトピックとして、昨年が絵本『ぐりとぐら』発刊五十周年、そして『ごんぎつね』の作者新美南吉の生誕百年という節目の年だったことを書きました。その時に、次回はこの話題を、と決めていたことがあり、それは今年の2月、詩人のまど・みちおさんが百四歳で亡くなられたことでした。新美南吉よりも四歳年上ということになります。

 まどさんといえば「ぞうさん」や「一ねんせいになったら」などの童謡、教科書掲載の「おさるがふねをかきました」「きりん」など、ポプュラーな作品がたくさんあり、それらは『まど・みちお全詩集』(理論社)にまとめられています。

 まどさんという存在があったればこそ、日本に子どものための詩というジャンルが確立したといっても過言ではないでしょう。

 そのまどさんは、1994年に、日本人として初めて国際アンデルセン賞の作家賞を受賞していますが、今年の3月、まどさんを追うように、二人目の受賞者が現れました。「守り人」シリーズなどでおなじみの上橋菜穂子さんで、読み物作家としては日本では初めてということになります。 その上橋さんのファン本としては、すでに2011年に『「守り人」のすべて ―守り人シリーズ完全ガイド』(偕成社)が出ていましたが、昨年自身の生い立ちや作家になるまでを語った『物語ること、生きること』(瀧晴巳構成・文、講談社)が出版され、作家上橋菜穂子の歩みや作品にかけた思いをつぶさに知ることができます。

  


  

 さて、ここからはまたグレード別に、作品を紹介していきます。まずは、お話絵本とノンフィクション絵本を2冊ずつ。

  

『ふしぎな かばんやさん』(もとしたいづみ作、田中六大・絵、すずき出版)
 道に広げられたいろいろなかばん。両手にいっぱいの荷物を持ったおばさんにかばんやさんが勧めたのは、小さなピンクのハンドバッグ。でも、それを開けると……。小さなリュックがほしいとやってきた子どもたちに見せたのは特大のリュック。でも、それを開くと……。という具合に、不思議ですてきなかばんがずらり。絵本を読む子どもたちも魔法にかかりそうです。(低学年向き、1200円+税)


『こわいドン』(武田美穂・作、ポプラ社)
 とってもこわがりのぼく。急に冷蔵庫の音がするのがこわい。トイレの天井のしみが動くような気がするのも、おしいれの戸がいつのまにか開いているのもこわい。あんまりこわくて、ついにこわいドンになった。
 『となりのせきのますだくん』の作者が、子どもの心模様を、ユーモラスに、ドラマチックに展開していきます。(低学年向き、1100円+税)


『はしれ さんてつ、きぼうをのせて』(国松俊英・文、間瀬なおかた絵、WAVE出版)
 東日本大震災で大きな被害を受けた三陸鉄道北リアス線。地震からわずか5日目に、久慈から陸中野田駅まで、そして9日目には、反対側の宮古から田老駅まで列車が走り始めていたことを、この絵本で初めて知りました。さんてつを復活させるために奮闘した人々のドラマが、生き生きと語られます。(中学年以上向き、1300円+税)


『きせきのお花畑』(藤原幸一写真・文、アリス館)
 砂漠を舞台にした写真絵本。しかし、そこに広がるのは砂の風景ではなく、広大な花畑なのです。地球上でもっとも乾いた大地といわれる南米のアタカマ砂漠。四百年もの間一粒の雨も降らない所があるというこの砂漠に、一年に一度だけ霧が発生し、その水分が砂に眠っていた植物の種たちを目覚めさせます。ピンク、赤、黄、白など色とりどりの砂漠のお花畑。それはまさに奇跡というにふさわしい自然の神秘を感じさせてくれます。(中学年以上向き、1400円+税)

  


  

 ここからは、低、中学年向きの読み物です。

  

『あひるの手紙』(朽木祥・作、ささめやゆき絵、佼成出版社)
 ほんまち小学校の一年生のクラスに届いた一通の手紙。封筒の裏には「たなかけんいち」とあり、中の便せんには「あひる」と、大きく書かれてあります。たなかけんいちさんは、小学校の近くに住む二十四歳の人で、「ゆっくりゆっくり大きくなって」ようやくひらがなが全部書けるようになったのだというのです。そこから、一年生たちとけんいちさんとの文通が始まり、子どもたちが返事に「るびー」と書いたら、今度は「いるか」と書いた手紙が届きました。
 一年間続いたしりとりの文通。さて、最後の手紙は?(低学年向き、1200円+税)


『あたらしい子がきて』(岩瀬成子・作、上路ナオ子・絵、岩崎書店)
 みきとるいの姉妹とお父さんの、三人の夕食の場面から物語が始まります。おいしくないけどしかたない、だってお母さんが出て行ってしまったのだから……と考えているみき。そこに、お母さんから電話がかかってきます。実は赤ちゃんを産んだ後、おばあちゃんの家にいるお母さんが、予定より早く帰ってくるというのです。でも、みきはうれしいのかどうか、よくわかりません。
 昨年の読書感想文コンクールの課題図書『なみだひっこんでろ』の続編で、今度は姉のみきの視点で描かれます。「お姉ちゃん」になる気持ちの複雑さを描いた作品はけっこうありますが、そのことを通じてまわりの人たちとの関係を結び直していく子どもの心のありようが、絶妙に捉えられています。(中学年向き、1300円+税)


