愛知・オルタナティブスクールあいち惟の森で尾木直樹さんのオーサー・ビジット


(2021/12/28)印刷する

 「なかなかややこしい時代になったわよね。その中でもみんな元気に遊んでる。感心しちゃう」

 愛知県名古屋市にあるオルタナティブスクールあいち惟=ゆい=の森(青野桐子校長)で、子どもたちに教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんが語り始めました。本の作者が学校を訪れ、特別授業をする「オーサー・ビジット」の始まりです。ベルマーク財団のソフト事業「教育応援隊」のひとつで、朝日新聞社との共催です。

子どもたちが描いた「尾木ママさんようこそ」

 「オルタナティブスクール」は、通例の学校という枠にとらわれず、独自の理念で個性的な教育を施しているのが特徴です。惟の森は、丘の上にある平屋の一軒家が校舎。ここで小中学生27人が学んでいます。広い庭が校庭です。特別授業のあった12月13日、尾木さんは2時間も早く到着しました。興味を抱いた尾木さんの希望で、普段の子どもたちの様子を見学するためです。

「自由活動」を見学

 この日は月曜日。毎週、3限は「自由活動」の時間です。何をして過ごすかは子どもたち自身が決めます。外で走り回ったり、スポーツをしたりする子もいれば、室内で仲間とともにカードゲームをする子もいます。自分の興味を見つめ、好奇心を満たし、自立心の育成につなげる活動です。

子どもと一緒にマシュマロを焼く尾木さん

 校庭に繰り出した尾木さんは、七輪で火を焚いている子どもたちに歩み寄りました。ししゃもやマシュマロを焼く準備をします。まずはそっと見守る尾木さん。すると、子どもたちが枝に刺したマシュマロを差し出しました。一緒に焼こうというのです。「まあ、うれしい」と尾木さんは顔をほころばせ、子どもたちと同じ目線になるようしゃがみます。あっという間に輪に溶け込みました。

尾木さんは掲示物や読書スペース、畑などにも目を向けた

 校内には子どもたちの工作や、新聞の切り抜きをまとめた掲示物などが置かれていました。尾木さんはそれを熱心に見学。みんなのアイデアで作られたという読書スペースや、あちこちにある本棚などにも目を向けていました。

 「みんなを見てると、尾木ママは小学校の行事を思い出したわよ~。なんだと思う? うさぎ狩りよ~」

 この衝撃的な単語が、しっかり子どもたちの心をつみました。滋賀県の山村で育った当時の思い出話です。「学校裏の林で、ちりとりやバケツを持って音を出しながら、みんなで前進するの。進んだ先にはネットが張ってあって、うさぎがひっかかるの」

 みんな興味津々。尾木さんは、子どもたちが自由に遊ぶ姿に、自身の小学生時代を重ねたようです。


 そこから本題へ。尾木さんが事前にみんなにお願いしたアンケートには、「この学校を選んだ理由」という問いがありました。多かった回答は「先生が怖かったから」。それを理由に他の学校から移ってきたというのです。

 尾木さんによると、さまざまな理由で学校に行かなくなる、いわゆる「不登校」と呼ばれる小中学生は現在20万人もいるそうです。さらに「最近は、完全には休まない『行き渋り』があるの。そのような子どもは33万人もいる」と説明します。合わせると53万人。その責任が大人にあると尾木さんは指摘し「みんなには現状を変えていく主役になってほしい」と語りました。

 アンケートでは「尾木ママに聞いてみたいこと」も募りました。それに答えていきます。まずは「オルタナティブスクールについてどう思いますか?」という質問について。「一言で表すと『理想の学校』。個人に応じた勉強をするところが『学校』というのが実は国際水準」と尾木さん。オランダは4歳から、韓国は5歳から、その体制が出来ているそうです。

 実際に惟の森では、理解の進捗にあわせた「個別学習」や、「やってみたい!」という気持ちを体現するカリキュラムが組まれています。このような学びを取り入れようと現在試みている自治体もあるそうで、「惟の森はモデルになると思うの」とその意義を伝えました。

 「尾木ママは子どもとどういう風に接しますか?」という質問もありました。これに尾木さんは「小さい背のせいか、下から皆さんのことを尊敬するように見上げることしかできないのよ~」と答え、子どもたちはゲラゲラと大笑い。そこで尾木さんは「学校の先生は『子どもの声の代弁者』だと思う。これからは子どもと大人がパートナーシップで生きていく時代」と続け、「子どもをリスペクトすること」の重要性を訴えました。

尾木さんに手作りの図鑑を手渡した低学年の子どもたち

 前半が終わって休憩時間に入り、控え室にいた尾木さんのもとに4人の子どもがやってきて、手作りの冊子をプレゼントしました。水族館の見学をまとめた「海の生きもの図鑑」です。最後にあるQRコードから実際の写真を見ることができるそうです。「こんな分厚いもの、よく頑張ったわね~、宝物にするね」と尾木さん。子どもたちは直接渡すことができた嬉しさと、褒められて少し照れくさい気持ちからか、走って戻っていきました。

HQ(人間性指数)の大切さを説いた

 改めて拍手で迎えられた特別授業の後半。尾木さんは「なぜ?」と問いかけることの大切さを話したうえで、こう問いかけます。「いま国際社会で言われる『学力』って何のことだと思う?」

 答えは「生き延びる力」でした。「暗記や、ペーパーテストで100点取ることじゃないの」と尾木さん。それは、新しい価値を創出する力、バランス力、自分を客観視する力、という三つの力から構成されているそうです。

 これを惟の森の活動にあてはめてみると、全校ミーティングで仲間と力を合わせてアイデアを出すこと、少数の意見にも耳を傾けて取り込むこと、毎週金曜日には次週の予定を自分で組むこと、などに該当します。つまり「実はみんなの毎日の活動が、ものすごくトレーニングになってるの」と尾木さんは明かします。自分たちの通う学校が「理想の学校」であり、国際基準にかなうものだと知った子どもたちは、目を輝かせていました。

 尾木さんによると、AIの登場で学力の定義は大きく変わりました。AIを必要とすべきところで上手く使うためにも、IQ(Intelligence Quotient=知能指数)より、HQ(Humanity Quotient=人間性指数)という概念が重視されるのだそうです。

尾木さんを囲んで「はい、ポーズ!」

 授業を終えて、桑山くるみさん(小4)は「不登校が20万人もいることがやばいと思いました」と強い危機感を覚えたようです。石川陽向さん(中2)は、尾木さんが中学や高校で先生をしていたことに触れ、「先生と言うと『教える人』というイメージがあるけれど、尾木さんは実体験から『サポート』という意味合いを込めていたのが印象的だった」と話してくれました。

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