『はじめての北欧神話』(菱木晃子・文、ナカムラジン絵、徳間書店)
 帯に「『指輪物語』も『ニーベルングの指輪』も、北欧神話から始まった」とありますが、西洋ファンタジーの源流の一つである北欧神話が、小学生にも充分読めるテキストとして、刊行されました。オージンを始めとする神々、そのライバルともいうべき巨人族、そして人間たち。その壮大な世界観が、ゲームできたえられた現代の子どもたちにどんなふうに受けとめられるのか、楽しみです。徳間書店の子どもの本・二十周年記念シリーズということで、『はじめての古事記』に続く二冊目。(中学年以上向き、1300円+税)

  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

  

『5年2組横山雷太、児童会長に立候補します』(いとうみく作、鈴木びんこ絵、そうえん社)
 雷太は、同じクラスの男子四人で「なんでも屋」を開業しています。忘れ物を取りに行ったり、犬の散歩をかわってやったりと、「お手頃価格」のせいか、そこそこ繁盛しています。そんな雷太に「児童会長に立候補してほしい」と依頼してきたのは、昨年一票差で敗れた、六年生の新藤君でした。引き受けざるを得なくなった雷太の対立候補は、隣のクラスの優等生で人気もある牧野君。新藤君を参謀役に、雷太たちの選挙戦が始まります。
 ストレートなタイトルにふさわしく(?)中味もなかなかにストレート。それをぐいぐいと読ませるスピード感にあふれ、笑いあり、涙ありの物語です。(高学年向き、1100円+税)


『ワカンネークエスト わたしたちのストーリー』(中松まるは作、北沢夕芸・絵、童心社)
 六年生の美琴は、なにかと要領のいい四年生の弟の和樹のことが気に障ります。その和樹のクラスの誰かが救急車で運ばれた日、帰ってきた和樹は、部屋にこもってしまいます。翌朝になっても部屋から出てこようとせず、美琴はあることを思いつきます。なんらかの理由で、和樹は自分が創っているロールプレイングゲームの世界の中に入り込んでいるのでは、と思ったのです。そのゲーム名が「ワカンネークエスト」。クラスメイトの男の子からゲーム機を借りた美琴は、ネットに接続して、弟の創るゲームの世界に入っていきます。
 副題の「わたしたちのストーリー」には、ゲームのストーリーというだけではないもう一つの意味が重ねられており、そこに作者からのメッセージが込められています。(高学年以上向き、1500円+税)


『クラスメイツ(前期・後期)』(森絵都・作、偕成社)
 直木賞作家でもある作者が、久しぶりに中学生たちの姿を正面から描いた力作です。入学式の日に始まる「前期」編と修了式の日に終わる「後期」編の二冊になっていて、どちらも十二の話から成っています。そう、このクラスは二十四人で、全員がそれぞれの話で主人公なのです。優等生、盛り上げ役、「きれいどころ」、嫌われ役、不登校の子……、それはまるで日本の中学校の縮図のようでいて、しかしそれぞれにこのクラスでなければ出会うことのできない子どもたちです。一年間クラス委員長を務めたヒロが主人公の第二十四話「その道の先」を読んで、ちょっと涙しそうになりました。(中学生以上向き、各1300円+税)


『伝説のエンドーくん』(まはら三桃・作、小学館)
 この作品も舞台は中学校。七話からなる短編連作ですが、こちらの主人公は、教師たちです。第一話の主人公清水勇気は新任の体育教師。始業式のあいさつで校歌の一節を歌ったはいいが、歌詞の意味を取り違えたコメントをしてしまい、早速それをやゆしたあだ名をつけられます。この学校には、なぜか校舎のあちこちに「エンドーくんがどうした」という落書きがあり、中には何十年も前に書かれたものもあるようなのです。「エンドーくん」とは誰なのか、なぜなにかにつけて、彼の名前が出てくるのか、ちょっとミステリーの雰囲気も漂わせながら、新任からベテランまで、二年生の担任たちの抱えている問題があぶりだされていきます。中学生の読者がこれをどう読むのか、楽しみなところです。(中学生以上向き、1400円+税)


『まぜごはん』(内田麟太郎・詩、長野ヒデ子・絵、銀の鈴社)

 最後は「ともだちや」シリーズなどの絵本でおなじみの、内田麟太郎の詩集です。あとがきで、詩集全体のテーマは特になく、その日その日の気分で書いたので、このタイトルにしたと書かれていますが、ほかほかで思いがけない具も入っているまぜごはん。ユーモアの味付けの中に、自分の心の風景と向かい合う詩人の感性が、きらりと光っています。(子どもから大人まで、1200円+税)

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